メフィスト死す?そんな~!
ホントに死んじゃうのでしょうか?でもその前にモフ子も何か用があるようです。
さて、メフィストが仕事している間に俺は宿へ戻って、次の本の原稿を書き出しておくか。次のは少し長いからな。51エピソードある。本が5冊できるな。次の書籍は『最下層のヴァンパイアですが,飯が食えるようになりました。』(https://ncode.syosetu.com/n4361kk/)だ。女子の温泉入浴シーンもあるし、サキュバスも出てくるし、さらには人魚さんとエルフさんも出てきてサービスてんこ盛りだ。バンドのライブもあるぞ。5冊だから5回に分けて売るか?待てよ。そんなことしていたらメフィストとの契約期間が終わってしまうじゃないか。せっかく高位の悪魔を呼び出したのに、露店で本を売っていただけで終わりというのはあまりにももったいない。どうしたものか?
まあ、おいおい考えるとして、まずは原稿だ。記憶に頼って物語を復元するって、俺はなかなかすごいんじゃないか?しかしまあ、主人公が最弱って物語、やっぱあまり需要はないのかな?たいていチートで最強になって、ドラゴンボールの世界みたいに強さのインフレーションが止まらないことになるからな。みんなそういうのが好きなんだ。トントン。うむトントン拍子に強くなる設定...トントン...おっと、誰かがドアを叩いている。「どうぞ!」
「こんにちは、モフ子です。」
「やあ、モフ子、どうしたんだい?」
「あのね、お兄さん、助けて欲しいの。パパとママが市場にお店を開いて木の実を売ろうとしたら、町の人たちが、獣人は店なんか出すな、ってパパとママをいじめるの。」
なんと、異世界ものでたまに出てくる獣人差別、この異世界にもあったか。よし、ここは俺が出向いて説教してやろう。
「はい、ちょっと待ちなさい、町の皆さん、落ち着いて。」
「なんだてめえは?」
「関係ないなら引っ込んでろ!」
「いやいや、関係ありますから。俺はそこのモフ子の友だちなんだ。獣人は店を出すなはひどくないですか?」
「はぁ?あたりまえのことだろ。ここは人間の市場だ。薄汚い獣人に店を出されちゃ困る。」
「そうだ、そうだ!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。それ、あきらかに差別ですから。」
「差別ってなんだ?そんな言葉知らねえぞ!」
「差別ってのは、たとえば種族が違うという理由で不利な境遇を強いたり...」
「はあ、てめえ何言ってる?えらそうに難しい言葉を並べやがって、俺たちをバカにしてるのか?」
「あ、こいつ、露店で本を売ってた男だ。本を書ける頭良い奴ってか?威張るんじゃねえぞ!」
「難しげな言葉を並べるくらいしか能がねえくせによ!」
「何か役に立つものを作れるのか?魚は釣れるか?狩りに行って肉を持ってこれるか?」
「何の役にも立たねえだろ?はぁ?言いたいことがあるなら言ってみろ!」
やばい、これは収まりそうがない。人文知は役立たずってタイトルそのまんまじゃないか。ううう、言い返せない。SNSで炎上して何も効果的な反論が言えなくなってる状況と同じだ。
「あの、皆さん、争うより仲良くしたほうが幸せなんですよ~」
「バカか?獣人と仲良くしたらあいつらはつけあがるだろ。結果、こっちが不幸じゃねえか。」
「そうだ、そうだ!」
この「そうだ、そうだ」の輩、マジで腹立たしい。こうして大衆を忌避する知識人は世捨て人になる....なんかこれガンダムでシャアが言ってたよな...ええい!シャアだけに、ええい!
「そこのあなた、相手がつけあがると、その結果自分が不幸になるというのは、間違った選民思想によるものです。あなたが上位に位置すると誰が決めたのです?神ですか?ならば、毛色の違う別の民族がこの地にやってきて、あなたより上位であると主張して、差別、つまりあなたたちを自分たちより不遇な状態にして当然だという態度を取った場合、あなたはそれを受け入れるのですか?できませんよね?力の違いによっていやいや受け入れたとしても、腹の中は煮えくり返りますよね。差別される側の気持ちはそういうものです。理解頂けましたか?」
町の人たちは小難しい長広舌を聞かされて、しらけた顔でちりぢりに散っていった。成功したとは言いがたいが、ともかく店は守った。
「お兄ちゃん、ありがとう。かっこよかったよ。」モフ子が精一杯の笑顔でねぎらってくれた。
「本当にありがとうございます。モフ子の両親も頭を下げた。
宿に戻ってしばらくすると、廊下の向こうで騒ぎがあった。ざわめきが何か緊急事態が起こったことを予感させる。俺は部屋を出て騒ぎの場所に向かった。メフィストフェレスがボロボロになって倒れていた。
「旦那、やられました。やはり私は荒事に向かない...」身体のあちらこちらが焼け焦げている。
「どうしたんだ、メフィスト!」
「ドラゴンに挑んだのですが、炎のブレスを食らってしまいました。地獄でゲヘナの炎に触れたことはありますが、ドラゴンのブレスはそんなものではない。悪魔のマントで身を覆っていなければ一瞬で消し炭にされていたでしょう。」
「メフィスト、すまない。無理な命令を出してすまなかった。死なないでくれ!」
「もうここまでのようです...旦那...」
「メフィストー!」
「クエストの...報酬は...」
「良いんだ、そんなもの、もう...」
なんと、無慈悲にもドラゴンのブレスに焼かれて焼け焦げになってしまったではありませんか。