エミリーがアイテムボックス欲しいんだってよ
エミリーがまるで作者から忘れ去られていたようで――まるでではないのです――出番が少ないことに怒っているようです。
「おい、プリモ、アイテムボックス貸してくれ!」エミリーがやってきて、イヤと言えない圧を掛けて要求した。
「良いけど、長いクエストにでも出かけるのか?」
「ああ、自分専用のアイテムボックスが欲しいから稼いでこようと思ってな。」
「1人で行くのか?危ないからパーティーを組めよ。」
「大丈夫だろ。敵は全部これでぶっ殺す。」エミリーは腰のホルダーからピースメーカーを抜いた。
「敵は複数で来る場合が多いんだ。1体を倒している間に別の敵から攻撃されるぞ。」
「そのための二丁拳銃だ。」エミリーは左のガンホルダーからもう一丁のピースメーカーを抜いた。
「そしてその間に3体目の敵が攻撃してくる。」
「1体目はもう死んでいるから、こいつでまた倒す。」
「そしていつか弾切れになる。」
「うるせえっ!大丈夫だと言ったら大丈夫なんだよ。」
「エミリー...」俺は絶妙のタイミングで壁ドンしてやった。
「エミリー、君はたしかに強い。非常に強い。だけど、無理してはだめだ。人間は1人では弱いんだ。タイマンで熊や虎に勝てる人間はいない。鹿にだって負けるだろう。だけど、まだ武器もろくに持っていなかった原始の人類でも、仲間と協力することで野牛やゾウも狩ることができた。パーティーというのは、そうした人類の原点に立った狩りのスタイルなんだ。せめて3~4人、仲間を連れて行ってくれ。」
「わかったよ。誰がお奨めだ?」エミリーは素直に折れた。ソロのシューターが危険だということは本能的に感じ取れたのだろう。
「そうだな。一般的な4人パーティーなら、盾役のタンク、これはフロントで敵の攻撃を受けて耐える、ヒーラー、回復役は必須だ、そしてエミリーがシューターだから、あと1人、魔法攻撃が有効かな。」
「で、そのタンクとやらは誰だ?そんなに頑丈そうなのは見当たらないが。」
「そこなんだよ、うちの弱点は。以前はフレイヤという優秀なタンクがいたんだが。」
「フレイヤの代わりに来たのがクラリモンドではな。」エミリーは銃をくるくる回しながらクラリッモンドをチラ見した。
「うちのメンバーは、くノ一双子がガンナーで剣士、エルフ2人がシューターで風魔法、どちらもフロント向きじゃない。となると.....狩る敵の種類にもよるが、オーバーヒール部隊。」
「なんだ、それは?」
「天使2人を後方において、常にヒールをかけまくって前衛の損傷をゼロにし続ける。前衛は、翡翠さんの分身かJK4人組。分身はレベルアップしないのでJK4人組だな。エミリーは遊撃手として自在に攻撃して倒してくれ。あと1人、魔法使いを入れると安定する。メートヒェンを連れて行こう。」
「ずいぶん増えたな。天使2人、JK4人、メートヒェンと私、合計8人か。」
「うん、これで安全に稼げる。」
「なんだか最初の思惑とずいぶん違ったけれど、まあ安心安全が一番だしな。よし、ではゴールデンスパイダーを狩りに行くか。」
「おい、待て!あいつら、モンスターのくせに連携するし、糸を攻撃と防御に使うし、HPが高くてなかなか倒れないしで、あまり美味しい敵ではないぞ。1匹に銃弾5発ぐらい必要だ。コスパとタイパが悪い。」
「そうなのか?カネを稼ぐならあれだと誰かに聞いたんだが。」
「王都のダンジョンにはいないが、あの魔王城があった町のダンジョンになら、貴金属や宝石を落とす敵が出るぞ。行くなら俺も付き合おう。あの町には知り合いがいて、今どんな様子か気になるし。」
「よし、決まりだな。すぐ出発しよう。」
「よし、ではエラの許可を取ってくる。メンバーをこれだけごっそり連れ出すから、店も縮小して営業しなければならないからな。」
「さて、町に着いた。おまえらは先にギルドへ行ってろ。俺はちょっと挨拶してくる。」
モフ子は元気にしているかな?市場に行けば会えると思うのだが。
「お兄ちゃん!」
「やあ、モフ子。元気にしていたか?」
「うん、学校でいっぱい勉強してるよ。もうすぐ卒業できるんだって。」
「ほう、早いな。」
「うん、一緒に入学した子の中で一番早いよ。」
「モフ子は頭が良いからな。」
「うん、でね、卒業したら...奨学金をもらって上の学校へ行けって、先生が。」
「ほう、そりゃすごい。」
「でも、お父さんとお母さんは、遠くへ行くのは心配だって。」
「モフ子はどうしたいんだ?」
「もっとお勉強したい、王都の学校で。今度は人間と一緒なんだよ。」
「王都なら俺もいるし、お父さんとお母さんも安心なんじゃないか。ちょっと声をかけてあげようか?」
「うん、お願い。」
「あ、プリモさんじゃありませんか。お久しぶりです。」喪服の両親が頭を下げた。
「ちょっとこっちに用事があったからね。モフ子ちゃんが卒業だって?おめでとう!」
「はい、ありがとうございます。プリモさんのおかげです。モフ子に教えてもらって、私も家内も読み書きができるようになりました。」
「それは本当に良かった。ところで、モフ子ちゃんの卒業後の進路だけど、奨学金で上の学校へ行けるんだって?」
「はい。でも王都は遠いので少し心配で。」
「王都で俺は店をやってるので、何かあったら俺を頼れば良い。何も心配はないよ。」
「お父さん、お母さん、私、王都でいっぱい勉強して帰ってくるね。」
「わかった、モフ子、がんばっておいで。」モフ子の両親は俺にまた頭を下げた。
モフ子は王都で勉強できることになって良かったですね。大きくなったら何になりたいのかな?




