異端尋問官ハインリヒ・クラーマー
JKが少し強くなるようです。
異端審問官ハインリヒ・クラーマーは、異世界に転生させられるところだった。狭間の場所で女神が登場して彼と対峙する。
「面を上げよ、かつて異端審問官だったハインリヒ・クラーマーよ。」
「貴様は誰だ?人の形を取ってはいるが、魔物かあやかしか?」
「私は狭間の地の女神。異世界へ転生する者に助言と祝福を与える者です。」
「女神だと?現身の姿で顕現する神など偽神にすぎない。それとも神の試練としての誘惑にして罠か?ならば私には無縁のもの。効果はない。信仰の力を強めれば幻は消える。」
「ほう、これが幻か?」女神はクラーマーにデコピンを食らわせた。
「貴様、何をする!」クラーマーは怒りで顔を真っ赤にした。
「何をしたって、デコピンさ。もっとも今は検索しても犬の写真ばかりだがな。」女神はニタニタしている。
「このわしに無礼を働くとは、火刑に処される覚悟はあるのだろうな?」
「火刑とはこういうことか?」女神を自ら炎を纏った。赤い炎、紫の炎、そして青い炎。温度はそのたびに高まり、クラーマーの法衣が煙を出して燃え始めた。
「熱いっ!やめろっ!」法衣を脱いで地面にたたき付けながら火を消そうと奮闘するクラーマー。「水を、水をくれっ!」
クラーマーの頭上から大量の氷水が振ってきて、裸のクラーマーはずぶ濡れになった。
「地上ではずいぶんたくさんの人々を無慈悲に燃やしたらしいが、燃やされる熱さがわかったかな?」
「神よ...」震えながらクラーマーは天を仰いだ。「私が信仰のためと信じて行ってきたことが神の真意に反していたのでしょうか?これはその報いとして与えられた苦行なのですか?ならば受け入れます。凍え死んでも、焼け死んでも、それが神の思し召しなら受け入れましょう。」クラーマーは裸のまま十字を切って手を合わせた。
「上を向いても誰もおらんぞ。とりあえず、異世界に送り込まれる前に何か言いたいことはあるか?何か願いはないのか?必ずしもかなえてやれるかわからんが。」
「異世界で信仰を広める力が欲しい。」
「新しい教団でも作るのか?それは無理だな。あきらめろ。」
「正義を貫く力が欲しい。」
「何だ、戦闘力や魔力が欲しいのか?」
「悪を滅して魂を救済する力。浄化の炎を自在に繰り出せる力。」
「なんだ、結局は火力が欲しいだけではないか。火のチートスキルを与えると異世界が焼け野原になるからダメだな。おまえには、そうだな、餓死しないスキルをくれてやろう。異世界に落ちたら、尻の穴から無限にパンが出る。それを食ってれば餓死することはない。では、行ってこい!」
「毎週1回は休店日にしましょう。」エラが店長権限で宣言した。
「やった!クエストでガッポリ稼ぐぞ!」物欲に目覚めたエルフはやる気満々である。
「ねえ、セレスちゃん、ステラちゃん、お願いがあるの。今度クエストに付き合ってくれない?」JK4名が天使をリクルートだ。
「私たち、攻撃力がゼロだから無理だよお。」
「背後から治癒魔法をかけて欲しいの。モンスターは私たちが倒すから。」
「でも、そうするとヘイトを集めて私たちが攻撃されないかしら?」
「遠隔攻撃のないモンスターだから大丈夫。今度の相手はゾンビよ。私たち4人でファランクスを組んで討ち漏らさず進むの。相手は大勢なのでたまにダメージを食らうから、そのときすぐに回復して欲しい。私たち、あまり痛覚はないみたいなので、こんな姿だけど、攻撃されて血を流しても怯まない。」
「わかったわ。頼もしくなったわね、JK隊。」
「うふふふ、セレスちゃんとステラちゃんに手伝ってもらえばポーション代が節約できるわ。」
JK隊は驚くほど強くなっていた。下位モンスターといえどゾンビはHPと攻撃力が高く、そのうえ大軍で行動するので、低レベル冒険者にとっては非常に危険な相手である。だがJKたちはほぼ一撃で敵を屠り、死体の山、いやゾンビはすでに死体なので何と言うべきか、腐肉の山を築いていった。経験値カウンターがコロコロ回って次々にレベルアップするJK隊。小さな傷は背後から援護する天使たちの治癒魔法ですぐに快癒する。まるでブルドーザーのようにゾンビを打ち倒しながらダンジョンの一本道を進むJK隊。
「そろそろ引き返したほうが良いわよ。」背後からセレスが声をかける。
「まだまだやれますけど...」JK1号が振り返って返事をしたとき、彼らの前に新しいモンスターの舞台が現れた。マミーだ。同じく不死者系ではあるが、ゾンビよりかなり力も体力もある。
「あーあ、出ちゃった。このあたりでモンスターの生息が変わるから引き返そうって言ったのに。」セレスがため息をついた。
「セイクリッド・サンクチュアリー!」ステラが唱えた。
「あら、あなた何したの?」セレスが驚いて尋ねる。
「なんか新しく生えた翼のあたりからモニョモニョッと呪文が湧いてきた。」
「うりゃっ!」JK2号がマミーの胴を払った。マミーは簡単に倒れた。
どうやらステラの呪文はフィールドを聖属性に変えて闇属性や不死者の敵を弱体化するらしい。JKたちは次々と強打を放って敵を打ち倒し、すごい勢いでレベルアップした。
「セレスさん、ステラさん、ありがとう!」JKたちは大量の素材を拾って帰路についた。
「ここだな、異端の巣窟は...」ハインリヒ・クラーマーはコンカフェの前に立った。
「あら、お客さん?...え?」エラは青ざめた。
「どうしたの、エラ?」...あ!」メロも固まった。
「お客さん、ちょっと身なりがそれでは...」近づいたファザリアをローブの客は杖を上げて制した。
「お客さん、うちの店にドレスコードはないけれど、さすがにそんなボロボロでは店に入れるわけにはいきませんよ。」俺は経営者然として男の前に立ちはだかった。
「黙れ!」男は杖を掲げて呪文を唱えた。いや、呪文ではなくて祈祷の言葉だった。
「この場にいる異端をすべて差し出せ!」男は静かに、しかし有無を言わせぬ迫力で命じた。
「異端とは私のような者ですか?」毅然として翡翠が男の前に出た。
「ふん、異郷の異教徒か。当然おまえも異端だ。」
「私たちも?」ミナルナがニコニコしながらユニゾンで男の前に出た。
「得体の知れない双子か。その服装ならおまえたちも異端だな。」
「私たちも当然...」エラとメロが言いかけたとき、男は言った。「魔物は異端以前に滅する。」
「そんな物騒なことを俺の店で言わないでもらえるかな?営業妨害で警察を呼びますよ。」俺は富裕層の経営者のオーラを纏って男に注意した。
「なんか店が汚い臭いがしますの。」セレスとステラが出てきた。
「あ、あなたがたは...」男は動揺した。
「店が汚れるので浄化しますの。」セレスが呪文を唱えると、ボロボロで汚れまくっていた男の法衣がクリーニングされた。垢まみれの身体もきれいになった。
「御使い様...ありがとうございます。」男はセレスとステラにひれ伏した。
「あなた、地上で好き勝手に神の名をかたり横暴の限りを尽くした異端尋問官ですね?」セレスは男に厳しい目を向けた。
「我が真の信仰のため、神の権威を守るためでございます。」男は天使たちを見上げた。
「ふん、神様はそんなこと望んでないし、何なら怒っていたし、恥を知りなさい。」
「なん...と...なん...ですと...」クラーマーは怒りで真っ赤になった。
「もうキモいから帰って!」ステラはしっしっと追い払うように手を振った。
「貴様ら、御使い様の姿を借りた偽物だな。その所業、万死に値する。打擲するゆえそこになおれ!」クラーマーは杖を振り回した。
「ちょっと、何するのよ!天使に乱暴を働いたら神罰が下るわよ!」セレスは杖を避けて宙に飛んだ。
「やーい、おまえが異端だ。ばーか、ばーか!」ステラがあっかんべーをした。
「せっかくきれいにしてやったのに、また肥だめにでも落としてやろうかしら。」セレスはクラーマーを抱き抱えて上空へ飛んだ。
「あ、待ってください!」クラリモンドが出てきた。
「その方、愛を知らずに齢だけを重ねて、すっかり心が干からびてしまったのです。」
その言葉を聞いてクラーマーははっとした。神の愛についてならさんざん言葉を紡いできた。しかし、この美しい女が口にする「愛」、それは何だ?
「私はもう愛を与えることも愛を教えることもできません。でも、この方が死を乗り越えた先で愛を知ることを願うことはできます。このお方にもう試練は必要ありません。必要なのは受け入れてくれる愛、抱きしめて飲み込んでくれる愛です。小さな子リスになるべきなのです、このお方は...」
「良く言いました、クラリモンドよ...」優しい、というより甘ったるい声が響いた。
「この子リスは私が連れて帰りましょう。愛と悦びに満ちた場所に落としてきましょう。」そう言うと甘やかしの女神は無数のマシュマロを周囲にまき散らして、クラーマーをさらって姿を消した。
なんか変なのが転生してきましたが、甘やかしの女神に任せて一件落着ですね。