エラとメロの新衣装、そして王様への謁見
サキュバスでも衣装選びは楽しそう。別人のようになるものですね。
「ねえ、メロ、そろそろこのバトルモードの衣装、飽きてきたわね。」
「うん、これ元々チビガキのころのだし、もっと大人モードのが欲しい。」
「きょうはお店もお休みだし、新調しに行こうか?」
「うん、行こう!」
「このお店、良さそうなんじゃない?」
「オートクチュール” Les Ailes Noires (レ・ゼール・ノワール)”、黒い翼か。私たちにピッタリね。入りましょう。」
「いらっしゃいませ。あら、珍しいお客様。歓迎いたしますわ。うちの店名にピッタリ!」
「予算はたっぷりあるの。似合いそうなのを見繕ってくれるかしら?」エラが、言ってみたかったけど言ったことがない台詞を言った。
「お任せください。お二人とも気品とかわいらしさが同居していて、衣装もきっと喜ぶことでしょう。では衣装室へどうぞ。」
「きゃはははは!何それ!もうエラ成分が1ミリもないじゃん!」メロが指差して笑い転がっている。
「勧められるままに着てみたらこうなったの。ウイッグにカラコン、メイクもフル改造。」
「それ、ひょっとして結婚式?それとも戴冠式?ウケるんですけど!」メロは笑いが止まらない。
「着替えるわよ。次はあんたの番よ。」
「は?サキュバスというよりエルフ姫だよ、それじゃ。姫騎士感が半端ない。キャラ崩壊だね。」エラは手厳しく感想を述べた。
「わかったわよ。着替えてくる。次はエラだよ。」
「さっきよりエラっぽくなったけど、なんだか動きにくそう。バトルのときに裾踏んで転ぶんじゃない?」
「たしかに。バトル衣装を買いに来たのに、なぜか舞踏会衣装みたいなのばかり勧められる。マダムにこっちの意図が伝わっていないわね。仕切り直しが必要だわ。ちょっと、マダム!」
「はい、何でございましょうか?」
「素敵な衣装ばかりでしたけど、私たちは舞踏会用の衣装ではなくて、バトルのときの戦闘服を買いに来たの。もっと機敏に動けてなおかつかわいくてかっこいい服、ないかしら?」
「では、衣装室へどうぞ。きっと気に入っていただけると思います。」
「それよ、エラ、それピッタリ!まさにサキュバスって感じ!」メロは目を丸くして喜んでいる。
「お客様もこちらへどうぞ。お似合いになると思いますよ。」
「うわー、かわいい!メロめっちゃいけてるよ、それ!」エラは手を叩いて喜んでいる。
「お会計は?」二人はユニゾンで尋ねた。
「2着同時ご購入で値引きさせていただいて、10000ゴールドです。」
「あら、お安いのね。」エラはうわずった声で脂汗を流しながら財布を開いた。
「ねえ、エラ。せっかく新衣装が手に入ったから、これからクエストに行ってこない?動きやすいしカッコいいしで、モチベがダダ上がりなので戦ってみたい。」メロは衣装代の金額などまるで眼中にないようだ。
「そうね、できるだけ報酬の高いクエストに挑みましょう。」エラは新衣装代の半分は回収する気満々だった。
そのころ俺たちは王宮の待合室で、待っていた教育庁からの書類を受け取った。これを王宮警備隊に渡して謁見を取り次いでもらう。
「大賢者プリモ...ではなかったの、作家のプリモよ、良く来た。」
「ははっ、このたびは謁見の栄を賜り、誠に光栄に存じます。」
「用向きの内容は書類でだいたい把握したが、そちから直接話を聞きたい。」
「はい。ご提案させていただきたいのは、王国全土に獣人学校を設立していただきたいということです。獣人は読み書きができないということで人間に差別されております。ですが、彼らは教えてやればすぐに読み書きを覚えるのです。山向こうの町、私が魔王城を攻略した町ですが、そこでは町長が私の建議を受け入れて獣人学校が開かれ、多くの獣人が読み書き計算を覚えました。その結果、仕事の効率が格段に改善され、生産性が大きく上がったのです。読み書きができれば書類を通して意思疎通が簡単に共有され、何度も仕事の手順や内容を伝える必要もなくなりますし、代数幾何の基本を押さえておけば、建設現場での作業の効率も驚異的に高まります。そのうち税務報告で確認できるようになると思われますが、あの町の生産性は他の地区の3割増ぐらいになっていると思われます。そして、利点は生産性だけに留まらず、人間は読み書き計算を覚えた獣人たちに敬意を持って接するようになり、町の雰囲気が和やかになりました。住民がお互いの尊厳を認め合う社会、それは良い社会です。」
「ふむ、良く言った。教育庁から回ってきた書類を読んだ瞬間に、わしもそちの考えに共鳴しておった。ただ、本人の口からその良き話を聞いてみたくての。あいや、わかった、プリモよ。王国全土に獣人学校を設置しよう。獣人たちには無料で教育を受けてもらい、この国の発展に寄与してもらおう。」
「ははっ、ありがたきお言葉。その御意、しかと承りました。」
「ところでプリモよ。このあと王女に会ってくれまいか?実は王女、そちの物語の大ファンなのじゃ。できればサインなどしてもらえるとありがたいのじゃが。」
「お、畏れ多いことです。はい、王女様にお目にかかって、読んでいただいた感謝を伝え、サインも書かせていただきます。」
「プリモよ、面を上げよ。」
「ははっ、王女殿下にあらせられましては...」
「そのような舌を噛みそうな言葉遣いはいらぬ。ふつうで良い。」
「はい、ありがとうございます。」
「妾はそちの物語の大ファンなのじゃ。強くてカッコいい女子がたくさん登場するしの。金竜疾風のくノ一とか巫女の御巫翡翠...」そこまで言いかけて王女は俺の隣に侍る翡翠の姿を目にして固まった。
「お初にお目にかかります、王女殿下。御巫翡翠でございます。」翡翠は凜々しい声で自己紹介をした。
「な、なんと...本物の翡翠様が...およ、あれ、感動で言葉が...」王女はオタクがアイドル本人を至近距離で見たような反応を示した。
「王女殿下、翡翠は女神の気まぐれでこの世界に転生させられたのでございます。それゆえ私が原作者として責任を全うするため、一緒に行動しております。」
「そうであったか。よし、翡翠よ、握手してくれ。そう、両手でじゃ。」王女は抱きつかんばかりの勢いで翡翠に迫り両手を掴んだ。
「できることなら翡翠を近衛の女官として身近に置き、我が身辺を守らせたいところだが、さすがにそんなわがままを言うわけにもいくまい。翡翠よ、また会いに来てくれるか?」
「はい、王女殿下。たくさんお話をしましょうね。」翡翠は慈しみの笑顔で王女の手を取った。
王女が萌え尽きたので、俺たちは蔵書にサインをしてから王宮を後にした。
まさかの翡翠オタクの王女様が登場でした。