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巫女とサキュバスと異世界と、そして人文知は役立たず  作者: 青水


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フレイヤの帰還、そして王宮へ

フレイヤ、金に絽に輝くまばゆい女神、今まで本当にありがとう。女神の舞、本来なら戦死して女神の館に迎え入れられた戦士だけが見ることを許された尊いものなのに、コンカフェの客たちも感動していました。

 目覚めたのは明け方前だった。周囲には誰もいなかった。俺は太陽が昇る前に魔王城攻略の原稿を書こうと思った。だいたいは記憶のままに書けば良いのだが、魔王の天水美夜のことはさすがにそのまま書けない。クエストの報告のときも何も証拠の品がなかったので、異次元からの干渉のポータルということにして、倒せないけれど接触界面の空間位相を反転させることによって無効化したというオチにした。今回も報告以上に屁理屈を塗り重ねて小説らしく文字を連ねよう。

 小説もできあがり、すっかり日も高く昇った外に出てみると、フレイヤがいた。黙って空を見上げている。もうそろそろなのだろうか。振り返ると、翡翠以下、全員が出てきていた。


「もうそろそろでしょうか?」翡翠が尋ねた。


「おそらくな。」


挿絵(By みてみん)


「あれ、なーに?」メロが空を指さして言った。


 2匹の猫が戦車を牽いている。これがエッダに描かれたフレイヤの乗り物「猫チャリオット」だ。もちろんただの猫であるはずがない。チャリオットを牽けるだけの力を備えた契約霊獣だろう。大きさもチーターやピューマぐらいある。


「スコル、ハティ、迎えに来てくれたのか?」2匹は巨大だが猫らしい仕草でフレイヤに甘えている。


挿絵(By みてみん)


「フレイヤさん!今までありがとうございました。」翡翠が前に出て頭を下げた。


「フレイヤさん、女神なのに店で接待なんかさせてしまって...」エラが両手を絡めてもじもじしている。


「あのダンス、すごくキレッキレだったよ。」ミナルナが目を輝かせて褒め称えた。


「みんな、この1週間、とても楽しかったぞ。忘れられない思い出になった。ありがとう!」フレイヤが大きく手を振った。


 フレイヤを乗せたチャリオットが宙に浮かび、やがて円を描きながら上昇して見えなくなった。さて、小説も書き終えた。フレイヤも無事に戻った。コンカフェは順調だ。今のところ、これといって心配の種もない。こんなときこそ何か、やり忘れていたかもしれないこと...あったのではないか?


「なあ、ファザリア。獣人学校へ行って読み書きを習ったと言ってたが...」


「はい、5日通いました。たいていは2週間ぐらい通うようですが、私はすぐ読み書きを覚えてしまったので、やめました。教室の座席数も限られていましたし、必要とする仲間に機会を譲ってあげようと。」


「そうか。5日で読み書きを覚えたなんてすごいな。」


「言葉は知っているわけですから、どの文字がどの音を担当するかさえわかればたいしたことはありません。」


 なるほど。日本語のように漢字が入って文字の種類が何千もになると大変だが、文字1つが音1つを担当するだけなら、言葉さえ知っていれば、習得するのにそれほどの苦労は必要ないのか。あれ、でも英語は...?ええい。やめだやめだ!英語はむちゃくちゃだ。考えるだけで腹が立ってくる。しかし、あの町では上手く獣人学校の設立にこぎ着けたが、王国全土となると、やはり王様にお願いするしかなさそうだ。どうしたものか?


「ねえ、プリモ、難しい顔して何考えてるの?お姉さんに相談しなさい。」エラが寄ってきた。


王様のことを考えた途端にエラ...なんかトラブルの予感がする。おっと、フラッシュバックだ。――「王様~、こっち、こっち、エラが会いに来ましたよ~!」――ああ、蘇った、あの全国民が凍り付いた瞬間!エラなら王様からだって「薄く」吸ってしまいそうだ。あのときは馬から吸ってたしな。


「いや、何でもない。きょうもがんばろうな。」


 いかん、いかん、エラを王様に近づけては大惨事なる。王様に近づけて良いのは翡翠さんだけだ。


「ねえ、プリモ~、フレイヤさんも帰っちゃったことだし、新体制を整えるためにきょうは閉店にしましょうよ。」エラがニコニコしながら提案した。


「わあ、それ賛成!私たち、クエストに出かけて稼いでくる!」エルフたちは消費の喜びを覚えて貪欲になっている。


「私たちも稼ぎに行ってこようかな。サクッと片付けて、午後は優雅にショッピングと...」ミナの言葉に続けてルナが、「美容やリラグゼーションで女を磨こう!」と息がピッタリだ。


 経営者として、ここは従業員の意向を大事に汲み上げよう。きょうは臨時閉店だ。JKたちも着の身着のままで魔王城から逃げ出してきたので、貯めた給金で買物をしたいだろう。セレスはステラを連れて教会へ行き、羽根の再生について相談すると良い。エラとメロは...まあ勝手にやるだろう。


「翡翠さん、きょうは少し付き合ってくれないか?」


「はい、どちらへ?」


 俺は近寄って声を潜めて、「エラがいないところで言うよ」と耳打ちした。



 俺は翡翠さんを伴って王宮警察本部へ赴いた。王国の公的機関で顔が知られているのは、ワイバーン討伐で恩を売ったここだけだ。ワイバーンを切り捨てた伝説の巫女を連れて行けば、ますます歓迎度が増すはずだ。


「これはこれはプリモ様、あのときは本当にありがとうございました。」受付の職員が恭しく挨拶した。


「署長に会って少しお話したいのだが。急にでは無理か?」


「ちょっとお待ちください。」職員は引っ込み、すぐに戻ってきた。「大丈夫です。すぐお目にかかりたいとのことです。」


「良かった。じゃあ、翡翠さん、行こうか。」



「おお、飛龍を討ち取った伝説の剣士殿とプリモ様、良くいらっしゃった!」署長は諸手を上げて歓迎してくれた。翡翠さんが俺より上位になっていた気がするが、細かいことは気にしない。


「署長さん、きょうはご相談したいことがありまして....」


「はい、何なりとどうぞ。できることなら何でも協力いたしますぞ。」


「この王都で教育行政を司っている部署へ紹介状をお願いしたいのです。それと、こちらは組織としてつながっていると思いますが、王宮警備隊の責任者への紹介状もいただきたい。理由は、獣人学校の設立の建議です。これがその趣旨です。」俺ははじめての町で作ったパンフレットを署長に見せた。


「なるほど、理に適っています。さっそく紹介状を秘書課に手配いたしましょう。すぐ用意させますので、1階の応接室でお待ちください。」



 次に俺たちが訪れたのは教育庁だった。紹介状のおかげで話はトントン拍子に進み、王様への建議の下準備もしてもらえることになった。俺たちはその足で王宮へ行き、王宮警備隊の責任者と会った。こちらは王宮警察と人事の交流がある近接組織なので、穏やかに話が進み、教育庁からの書類が届き次第、王様への謁見が許される運びとなった。


いよいよ王国全土で獣人たちの学校が設立され、読み書き計算を覚え、やがて地位もだんだん上がってゆく世界になるのでしょうか?

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