メロ隊長とクエスト
フレイヤがあと2日。次はそんな人が来るのかな?戻る前に思い出作りもしなければ。
フレイヤが元の世界に買えるまであと1日になった。アタランタのときは、何かこの世界の思い出作りみたいなイベントがあったはずだ。何だっけかな?たしか翡翠とタッグを組んでクエスト的なことをやって、それが終わったらみんなで温泉に行ったんだっけ。あとで翡翠に訊いてみよう。フレイヤという強力な協力者を失ったあとだが、誰を召喚しようか。そもそもこの1週間限定召喚というのが、俺が女神から授かった本来のチート。大切に使わなければ。メフィストフェレス、アタランタ、フレイヤ、次はどんなのが良いかな?中世民衆本およびゲーテ、ギリシャ神話、北欧神話と、召喚先は多彩だ。そうでなくては人文知を極めた者という二つ名に説得力がなくなる。次はどのあたりから掘り起こそうか?
「プリモ、ちょっと話があるんだけど。」いきなりメロに呼び止められた。
「なんだい、ハニー?」
「は?蜂蜜って何よ。そんなことより聞いて。私さ、いちおうサキュバスじゃん。」
「おう、押しも押されもせぬ、押したら火を吹く立派なサキュバスだ。」
「この物語のタイトルは?」
「巫女とサキュバスと異世界と...」
「ハイ、ストップ。長いからそこまでにして。ね、タイトルにサキュバスって入ってるでしょ?」
「入ってるな。キャッチーかもと思って作者が入れたんだろ。」
「ということは主役級よね?」
「お、おう(...当初はエラしか考えていなかった)。」
「なのに出番が足りなくない?最近は部屋に案内する係ばかりでモブ扱い。これってひどくない?」
「ああ、すまん。キャストの拡充が喫緊の問題だったから、つい。」
「このままだと私、1人で討伐クエストに行ってヒーローになっちゃうよ!」
「いや、それはちょっとその......こんなにカワイイ君にそんな危険なことはさせたくない。」俺は精一杯のホスト顔を作ってメロに壁ドンした...が壁がなかったので手の平から技を繰り出そうとして失敗した人みたいなポーズになった。
「何か見せ場が欲しいの。」メロは口を尖らせた――火が出そう。
「わかった。じゃあ午前中にメロを隊長にして派手なクエストを1つガツンと決めよう。」
「おっし、そう来なくっちゃね。じゃあ連れて行く子、隊長のメロが決めるよ。JKが1人、ファザリナ、メートヒェンの3人。JKはアイテム係ね。」
「俺は行かないからな。」
「ダメよ、来なくっちゃ。あんたが来ないと誰が活躍を物語るのよ。それにあんたは素材回収係でもあるんだから。」
ということで参加者全員でギルドに来たわけだが、午前中にサクッと済ませられて、それなりに充実感が得られるクエスト、何があるだろう?えーと、何々...中層に現れた謎の巨大スライム...ダメ、「謎の」が危険ワード...同じく中層のかつてヒドラが支配していた湖に新たな巨大水棲モンスター...ダメ、水中活動できるのがメロだけ....下層に出現した怪しい扉...ダメ...「これ!」メロがそれを取り上げた。
「この下層の怪しい扉、これ絶対ウケる。すごい戦闘が待っていそう。私の大活躍。うん、うん、これこそメロ様の出番だわ!」
「おい、やめとけって...」俺はかなり焦った。翡翠やエラがいないのにそんな危険な匂いのする場所を攻略するなんて。
「いいや、これしかないっしょ、これにする。」く、引き下がる気はゼロのようだ。それにしてもなんでJKなんて連れてくるんだよ。もっと火力が出そうなのを選べば良いのに。あいつのことだ、顔で選んだな。
下層の部屋にたどり着くまでずいぶんアイテムを消費してしまった。すぐ傷を負うファザリナにポーション。MP切れになるメートヒェンにMP回復薬。メロだけが敵から吸いまくった精気でエロスオーラがダダ漏れになるほど元気一杯だった。
「ここね。よーし蹴破るか燃やしてしまうか...」
「待って!」JKが鼻をひくつかせた。「ここ、毒のトラップがあります。どんな毒かまではわからないけど、運が悪いと全滅の可能性も。」
なんと、JKという魔物にはそんな隠しスキルがあったのか。これはけっこう使えるかも知れない。
「なら遠くから私が闇魔法で崩すよ。みんなも付いてきて。」メロがパタパタと通路の角まで戻った。
「ならば私が風魔法で毒ガスを室内へ逆流させます。」メートヒェンが初めての活躍の場を得て活き活きしている。
メロの闇魔法が扉を崩すと同時にメートヒェンの風魔法が吹き出した毒ガスを逆流させた。部屋の中から断末魔の声が聞こえてくるかと期待したが、何の音もしなかった。
「入るわよ!」メロが先頭に立って俺たちは部屋に入った。部屋の中にはガイコツ兵に守られたリッチが玉座に座っていた。その眼孔は青く輝き、どうやら扉を破壊した闖入者に対して強い怒りを抱いているようだ。最悪の相手だ。メロの闇魔法が効かない。そう思っているうちにカタカタと音を立てながらガイコツ兵が襲いかかってきた。やばい!メロの火炎とメートヒェンの風魔法で部屋は炎上し、ガイコツ兵たちは文字通り「お骨」になった。配下を倒されたリッチの怒りはますます高まり、何やら高位の魔法を発動する態勢に入った。メロはヴァイタルアブソーブを試みているが、アンデッドに精気はない。メートヒェンは氷結魔法で動きを封じようとしたが、耐性があるようで効かない。これはやばい...と走馬灯が頭の中に展開し始めたとき、ファザリナがジャンプして降下する重力を乗せたスタンピングキックをリッチの頭部に炸裂させた。低い詠唱は途絶えた。ガイコツの破片が部屋に散らばった。
「これで終わりじゃないわ!」メロが叫んだ。
「そうです。リッチは魂をフィラトリーという魂を保管する器に隠しています。フィラトリーを壊さないと何度でも復活します。」メートヒェンが魔法使いらしい学識を披露した。
「魂を感知できれば良いんだけど...」JK1号とファザリナはクンクン鼻をひくつかせながらあたりを探してる。魂に臭いはないと思うんだが。
「さすがに身に付けていたりはしないか...」俺はリッチの身体をまさぐった。首にチェーンがぶら下がっていて、そこにロケットが付いていた。開いてみると美しい女性の横顔の絵が入っている。このリッチの生前の姿か?いや、それはおかしい。自分の姿をロケットにして持ち歩くはずがない。とすると、このリッチにとって大切な人物、たとえば愛する女性?
「プリモ、こっちに扉があるよ。」メロが指差す先に扉があった。
「待ってください。私が罠感知します。」JK1号が鼻をヒクヒクさせた。「大丈夫です。何も感じられません。」
「ねえ、プリモ、ここって...」
小部屋には、触ると崩れ落ちそうな古いドレスがたくさん掛けてあった。どうやら衣装室のようだ。宝石やアクセサリーの棚もある。これは大発見だ。メロとJK1号は物欲に導かれて宝石類を点検し始めた。
「あれ?この宝石箱だけ開かない!」俺はメロが取り出した豪華な宝石箱を受け取った。どうしたものだろう?ハンマーでたたき割ることもできそうだが。JK1号とファザリナは鼻をヒクヒクさせている。宝石に臭いはないだろ。
「たたき割って良いか?それとも鑑定に出すか?」俺はみんなに尋ねた。
「豪華な箱だけど中身より高価なはずはないわ。やっちゃって!」メロ隊長の指示が出たので俺はたたき割った。その瞬間、隣の部屋に小さな動きがあった。背後で見ていたメートヒェンによると、リッチの残滓が少し動いて骨が塵になったそうだ。どうやらこれでクエスト終了だ。宝石類は女たちが山分けすることになった。ファザリナは遠慮していたが、俺が背中を押した。きょうのMVPなんだから、と。
いやあ、メロ隊長のせいで大変な目に遭いました。「私の大活躍!」って、美味しいところはすべて他の人に持って行かれませんでしたっけ?




