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本は売れたが、ラブコメを無理強いされた

まずは順調な滑り出しですが、まだ定住の足固めはできていません


 さて、小金もできたが、メフィストフェレスがこの世界いらえるのはあと6日か。こいつは、上手に使えばかなりのことをやってくれるから、無駄な時間を過ごさせないで酷使してやろう。とりあえずあと6日で1ヶ月分の生活費と、できれば家が欲しい。この世界の通貨は、ドラクエその他で有名な「ゴールド」(1ゴールドはだいたい100円です)。わかりやすくて良い。変な通貨名にすると自分でもわからなくなるからな。酒飲んで早く寝たので、朝活で『ジョアンナ・ヴァン・ヘルシング ――The Vampire Queen』(https://ncode.syosetu.com/n5112kj/)の残りの20章を書き上げた。翡翠さんのビジュアルが輝く章だ。きっと爆売れするだろう。メフィストは無制限に刷ってくれるが、露店で売るとなるとそれほどたくさん持ってはいけない。200~300冊を売ってもせいぜい2000~3000ゴールドにしかならない。とても1ヶ月生きてゆけない。この世界の出版社に持ち込むか?だが、そもそも出版社なんてあるのか?


「おい、メフィスト、この世界に出版社はあるのか?」


「はい、ありますが、この町にはないですよ。もっと大都市に行かないと。」


 なるほどな。まあ今日のところは刷り上げたこの本を持って市場でコツコツと商いをするか。明日になったら大都市へ繰り出そう。


市場は今日もたくさんの人々で賑わっていた。果物、野菜、肉、魚、そしてさまざまな装飾品。珍しい異国、いや異世界の品々を見て回るだけでも楽しい。あ、装飾品の露店の前にきのう果物をくれた獣人の子がいる。物欲しげにアクセサリーを見ているな。よし、昨日のお礼に何か買ってあげよう。


「やあ、昨日はありがとう。名前は何て言うの?」


「名前?あるけど人間の舌では発音できないよ。」


「じゃあ、ぼくが人間の名前を付けても良いかな?」


「うん、良いよ。」獣人の子はにっこり笑った。


「じゃあね、君はモフモフしてるからモフ子だ。」


「うん、私はモフ子、ありがとう。」


「昨日のお礼に何か買ってあげるよ。あの後市場で本が売れてお金があるんだ。」


「ホント?わーい。じゃあこのネックレスが欲しい。」


「これか(30ゴールド、微妙に高いが、ええい、男に二言はない)、いいよ。おじさん、これください。」


挿絵(By みてみん)


「旦那、露店の準備ができました。」メフィストが呼びに来た。モフ子はメフィストに邪気を感じたのか、おずおずと後ずさりし、ピョコンとお辞儀して走り去った。


書籍300冊はすぐに完売した。売り切れてから来た客が残念そうに、「続きを読みたかったのに出遅れた。」と言った。俺はメフィストに目配せして1冊刷らせ、「これ、残っていました。」と客に渡した。うん、店の好感度は爆上がりだ。


午前中にやるべき仕事は終わってしまった。何かメフィストフェレスに仕事をさせないと契約がもったいない。何かないか?


「おい、メフィスト、おまえ冒険者できる?」


「はい?どういう意味でしょう?」


「冒険者ギルドに登録して、ダンジョンで魔物を討伐してお金をもらうやつ。」


「これでも高位の悪魔ですから魔物ごときに後れを取ることはありません...が、そんなことはしません。私の流儀に反します。荒事はしない主義なのです。お読みになったでしょ、『ファウスト』を。そこで私はチャンバラしたり、魔法で攻撃したりしましたか?していません。私は耳元で囁いて行動を促す存在なのです。」


 なるほどね。悪魔をベヒーモスにぶつける作戦は失敗か。まあ確かにキャラとして似合わないな。となると、何をやらせよう?1日たりとも無駄にはできない。


「旦那、あっちからいい女が歩いてきますぜ。」しゃべり方がさらに下卑てきたな。


「ふん、だから何だ?」


「たまには女の人と仲良くしたいとは思わないんで?」メフィストは悪魔じみた笑顔で誘った。


挿絵(By みてみん)


「俺にファウストの二の舞を演じさせる気か?」


「いえいえ、あれは悲劇でしたからね。悲劇は二度繰り返さない。二度目は喜劇になる、って誰か言ってませんでしたっけ?」


 誰か言ってそうな微妙な格言を持ち出しやがって。わからないからシャクだ。


「喜劇、つまり茶番を俺に演じさせるつもりか?」


「いや、茶番じゃなくてラブコメですよ、ラブコメ。ラブのコメディー。ね、喜劇でしょ?」


「きゃっ!」


挿絵(By みてみん)


「ほらほら、来た来たぁーっ!」メフィストフェレスが腹を抱えて笑っている。いきなり食パンをくわえた女がやってきて衝突、俺は尻もち、女はパンを落とす。


「ごめんなさい!」女は落としたパンを拾いながら俺に謝った。


「いえいえ、こっちも不注意でした、美しいお嬢様。」あ、いかん、NGワード言ってしまったか?


「私は美しくもないしお嬢様でもありませんのよ。」ほらね、そのまんまですやん。メフィストの仕込みに違いない。ふざけやがって。


「そうでしたか。それでは失礼。」俺は立ち去ろうとした。


「お待ちになって、私の名前はマルガレーテ...」


「そうですか、では失礼。」俺は強制終了ボタンを押した。


「ひーっひっひっひ、腹が痛い、何これ、ひーっひっひ。」のたうち回って爆笑しているメフィストを思い切りどやしつけてやった。


「てめー、何仕込んでんだよ!マルガレーテだと?しかもあそこで名乗る必然性はゼロじゃねえか!くっそー、俺はおまえのおもちゃか?違うだろ!曲がりなりにも召喚者だ。おまえは俺に仕える義務がある。なのにちんけなファウストごっこをやらせやがって。」


「でも楽しめたでしょ、ラブコメ!」


「楽しいのはおまえだけだ。この埋め合わせはしてもらうからな。今すぐ冒険者ギルドに登録して、ベヒーモスかドラゴンを狩って高額報酬をもらってこい!」


 俺のあまりの剣幕に、メフィストフェレスは渋々冒険者ギルドへ向かった。よし、これで大金ゲットだ。


マルガレーテはグレートヒェンの本名というか正式名なんですね。「ファウスト」ではファウストの子を身ごもって、父なし子を身ごもった罪で投獄されて死んでしまうんですよ。悲劇ですね。悪魔に隙を見せるとろくなことになりません。

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