キャスト募集でオーディション
席数に応じたキャストが必要。当然ですね。コンカフェで接待されずに放置されるなんて考えられない。まあ、行ったことがないので「考えられない」の意味が少し違ってきますが。
ギルドでクエストという形で募集をかけた。「接客スキルSの君、コンカフェのキャストをやってみないか?お客が満足してたくさん来てくれたらギャラもはずむよ。たくさん稼げば憧れのあの装備も君のものだ。笑顔とコミュ力、そして客を楽しませるステージ、何か自慢のセールスポイントがあるなら是非聞かせてくれ!」こんな募集を出したら、翌日たくさんの応募者が来た。キャストのオーディションをしなければならない。審査員は俺、エラ、翡翠、ミナルナだ。応募者は14名。ざっと見渡したところ美形揃いだ。これは期待できる。俺は非喫煙者だが、こんなときはプロデューサーらしくパイプをくゆらしたい。審査項目は、外見、これはエラのこだわり。カワイイは正義らしい。コミュ力。接客なので話ができなければどうにもならない。これはミナルナのこだわり。接客マナー。これは翡翠のこだわり。接客マナーは店の品格に関係するらしい。メロはこの審査ポイントで落ちそうだが。
「では次の人、名前とジョブを言ってください。」
「こんにちは。名前はメートヒェン、ジョブはメージです。」とんがり帽子の少女が答えた。
「えーと、変なことを訊くが、ご先祖にヴァンパイア退治で活躍した人はいなかった?たしか名前は同じメートヒェン...」俺は幽かな記憶をたぐり寄せて尋ねた。
「はい、いました。100年ぐらい前ですね。我が家は代々、女の子が生まれると名前にメートヒェンとフィーユを繰り返し使うんです。」
「それだと祖母と同じ名前になってしまうが...」
「そうなんですけど、いつも女の子が生まれるわけではないので、そういう不自由な状況になったことは、たぶん、なかったと思います。」
「ステージで何かできる?」ミナルナが尋ねた。
「炎の黒魔法を連発で行けます。」
「コンカフェが火事になるからやめてくれ。」メロと似た危険な香りを俺は感じた。
「はい、メートヒェンさん、ありがとう。戻って良いわよ。」エラが笑顔で送り出し、次の応募者が来た。
「お名前とジョブは?」
「ガチンカ、タンクだ。」
「セールスポイントは?」
「このたわわだ。客はみんな釘付け。しかも、たわわが硬い。筋肉たわわだ。動かせるぞ。なんなら客に触らせて硬さを実感してもらう。」
「お帰りください。」翡翠が明らかな拒否の態度で不採用を告げた。接客マナーとして最悪だと判断したのだろう。
「次の方。お名前とジョブは?」
「ディービン、シーフだよ。」
「セールスポイントは?」
「シーフというと罠の解除や鍵開けが期待されるけど、あたしはそういうのあんまり上手くない。あたしが得意なのは、シーフだけに盗みさ。財布の中身だけいただくなんてのはお手のもの。あたしを雇えば、客はお会計のときに財布が空っぽなのに気づいて大慌てさ。どうだ、ウケるだろう?」
「帰れ!」俺はつい怒鳴ってしまった。名前もディービンだなんてまんまじゃねえか。泥棒を雇えるわけがない。店の金も根こそぎやられそうだ。あとで警察に注意喚起しておこう。
「次の方、お名前とジョブをどうぞ。」
「ファザリナ、武道家です。見ての通りの獣人です。」
「おお、獣人はこの店のコンセプトに合う!」俺は身を乗り出した。
「獣人の学校で読み書きを覚えたので、己の道を開こうと冒険家になりました。ですが、装備を調えるお金がなく、最下位の魔物を狩り続けるだけでは宿代でいっぱいいっぱいで、一念発起して接客のクエストに応募しました。」
「ファザリナさん、ステージで何かできる?」ミナルナがしげしげと見つめて尋ねた。
「歌や踊りはできません。せいぜい、体術を活かしたアクロバット程度です。バク転、垂直ジャンプからの軌道修正、壁走り...」
「ステージは必須ではないんだ。うちのキャストでもステージに上がらない者もいる。」俺はもう採用する気になっていたので、条件を緩和した。
「ファザリナさん、とても言葉遣いが綺麗で好感が持てます。」翡翠さんが褒めた。これは珍しい。
「ファザリナ、君は採用だ。メロが部屋に案内する。」
「ありがとうございます。私、頑張ります。」ファザリナはメロに連れられて上階へ消えた。
「次の方...え?」エラは固まった。
「いろいろ聞きたいことはあるが、なぜ4人?」俺はとりあえず訊いた。
「私たち、4人のJKです。」
「いや、それはわかるが。」
「いえ、JKという魔物なんです。魔王様が退屈しのぎに作り出しました。魔王様は女神様から無限に魔物と作り出す力を授けられていましたから、お友だちがいないとつまんないということで私たちを作ったんです。でも魔王様は元の世界に戻ってしまって、私たちはやることがなくなってしまいました。魔王城には新しい持ち主が、本来の持ち主ですが、そのうちやってくるので居続けることはできないし。なのでギルドに登録して、スライムを倒して細々と生きてきました。硬いパンを分け合って食べる日々が続き、そろそろ限界かなと思っていたところにコンカフェのキャスト募集のクエストが来たので、これに掛けるしかないと思ってやってきました。」
「かわいそうな子たちね。」エラは俺を見て、採用してやれよという顔をした。
「同情を禁じ得ない。しかし、君たちはあの魔王、天水美夜といったっけ、彼女の友だちとして作り出されたわけだが、しっかり友だちを演じられたのか?」
「いえ、まず話し方がJK風でないとよく怒られました。そして原宿のことを何も知らないとよく切れていました。しかたがありません。何も知らないJKという魔物なのですから。」
「そうか、事情は良くわかった。しかし、君たちをこのままキャストに採用することはできない。接客にはいろいろと細かいスキルが必要だ。笑顔と愛嬌だけでどうにかできるものではない。接客トークに必要な知識がないと場が持たない。なので、君たちには裏方として働いてもらう。掃除、洗濯、キッチンの洗い物、その他諸々だ。つまり、JKメイドになってもらう。それで良いか?メイドの仕事で知識を身に付け、成長が感じられたらキャストに取り立てる可能性もある。」
「よろしくお願いします。ありがとうございます。」
「メロに連れて行ってもらって、仕事着に着替えなさい。」エラがメロを呼んだ。
戻ってきた彼女たちはメイド姿になっていた。うん、これはこれで眼福だ。
「次の人どうぞ。名前とジョブを言ってね。」と言って、エラは目を見張った。
「名前はセレスとステラです。見ての通り天使です。ジョブはヒーラーです。」
「天使様がなぜ冒険者に?」エラは魔界側の存在なので、どうも調子が悪そうだ。
「見ておわかりのように、ステラの片翼が消えたのです。いずれ再生すると思いますが、それまではギルドに加盟してヒーラーとして働きました。私たちに攻撃力はありませんが、魅了や混乱や睡眠といったデバフに耐性があり、何よりもリヴァイヴを唱えることができるので、パーティーでは重宝されました。パーティーに誘われることが多かったのですが、高位パーティーに参加すると敵の強さも半端なく、このままでは滅ぼされてしまうのではないかという恐怖心が抑えきれなくなってきました。そんなときこの接客クエストを見つけたので、ステラの片翼が再生するまでこちらにお世話になろうかと考えたのです。」
「見ておわかりのように、私はサキュバスです。よろしいのですか、天使様が魔界の者と一緒でも?私、ここの店長なんですよ。」
「問題ありません。悪に加担しているなら独特の色が付きます。あなたにはそれがありません。協力し合えると確信しました。」
「良かったな、エラ、正義のサキュバスで。」俺は少し意地悪を込めてエラに言った。
「羽根があるってカッコいい!」ミナルナがビジュアルだけで喜んでいる。
「わかりました。お手伝いしてください。善良なお客さんだけなので、イヤな思いをすることはないと思います。」俺は羽根に触ってみたい衝動を抑えながら、2人の手を取った。
「これで面接はお終いね。採用できたのは、メートヒェン、ファザリナ、セレス、ステラの4名。そして4名の裏方教習生。なんとか接客の穴を埋められそうね。」エラは満足そうにノートを閉じた。
いっぱい増えましたね。こう増えるとキャラの把握が難しくなります。名前を覚えるのがリアルでも苦手なので。




