増築コンカフェ始動
王都に帰ってきました。増築したコンカフェで豊かな暮らし。希望が広がります。
王都の俺たちの店兼住居は完成していた。
これでみんなのびのび生活できる。これからは、個々のメンバーがギルドでクエストを受注して稼ぐことも解禁して、みんなで豊かに暮らしていこう。1週間の増築工事で閉店していたので、顧客たちは開店を待ちわびていた。開店前に長蛇の列ができていた。増築したので席数も増えた。今までは1階が店舗、2階が住居だったが、これからは1階と2階が店舗で3階と4階が住居だ。つまり席数が倍になった。バイトでスタッフを増やさないと回らないかも知れない。とりあえず翡翠の分身たちは閉店まで店の手伝いをしてもらうことになった。
「サロメさんが抜けたから、ステージに立てるの私たちだけになっちゃったね。」ミナルナがユニゾンで心配そうに言った。
「そうね、誰かパフォーマンスしてくれる人いないかしら...」エラも少し困り顔だ。
「そういうことなら一肌脱ごう。私が女神の舞を奉じよう。あと2日で元の世界に戻る定め、この世界の戦士たちを慰めることはやぶさかではない。かつてフォールクヴァングに迎え入れた戦士たちを女神の舞でもてなしたように。」
「フレイヤさんの女神の舞なんて、もう尊くて客が祈りを捧げると思いますよ。」エラはニコニコして両手を揉んだ。
「そうか。ではさっそくステージに行ってくる。」
フレイヤの気高い神格が舞を通してあふれ出て、ステージは北欧の楽園フォールクヴァングに一変した。さまよえる魂が癒やされ活力をみなぎらせる。観客はみんな跪いて両手を合わせて舞を見ていた。
「サロメさんにも負けないパフォーマンスね。」とミナが言い、「私たちも負けずに頑張りましょう。」とルナが言った。ミナルナのパフォーマンスも、いつもにも増してすばらしかった。くノ一の体術を取り入れた人間離れした動きに観客は熱狂した。
「では私も、いえ私の分身たちにも協力させていただきましょう。」翡翠の指示で3人の分身はステージで神楽を奉じた。
店内は一転して厳かな雰囲気に包まれた。が、よく見ると鈴が宙に浮いている。目立たない形で空間を支配しているようだ。観客はその不思議な術に心を奪われた。
「私も何かやろうかな。」メロが口からチロチロ炎を出しながら近づいて来た。
「やめろ。新築の店が火事になる。」
「そうよ。やはりここは店長の私が...」エラがピンクのオーラをダダ漏れにしながら言った。
「おまえもやめろ。客の精気が根こそぎ持って行かれる。」
「私も隠し芸を披露して良いですか?」ここで意外なことに翡翠が手を挙げた。
「翡翠さんなら安心して任せられます。どうそ!」
「では、着替えてきますね。」
え?まさかのガールズバンド?観客は大喜びだ。ペンライトやサイリウムを振って、鉢巻きを巻いて、完全にオタクになって楽しんでいる。
売り上げはうなぎ登りで、キャストたちに多額のギャラを払うことができた。買物の楽しさを覚えたエルフィーナとフェリシアは特に喜んで、新しい服の相談をしている。そういえば、自由にクエストを受けて稼いできても良いという新ルールになったので、こいつらは店に出ないで冒険者として荒稼ぎを始めるかも知れない。ただでさえ席数が倍になって接客が回らなくなってきているのに、そうなると困る。
「エルフィーナ、フェリシア、ちょっと良いか?」
「なあに、プリモ。」
「おまえたち、店に出るよりクエストをこなしたほうが稼げるとか考えてないか?」
「あ、なるほど、その手があったか!」フェリシアが手を叩いた。
「店に出てくれないと困るんだが...」やばい、やぶ蛇だったか。
「そうね、クエストで休むのは週に1回までにするわ。」エルフィーナが妥協案を出してきた。
「状況を理解してもらって助かる。」俺は半分ホッとして、半分焦った。他の奴らもそんな働き方改革をやり始めたら店はどうにもならなくなる。
「なあ、エラ、店長としての意見を聞きたい。」
「何かしら?」
「席数が倍になったので接客が回らなくなった。どう思う?」
「そうねえ、ふつうに考えればキャストを増やすしかないわね。」
「バイトを募集しようか?」
「でも、ここの子ってみんなふつうの人間じゃないのよ。素の姿がコスプレになってるの。ふつうの人間に務まるかしら?」
「ふつうの人間じゃない子なんてそう簡単に見つかるかね?おまえとメロとエルフ以外は、みんな異世界からの召喚組なんだぜ。」
「良いこと思いついた!キャストがクエストに出ることで接客に穴が空くなら、冒険者の側からこちらに来てもらう。美形でコミュ力があって舞台も務まるなら最高ね。コンカフェのキャストというクエストをギルドへ出しましょう。装備が買えなくて難易度の高いクエストに出られない初級冒険者あたりが狙い目ね。あいつら、冒険者スタイルでふつうにコスプレっぽいから。」
「おお、逆転の発想!おまえ、すごいな。さすが創業400年の老舗サキュバスだ。」
事業が拡大すれば人手も必要になる、当然の成り行きですね。エラの機転で何とかなりそう。さすが、伊達に齢を重ねていない。頼りになります。