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巫女とサキュバスと異世界と、そして人文知は役立たず  作者: 青い水


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魔王城攻略4

3階には魔王の親衛隊、ガーディアンがいます。翡翠さんの秘策、どうなるのでしょう?

「翡翠ちゃん、試してみたいことってなあに?」エラは期待を込めた目で翡翠を見つめた。


「分身です。私を複数体顕現させることによって、自然学陰陽術の効果を何倍にも上げることができます。それが成功すれば、エラさんが望んでいた裏技チートのようなことも可能になるかも知れません。」


「そんなことができるの?驚きね。その技を使うには何か捧げるものが必要なの?ほら、たいていの大技には犠牲がつきものだし。」


「いいえ、別にたくさんのエネルギーを消費するわけではありません。オリジナルの私を自然界の元素でコピーするようなものですから、何も減るものはありません。」


「じゃあさ、試しにやってみせて。すごく興味があるの。」


「はい、ですが1つだけお願いしてもよろしいでしょうか?」


「あら、何かしら?」


「術の構築中はプリモさんの目を塞いでください。分身がどのような姿で現れるか、まだ把握できていないので。」


「わかったわ。淑女のエチケット、私に任せて。はい、プリモくん、聞いてたわね?これから実験するので、これで目隠ししてなさい。」エラが何か布地を俺に渡した。


「ちょっと、エラ、これ、エラの水着じゃないか!」


「そうよ。上でも下でも好きなほうを使うと良いわ。なんなら両方使っても良いのよ。」


 俺はエラの水着で目隠しという情けない姿になった。仕方がない。翡翠さんの術のためだ。


「天地に宿る森羅万象の理よ、光と影の狭間に姿を分かち、識の表裏より実と虚を現せ。今ここに、森羅万象より取り出されたる元素を用いて我が身を写し、我が心、我が力、我が形を三つ現出せしめよ。急々如律令!」


 目隠しをしているので何も見えないが、空間に明らかな変化が生じていることは伝わってきた。


挿絵(By みてみん)


「できました。分身3体の召喚に成功しました。恥ずかしい姿ではなく、しっかりと巫女衣装を着けています。」翡翠さんの喜びの声が聞こえる。


「目隠しを取って良いか?」俺はエラに声をかけた。


「良いわよ。ところで、水着は上と下、どっち使ったの?」


「両方だ。万全を期すためにな。」


 俺はエラに水着を放り投げた。そして、俺の前にいる4人の翡翠さんを見た。全く同じ顔、というわけではないが、たしかにみんな翡翠さんだった。コピーした立体写真を並べた感じではなくて、それぞれが自我を持つ別の翡翠さんだ。あの晩、酒場で見た翡翠さんと同じ、翡翠さんであって翡翠さんではない新しい翡翠さん。双子アイドルやエルフ2人組も集まってきて、不思議そうに分身翡翠隊を見ている。


「ねえ、翡翠ちゃん、この子たちみんな別々に呪文を唱えられるの?」エラは興味津々だ。


「はい、それぞれ別の人格ですから。それぞれの自我があります。」


「それじゃ翡翠ちゃんの言うことを聞かないこともあるの?」


「それはありません。みんな私の支配下にあります。存在を私に依存しているので。」


 俺は人差し指で分身翡翠のほっぺたをそーっとツンツンしようとした。パシン!「無礼なっ!」分身翡翠のビンタが炸裂した。分身は人形とは違って自我があるので無礼な振る舞いは許されないという学びと、仲間たちの軽蔑の視線を俺は得た。


挿絵(By みてみん)


「では、この階段を進みましょう。」


 翡翠と翡翠分身の4人は前衛タンクのフレイヤに続いて階段を上った。3階は2階よりかなり狭く、いわゆるキープと呼ばれる部分が始まっているようだ。日本で言うと天守閣のようなものだ。死角が減って防御に有利だし、広い基底部に支えられて構造が安定する。廊下の色も青を基調とする貴族的な趣味に仕上げられている。


「広域探査を行います。式、影より出でて識を広げ,真理を携え、急々如律令!」翡翠たちは扇を取りだし術を唱えてそれぞれ3体の半透明の式神を呼び出した。計12体の式神は空中で散開し、廊下の彼方へ消えていった。


「状況を把握したら、術式を展開します。個々の戦闘が避けられるよう、多層的にこの階層を制圧します。エラさんの望んだチート的裏技です。」


 俺たちは口を開け目を見開いて翡翠の手並みを見ていた。


「把握しました。術式を構築します。広域に発動すると危険なので、魔王のガーディアンの周囲に限定して発動させ、酸素を奪って窒息させると同時に凍結させます。ガーディアンはちょうど3体いますので、分身にそれぞれ1体を担当させます。お待ちください。それでは翡翠壱,弐,参のみなさん、お願いします。」


 分身たちはそれぞれに御幣を取りだし呪文を唱え始めた。


「七の原子、疾く集まりて結びつき、虚ろなる冷気、光を閉ざし、息を奪う。幽かなる凍り、死の吐息、此処に顕現せよ!急々如律令!」


 何も起こらなかった。辺りを静寂が支配している。


「それでは参りましょう。」


 翡翠は満足そうに微笑んで先へ進む。厳めしい扉の部屋があった。


「まずはここです。空気が薄くなっている可能性があるので、急に扉を開けると危険です。エミリーさん、扉の上部に一発当ててください。」


 エミリーが撃った弾が扉に命中すると廊下の空気が音を立てて室内に流れ込み、しばらくすると音が止んだ。


「これで大丈夫です。それでは確認しましょう。」


 扉を開けて室内に入ると巨大なグレーターデーモンが凍り付いて絶命していた。


挿絵(By みてみん)



「翡翠さん、すごい。」俺は唸った。


「液体窒素 (LN₂)を限定空間に顕現させました。窒素は大気中に多量に含まれているので簡単に大量に作り出せます。温度は-196度、気化するとき体積が700倍に膨張するので、周囲の酸素濃度を急速に低下させます。これによって敵は窒息と凍傷という二重のダメージを受けて絶命します。」


「すごい、コスパ最強じゃん!」ミナルナが感動している。


「それでは他の部屋も確認しましょう。エミリーさん、扉の空気穴、お願いします。」


 しばらく進んだ次の部屋にはベヒーモスが凍り付いていた。俺は自分の使命を思い出し、ハンマーとタガネとのこぎりを持って素材の切り出しを始めた。あとでグレーターデーモンからも取り出そう。


「次の氷漬けはなにかしらね~♪」エラは上機嫌でパタパタ浮かんでいる。


「ここです。エミリーさん。」


 部屋の中にいたのはアークドラゴン。これまでのガーディアンとは別格のモンスターだった。しかし、いかに別格の強さを持つとはいえ、液体窒素に包まれてしまえば呼吸を奪われて文字通り息絶え、美しい氷像に成り果てる。


挿絵(By みてみん)



「みんな、聞いてくれ!」俺は前に出て呼びかけた。「これでガーディアンはすべて倒し、残るは魔王だけになった。みんなのはやる気持ちはわかるが、聞いてくれ。ひとまずこの階にとどまって素材回収をしよう。どれも巨大で貴重な高位モンスターだ。取れる素材の価値は計り知れない。これまで俺ひとりで素材回収をしてきたが、さすがに手が回らない。みんなで協力して一挙に回収してしまおう。」


 この提案に反対する者はいなかった。いや、むしろ、これまですべて俺に丸投げしてきたことに忸怩たる思いすら感じているようだった。よかった、みんな縁の下の力持ちの存在に気づいてくれて。



この階で戦わず倒したモンスターからは、死ぬまで遊んで暮らせるほどの貴重な素材がたくさん手に入りました。これでコンカフェの改装費も十分支払えそうです。あとは魔王との決戦!

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