魔王城攻略3
ラミアとミノタウロス、どちらもギリシャ神話からの参戦ですね。ラミアの故事は本文で少し触れましたが、ミノタウロスについて少しだけ。なぜ牛の頭と人間の身体をしているかというと、クレタ島の王の后と神の牛が交わって生まれたからです。その経緯は少し複雑ですが、ギリシャ神話らしいとんでもないいきさつです。
「まずラミアを叩こう。精神攻撃はやっかいだ。ミノタウロスにはヴァイタルアブソーブが効く。ラミアを無力化できれば倒すのは簡単だ。」エラが作戦の概要を示した。
「でも、ラミアを攻撃しようとするとミノタウロスが盾になって立ち塞がるだろう。」エミリーが鋭い予測を立てた。
「ミノタウロスに邪魔させないように先に眠らせるか。」
「そう簡単に寝てくれるかな?あれでも神と王族が交わって生まれた怪物だぞ。」俺は人文知をひけらかした。
「たしかに、人体とは違う構造でしょうから、眠りの規則が当てはまるかどうか、そしてそもそも眠ることがない可能性もあります。」翡翠さんの考察は説得力がある。
「麻痺はどうかな?睡眠と違って神経への直接的な介入で引き起こせる。」ミナは薬学に通じた金竜疾風ならでは意見を述べた。
「電流と毒を一度に食らえばだいたい麻痺するよ。」ルナは自信満々に断言した。
「ならば電流は私が担当しよう。」フレイヤが左手に電流を纏いながら言った。
「毒は私たちが用意するね。」毒殺も得意なくノ一が手を挙げた。
「ミノタウロスの麻痺を確認したら作戦継続、麻痺作戦が失敗したらいったん退却で作戦の練り直しだ。」エラが慎重論を述べた。
「ラミアをどう料理する?」俺もいっぱしの参謀になったつもりで訊いた。
「私たちが目を潰す。」エルフの2人が手を挙げた。「おそらくあの目にはいろいろやっかいなスキルが仕込まれてる。先に潰しておけば安全。」
「なるほど。では私はあいつの口を封じてやろう。呪文を唱えられるとやっかいだからな、口を開けないよう弾丸をたんまり食わせてやるさ。」エミリーが高速のガンスピンを見せながら言った。
「胴体は私が浄化の刃で一刀両断します。」翡翠が名乗りを上げた。
「良し、これで作戦は決まった。みんな、行くぞ!」俺は、自分は行かないくせに司令官のような台詞を言ってしまった。
作戦通り、フレイヤの電撃とミナルナの毒が同時にミノタウロスに放たれ、怪物は麻痺して動けなくなった。そしてそれと同時にエルフたちの2本の矢が正確にラミアの目を貫き、エミリーの銃弾が6発すべてラミアの口を破壊した。ラミアは顔面を血に染め、それでも大蛇の下半身を鞭のようにしならせて、俺たちにやみくもに攻撃を仕掛けてくる。当たればかなりのダメージだろう。だが抜刀して精神を集中した翡翠さんが凜々しい気合いの声とともに大蛇の下半身を一刀両断し、ラミアの胴体と尻尾は切り離された。
切り取られた尻尾はまだ動いている。しかし、残された胴体と上半身は瀕死の状態で、苦しそうに喉をかきむしっている。「せめてもの情けです。」翡翠はラミアの首を切り落とし、静かに絶命させた。
「これで残ったのは麻痺しているミノタウロスだけね。私とメロでずいぶん吸ったから、もうレッサーでビル程度の雑魚になっているはずよ。プリモでも...いや、さすがにそれは無理か。」
「麻痺してるのなら角くらい切ってくるよ。」ハイエナ素材コレクターになった俺はのこぎりでミノタウロスの角を切り取ってアイテムボックスに放り込んだ。
「まだ取れるものがあるわよ。皮と心臓と蹄、きっと高く売れるわ。」エラが俺に命令している。汚れ仕事をしろと命令している。く、だが仕方あるまい。他に何の寄与もできないんだ。皮でも臓器でも何でも取ってくるよ。
「そろそろ麻痺が解けるよ。」ミノタウロスの蹄を外そうとしていた俺にミナルナがユニゾンで警告した。やばい、蹴られる!俺は一撃を覚悟して固まった。しかしフレイヤが一瞬早くミノタウロスの脚部を切り取ってくれた。俺は蹄の付いた脚を持って急いでその場を離れた。足を1本失ってバランスが取れなくなったミノタウロスだが、片足立ちのまま攻撃の機会を狙っている。いかん、こいつには咆哮というスキルがあった。みんなすくみ上がるぞ。そのときエミリーの銃が火を吹いた。「なんか怪しい動きが見えたから封じておいてあよ。」弾丸はミノタウロスの口に6発命中して、ミノタウロスはもはや口を開けることができなくなった。
「まだ取れる素材が残ってるから、もう1本の脚も切って!」エラは非情だ。だがそこが良い。フレイヤが剣を一閃して残った脚が転がり、ミノタウロスはその場に倒れた。俺は脚を掴んでアイテムボックスに放り込んだ。
「蹄は両手にも付いてるからねー。」エラはだんだん事務的になってきた。両腕はくノ一の忍刀が切断してくれた。俺はまた両腕を持ってアイテムボックスへ放り込んだ。
「じゃあ、あとは皮を剥いで心臓を抜き取って終わりだ...と思ったけど、そういえばラミアの蛇皮も捨てがたいわね。プリモ、お願いね。」何と人使いが荒いんだ!みんな解体作業を少しは手伝ってくれよ!結局俺は何時間もかけて魔物の解体をさせられ、その間にあいつらはきゃあきゃあ言いながら宝物庫を漁り続けていた。
「さて、奪えるものはすべて奪ったし、いよいよ魔王を倒しに行くわよ。」精気を吸いすぎてギラギラとしたエロスのオーラを放ちながら、エラは鼻息荒く宣言した。
「魔王はこの上だと思います。」翡翠さんは宝物庫の奥に階段を発見して指差した。
「ふつう魔王の玉座に近づく前に、ラスボス前の連戦があるわよね。」エラはまるでゲーマーのようなことを言った。
「面倒くさいな、まったく。」エミリーはアメリカ人らしく飽きてきたようだ。
「なんか裏技チートで魔王の前の四天王を一挙に壊滅できないかしら?」エラは何か良からぬことを考えている。
「私、試してみたいことがあります。」翡翠さんが好奇心に満ちあふれた少女の顔で言った。
プリモくん、ままの解体業務という立派な役目を見つけて本当に良かった。戦えなくたってチームに貢献する、それでこそ人間というものです。




