魔王城攻略2
いよいよ攻略も中盤です。敵の攻撃も激しさを増し、気を緩めていると思わぬダメージをくらいそうです。
魔王城の武器庫を見つけたので、使えないように破壊することにした。しかし火を放てば見つかってしまう。どうしたものだろう?錆びて使えなくする、うん、これだ。翡翠さん、頼む。
「壱の原子、八の原子、壱壱の原子、壱七の原子、疾く集まりて結びつき...水と塩の理、腐蝕の息吹、武を廃し、力を削ぐ錆となれ、此処に顕現せよ!急々如律令!」
翡翠さんの呪文に応じて、武器庫内に大量の塩水が現れ、流れ出すこともなく、武器を閉じ込める結界のように集まった。これで敵の武器は使い物にならなくなる。それにしてもさすがに魔物の武器だ。人間サイズのもあったが、巨大サイズの武器は人間が使う武器の3倍ぐらいだった。白兵戦が恐ろしい。
階段を上がって2階へたどり着いた。メイドたちはあきらかに消耗している。息が上がって歩き方がぎこちない。何かはわからないがくノ一の責めが効いているのだろう。パーティーの平和のために知らないふりをしておこう。ミミの索敵のおかげで敵との遭遇戦もない。あっても負ける気はしないが、矢と銃弾の消耗は、経済的理由で避けたい。てなことを考えていると、来ちゃうんだよ、敵が。2階の廊下を半分ぐらい進んだところで、3階へ吹き抜けになっている場所がある。そこで上の階からハーピーの集団が襲いかかってきた。けっこうな数がいる。
エルフたちは風の魔法を効果的に使い、たくさんの敵を巻き込んで落とした。ミナルナとエミリーは躊躇なく発砲して残りを撃墜した。ハーピーの死体の山ができたが、こいつらから取れる素材はあるのだろうか?肉体部分は気持ちが悪いので触らず、とりあえず羽根だけでも持って帰るか。矢羽に使えるかも知れないし、羽毛布団の材料になるかも知れない。羽をむしってアイテムボックスに放り込み、俺たちはさらに奥を目指した。メイドたちの目はうつろになり、小さくあえぎ声を発し、ときどきピクンと痙攣してその場に座り込むようになった。くノ一の責め、恐るべし。
「プリモ、見て!階段があるよ。」メロがいち早く発見した。ここから先はメイドも役に立たない。どうする、殺すか?
「この子たち、もうそろそろ堕ちるよ。」ミナルナがユニゾンで宣言した。
「堕ちるとは?」イヤな予感しかしなかったが俺は訊いた。
「男にはわからない世界の向こう側に行ってしまうってことさ。」とミナが言い、「もう帰って来られない。」とルナが言った。
「プリモにはわからない話だから考えるのやめな、DTくん!」メロがまた禁忌ワードを俺に投げかけた。
「だからここに放置しても無害だね。そのうち仲間に食われるかも知れないけど、色んな意味で。」ミナルナは言葉を濁してメイドたちをこの場に放置した。ミナルナ、見かけはアイドル双子だけど、やはり17世紀のくノ一、底知れぬ闇が感じられる。
「3階は何が出るかな?」メロが余計なことを言った。「ね、ミミちゃん、何が出ると思う?」
「おい、何が出るじゃないだろ!ちゃんと索敵させろ!」俺はダメママと化したメロに文句を言った。
「あー、おじさんがこわいでちゅね~。」
おい、たしかに転生前はおじさんだったかも知れないが、今その名で呼ばれるのは少しカチンとくるぞ。しかもその前の禁忌ワード「DT」と組み合わさると、もはや救済不能な最低感が漂ってくる。
「あ、来た。前に戦ったダークナイトの集団だ!」ミナルナがいち早く発見して銃を構えた。
「こいつら、どうやって倒すんだっけ?」エラが記憶をたどっている。
「ヴァイタルアブソーブは効かなかった。」メロが思い出した。
「あ、思い出した。双子のアイドル技!」エラがすっかり思い出した。
「無理よ。あれは1週間に1階という制限があるの。」ミナルナがユニゾンで希望を潰した。
「それなら私が切り伏せます。」翡翠は浄化の刃を抜いた。「邪悪の業が深ければ深いほど、先祖伝来のこの至宝の剣、調伏の効果が高まるのです。」
「ならば私もお供しよう。」フレイヤも剣を抜いた。「生と死を統べる者として、この剣でどんな闇でも切り払ってくれよう。」フレイヤの剣が輝きを纏った。
ダークナイトがシールドバッシュで翡翠を吹き飛ばそうとしたとき、翡翠の刃はダークナイトの腕を盾ごと切り落とした。青黒い血を吹き出しながらうろたえるダークナイトを、今度はフレイヤの剣が横殴りに切りつけ、腹を割かれたダークナイトはその場に倒れた。1体、また1体と、2人は見事な連携でダークナイトたちを切り伏せ、周囲は黒い骸の山になった。魔法と物理の両方に対して強い耐性を持つダークナイトは、おそらく素材として高く売れるだろうと踏んだ俺は、少し不気味だったが、がまんして腕と足と頭部を切り取ってアイテムボックスへ放り込んだ。
「そろそろ半分ぐらい進んだかしら?」エラが高い位置まで飛んで遠くを確認した。
「あ、あっちのほうに敵がいるってミミが言ってる。」
メロの警告に従って俺たちは慎重に進み、敵を遠隔攻撃の射程に捉えた。銃撃は音で大軍を呼び寄せてしまうので、エルフたちのアローレインで敵の数を減らしてから突撃することにした。
「行くぞ!」フレイが先頭に立って剣を振り上げた。エミーは弾が味方に当たる怖れがあるのでとどまり、こちらへ逃亡してきた敵を至近距離で仕留める。エルフたちも、白兵戦は苦手なのでこちらにとどまった。エミリーと同じように落ち穂拾いだ。飛び込んだフレイヤ、翡翠、ミナルナの4人は、獅子奮迅の戦いで敵を切り伏せ、死体の山を作った。敵のレベルはオーガや中位の悪魔族である。エラとメロは空中からここぞとばかりに吸いまくり、エロスオーラを燦然と振りまいている。俺は死体の山から素材になりそうなものを切り取ってアイテムボックスに放り込んだ。魔物の死体処理にだんだん慣れてきた。ハイエナという二つ名が付く日も近いかも知れない....いや、付けさせないからな、そんな二つ名は。
「ピー!」ミミが警戒の声を上げた。「ピーピピピー!」
「え、あっちの扉?」メロがひそひそ話し合っている。話が通じるのか?
「あっちの扉、怪しいってよ。番兵が2体、けっこう強そうだって。」
「行ってみよう。財宝室かも知れない。」
番兵の姿が目視できる距離まで近づいた。全く違うタイプのモンスター2体だった。1体はミノタウロス。ギリシャ神話の迷宮の番人、頭が牛で身体が人間の巨体。もう1体はラミア、上半身が美女、下半身が大蛇。ゼウスの愛人だったのが、ゼウスの妻ヘラによって怪物にされ、自分の子どもを飲み込んでしまったという悲劇のモンスター。たぶんミノタウロスは怪力による物理攻撃、ラミアは魅了や幻惑などの精神攻撃を仕掛けてくる。さて、どう出たものか?
ミノタウロスとラミアのタッグ、いやらしいですね。力と知略。われらのプリモ隊はどう出るのでしょう?




