魔王城攻略1
魔王城、とうとうやってきました。10人パーティーというのは心強いですね。
「魔王城って簡単に入っていけるのかな?」メロがミミの頭をなでながら訊いた。
「ふつうは門番がいるだろうし、門番にたどり着く前に見張りもいるんじゃないの?」エラがパタパタ浮遊しながら答えた。
「邪魔する奴がいたら、その都度排除すれば良いよ。」ミナルナがユニゾンで応じた。
「これだけの大部隊にちょっかいかけてくる雑魚はいないんじゃない....あ、いた!」
ガーゴイルの集団が空から襲いかかってきた。銃弾と矢の攻撃を受けて大半は落ちたが、まだ4~5体が爪と牙で前衛に襲いかかる。もちろん、フレイヤの剣とミナルナの忍刀で一瞬にして切り伏せられた。この襲撃を皮切りに、コボルドやオークなど、お約束の雑魚がわらわらと湧いてきたので、翡翠さんやサキュバスの魔法が炸裂して一瞬にして殲滅した。翡翠さんは、本来の陰陽術ではなく、魔法屋マンソンジュで無理矢理買わされた使い切りのロールを用いた。邪魔なのでさっさと使い切るつもりのようだ。
「あーん、ミミちゃん、怖かったね。大丈夫だよ。ママが守ってあげるからね♡」メロはママになったらしい。それを見てエラが舌打ちしている。
「あ、あそこが入り口だ。」ミナルナが指差す先に門番の赤鬼と青鬼が立っていた。
「やれやれ、私の国の獄卒が魔王城の番兵ですか。」翡翠は肩をすくめた。
「私がやろう。2体一度にだ。万が一負けて死んだときは蘇生してくれ。だが、それまでは手を出すな。」フレイヤは好戦的なな笑みを浮かべて右手で剣を抜き、左手に電撃を纏わせた。
勝負は一瞬だった。青い稲妻が赤鬼の身体を貫き、同時に渾身の袈裟切りが青鬼の上半身を切り裂く。なすすべもなく2体の巨漢モンスターは門の前で沈んだ。美技とは彼女のためにある言葉なのだろう。俺は思わず拍手をしてしまった。
「あ、さっきの言葉だが、補足させてくれ。死んだときは蘇生させろと言うのは、私がリヴァイヴを唱えられるからだ。私がいる限り、倒れてもすぐ蘇生させられる。さっき魔法屋で治癒魔法を手に入れたとき、どういうわけかリヴァイヴも覚えてしまった。どうやら私は死を統べる存在のようだ。というわけで、プリモよ、蘇生のロールを使えるのはおまえだけなので、このことをしっかり覚えていて欲しい。」
門に入って広場を通ると、花壇の植物がごそごそと動き出して襲ってきた。どうやらこの城の植物はすべてモンスターのようだ。植物モンスターは燃やすに限る。メロが空中からブレスを浴びせ、周囲はすべて燃えかすになった。玄関の扉を開けると、メイドが3人出迎えた。
「魔王城へようこそ。」
「うわ、なんかみんな微妙に翡翠さんに似てる。」ミナルナがユニゾンで言った。
「黒髪に黒い瞳っていうだけて全然似てないですよ。民族的特性でひとくくりにするのは良くないですよ。っていうかあなたたちも日本人じゃないですか。」翡翠は口を尖らせた。うむ、たしかにそうだが、似てないこともなさそうな。
「どうせ擬態したモンスターですよね?茶番は良いからかかってきなさい!」翡翠は切れ気味に言うと先祖伝来の浄化の刃を抜いた。
「ふふふ、擬態なんかしてませんよ。これが私たち本来の姿です。こんな私たちをあなたはその刀で切り伏せるというのかしら?残酷なお方。」
「だったらそこをどけ!」フレイヤが剣を抜いた。「私はたじろがない。」
「ちっ!」メイドたちは距離を取ってガーターベルトからダガーを取り出した。
「気をつけて!あいつらアサシンよ。うちらと似た空気を感じる。」ミナルナも抜刀して不意打ちに備えた。
その瞬間、3人のメイドは跳躍して散開し、煙玉を投げた。俺たちは一瞬視界を奪われ、敵の位置がわからなくなった。そして...俺は腹にダガーの一撃を受けて絶命した。
「倒すのは柔らかい後衛からってね。」「アサシン学校で習ったわ。」「後ろから前にだんだん殺す。」
「プリモっ!」エラがウィップで敵を牽制しつつ俺を抱き抱えて空中へ逃れた。「フレイヤ、お願い!」そして空中から俺の死体をフレイヤにパス、フレイヤがトス、じゃなくて抱き止めた。
「我と主神オーディンの理を持って命ず、リヴァイヴ!」俺は蘇ったが、抉られた腹が超痛い。「傷よ癒えよ、キュア!」ふう、助かった。
「このクソアマがぁあ!」メロが鬼の形相でメイドに炎を吐きかけたが、メイドは高笑いしながら攻撃をかわした。
「壱の原子、六の原子、壱七の原子、疾く集まりて結びつき、虚なる帳、光喰らい、識を縛る。幽なる毒、眠りの息吹、此処に顕現せよ!急々如律令!」凜とした翡翠の声が響き渡り、その瞬間メイドたちは昏倒してその場に倒れた。
「CHCl₃、すなわちトリクロメタン、俗称はクロロホルムです。これで無力化できました。さて、どういたしましょう?」
「首をはねよう。」フレイヤが剣を握って近づいた。「我が召喚主を一度は殺めたのだ。その命をもって購うのが当然の報いだ。」
うわ、これはどうしたもんか?このビジュアルで首をはねるのはちょっと困るんだが。しかしここにいるのは俺以外すべて女。ビジュアルに情けをかけるはずもない。むしろ殺意が増す。エミリーはリボルバーの撃鉄を下げて銃口をメイドたちに向けた。
「いや、待て。魔王城は初踏査。マップもない。こいつらを道案内に使おう。なに大丈夫、俺が色仕掛けで...」バシン!エラのウィップが俺の背中に炸裂した。
「あんたに扱えるタマじゃないってことくらいわからないの?」
「そうだそうだ、このDT野郎!」メロが禁忌の罵倒を俺に浴びせた。
「最低ですね。あのまま事切れれば良かったのに。」翡翠さんの言葉には何の屈折もない。
「魅了は女には効かないからなあ。」エラはため息をついた。
「うちらに任せて!」ミナルナがユニゾンで声を上げた。「くノ一は知ってるんだよ、くノ一の責め方ってやつを。アサシンなんてくノ一の劣化版みたいなものだからイチコロさ。ちょっとみんな、プリモの目を覆っておいて。淑女のエチケットってね。」
俺はエラに目を塞がれた。聴覚は衣擦れの音、え?という小さな驚きの声、う!という小さな悲鳴、あ!という小さな羞恥の声を拾った。
「もう良いよ。」ミナルナの声でエラは俺の目を解放した。何があったのかはわからない。3人のメイドは後ろ手に縛られて目を覚ましていた。顔が上気し、小刻みに震えていた。ダガーとガーターベルトはまとめて捨てられていた。その下に何やら小さな布きれのようなものも見えた。周囲には気まずい空気が流れていた。翡翠さんは目を伏せ、フレイヤは怒りで顔をこわばらせていた。エミリーは音の出ない口笛を吹きながら銃に弾を装填していた。エラとメロは心なしか嗜虐的な笑みを浮かべていた。
ミミの索敵で余計な戦闘を避けつつ、メイドたちの案内で俺たちは上の階に進んだ。魔王は最上階にいるらしいが、メイドたちはその姿を見たことがないらしい。少し期待していたが、RPGではお約束の宝箱はなかった。ひょっとしたら財宝室がどこかにあるのかもしれない。今回の魔王城攻略で、冒険者は準備にすごく金がかかるということを実感したので、できることなら財宝も奪いたい。
「おい、メイド!」俺はできるだけドスのきいた声で呼びかけた。「金貨や宝石が隠されている部屋はないか?」
「わかりません。私たちは下働きなんです。ふだんは1階と2階の掃除と来客の応対を担当しています。」
「応対ねえ。では2階までしか城の内部はわからないんだな。」
「はい。2階までは兵士の待機所、食堂、武器庫、部下たちの寝室があります。財宝の類いはありません。あひゃっ!」メイドは変な声を上げたが、気にしないでおこう。
ガーターベルトにダガーを仕込んだメイド、そしてみんな黒髪ロングでアーモンド型の黒い瞳。あざとい編成です。




