ガトリングガン、そしてドッペルゲンゲリン
攻略のための準備がだんだん整ってきました。
「いらっしゃい!ここは鍛冶屋スーリーだ。」
Sourisネズミか。なるほど、あえて長音符を付けたのは財布をこっそり盗む奴と区別するためか。たしかに店主は小回りのききそうな小男で器用そうではある。
「まず弾丸の補充だ。銃はアイドル双子の4丁とエミリーの2丁、口径に合う銃弾をそれぞれ30発ずつ。」
「ちょっと待って。実は作ってもらいたいものがある。」エミリーが設計図を持って前に出た。
「ほう、これは珍しい銃だな。」店主は興味深げに設計図を見ている。
「ガトリングガンと言う。作れそうか?」
「こいつは鍛冶屋魂に火を付ける仕事だ。任せてくれ。」
「明日までにできるか?」
「既存の武器から転用できる部品がいろいろあるから何とかなるだろう。でも、俺も他の仕事をすべてほったらかしにしてこいつにかかりっきりになるんだ。それなりの報酬はいただくぜ。」
「おいくらかしら?」財務相エラが前に出た。
「そうだなあ...2000ゴールドでどうだ?」
「1500ね。」エラの目が少し輝いたようだ。
「わかった。1500ゴールドで請け負おう。」店主はどうやら魅了されたようだ。でも吸われてはいない。エラはわきまえている女だ。吸ったら仕事に影響が出る。
「あと、ガトリングの弾丸も頼む。そうだな、1000発用意してもらおうか。」
あ、エラを通さずにエミリーが勝手に発注しちゃったよ。まあ、これはしょうがないか。銃は強力な武器だが、ランニングコストがかかる。近代以降の戦争が経済力の争いだというのも頷ける。Money ist Power! 誰か言ってなかったっけ?じゃあ、俺が言おう。マネー・イズ・パワー! なんかあまりに陳腐で格言になりそうもない。鍛冶屋の支払いは3000ゴールド。さあ、次へ行こう。次は動物屋だ。ふつうはテイマー御用達の店だが、テイマーじゃなくても、カナリヤによる毒ガス探知とか、動物を買うパーティーはそこそこいる。しかしここは気を引き締めて行かないと、「きゃあカワイイ!」が発動するととんでもないことになる。
「動物屋ミミだよ。可愛い子がいっぱいそろってるよ。」
「きゃあカワイイ!」ほれ見たことか。さあ、エラ、出番だぞ。って、エラ、おまえだったんかい!
「これ欲しーい!」はい、もちろんメロも欲しいよね。似たような翼持ってるから。
「これください。いくらです?」値段を聞く前に「ください」言っちゃってるし。
「1000ゴールドだよ。毛並みが良いからね。」店名にぴったりのカワイイ店主だ。男だけどな。
「このキャットバットという動物はダンジョン探索に何か役立つのか?」とりあえず俺が冷静に尋ねてみた。
「音波レーダーで300メートル先まで索敵ができるよ。」
「まあ、お利口なのね!」エラはもう抱っこしている。買うしかない。
ということで動物屋で1000ゴールドを消費した。このキャットバット、まさか餌にすごく金がかかるとかないよな?明日エミリーの新武器を受け取ったら、ようやく魔王城攻略の開始だ。準備が長かった。明日になったら、アタランタの後釜を召喚しよう。魔王城攻略の切り札になるかも知れない。
晩飯が終わり、みんな自室や夜の町へ出て行ったので、俺は翡翠さんを呼び止めて昨夜の酒場へ連れ出した。自分の分身を把握していないのはやばい。
「ええっ!!!!」
翡翠さんと分身は言葉を失った。びっくりしすぎて目玉が落ちそうだった。それはそうだろう。もう一人の自分と言える存在が目の前にいる。
「翡翠さん、この人はあなたの分身術で作り出したんですよね?」
「はい、たしかに式神の原理を応用して分身を作り出せないか実験していたことはたしかです。でも、目の前に顕現させたことはなくて、それがこのような形で目の前にいるとは。」
「私の源...ですか。お目にかかれて幸甚です。」さすが翡翠さんの分身だ。言葉遣いが優雅だ。
「なぜこのようなお店に?」翡翠さんは夜の町で働く分身があまりお気に召さないようだ。
「突然身1つで、はい、下着姿でこの世界に顕現したので、こうするしかありませんでした。」
「なんと、下着姿で顕現する仕組みなのですか。それは問題です。でも全裸でなくて本当に良かった。分身の術式、もっとしっかり構築しなければなりませんね。とりあえず、あなたはこのまま収束させましょう。」
「おねがいします。酒場の女は分身であっても翡翠様には辛い環境でした。」
分身はシュルシュルと縮んで翡翠の手に戻った。
「翡翠さん、分身を顕現させるなら、自分のそばに出さないとやばいよ。」
「たしかにそうですね。もう少し研究してみます。」
「俺で良かったら立ち会うよ。」
「えーと、事故が起こったときのことを考えると、遠慮させていただきます。」
分身の術、いろいろ配慮しないとやばいことになりそうです。プリモは別に顕現の恥ずかしい場面を期待したわけではないと思いますよ、ええ、たぶん。