金策クエストいろいろ、そして水中の覇者エラとメロ
みんな金策がんばってね。
俺はできたてほやほやのブックレットとパンフレットを持って市場へ来た。露店を開くやいなや長蛇の列ができ、用意したブックレットはすぐに完売になった。俺は本屋が用意した「書店にもあります」の旗を立てて、市場を後にした。宿に帰ると、金策チームがちらほら帰ってきていた。みんな仕事が早い。どんなクエストをこなしてきたのだろう?
「プリモ~、5000ゴールドのクエストが売り切れになっていたので、速攻で2000と3000のを片付けてきた。報告事項は特になし。以上!」最近のユニゾン組はタイパコスパ班でもある。しっかりこなして早めに帰宅、いや若いねえ、17世紀人だけど。
「私たちはちょうど余っていた7000ゴールドのクエストをこなしてきました。」さすがエリート中のエリート翡翠さんだ。
「がっつり鉛玉ぶち込んでやったので、鍛冶屋でたんまり補充してくれよ。」エミリー姐さん(見た目は幼女寄りの少女)は運用にランニングコストがかかるのか。まあ、仕方ない。エルフで慣れた。
「私たちは新衣装を汚さないように、血や体液の出ない敵を選びました。」エルフィーナはすっかり俗っぽくなった。
「あまり高価な矢を消費したくなかったので、風魔法で撃破しやすい敵を選びました。でも、それだとあまり高価な報酬が期待できず、稼いだのは、はい、これだけです。」フェリシアは申し訳なさそうに3500ゴールドを差しだした。まあ、稼いできただけ偉い。だけど、この資金難の原因でもあるからなあ。
「ちなみに敵は何だったの?」
「サンドゴーレムとアースゴーレムです。数で稼ぎました。」
「ゴーレムなら倒した敵からコアを抜き取って売ればけっこうな稼ぎになるんじゃない?」
「あ!」2人はしまったという顔をした。
「まあ、次から回収してきてね。お金はいくらあっても邪魔にならないし。」俺はだんだんイヤな感じのリーダーになってきてはいないだろうか。そういう顔になったらイヤだな。
残っているのはサキュバス2人か。大丈夫かな、あいつら?
そのころエラとメロはダンジョンの13階層にある地中湖に浮かぶ小島にいた。この地中湖を通れば、冒険者は簡単に14階層に行ける。だが、ここにたくさんの水棲モンスターが住みついたので、よほどの上位パーティーでないと安全に通過できなくなった。通過できたとしても消耗しすぎて、それ以降の探索に支障を来す。そこで殲滅クエストが発生した。報酬は8000ゴールド。上位パーティーにとっては微妙な額だし、コスパタイパが悪いので引き受け手がいない。レベル的に妥当なパーティーだと、数の暴力に押し切られる可能性がある。というわけで引き受け手がいないまま報酬がつり上がったクエストをエラとメロが引き受けたのだった。そもそもこの2人は、人助けという殊勝な理由で動く連中ではない。自分勝手で享楽的、サキュバスなのだから当然だ。しかしこのクエスト、実は彼らにとってとても魅力的だったのである。まず飛翔可能なので移動が楽。いまいるこの小島にもひとっ飛びだ。そして、これが重要なのだが、彼らは試してみたくてしょうがなかったのだ。クラーケンとリヴァイアサン攻略で得た新スキル、水中活動を。
「じゃーん!水着回だよ♩」
「うふふふ、気持ちいいわねー♪」
「ずいぶん倒したわね。」
「倒すたびに吸っているから、ちっとも消耗しない。」
「みなぎる一方だわ。」エラは戻ったナイスボディーを確かめてご満悦だ。
「みなぎっているので覚えたばかりの闇魔法、すごい威力!」メロは無意味にそのあたりに放っている。
「やめなさい。景色の色が変わるわ。」
「水着姿だと武器が装備できなくてつまんない。」
「たぶん危険防止で武器にそういう処置が施されているんじゃない。いろいろ危ないもの。」
「ポロリとか、ねえ、ポロリとかでしょ?」メロは異様に食いつく。
「さて、また仕事しましょうか。今度は何かしら?」
「サハギンばかりで飽きた。なんか珍しいの出ないかな?」
「そんなこと言ってると強い奴が出てきちゃうわよ。」エラは余裕の笑顔で言った。
「お先にいただきっ!」メロがカッパと対峙している。初めての敵だ。
「あらあら、ご新規さんだと思ったら雑魚じゃないの。」エラがつまらなさそうに口を尖らせた。
「エラー、後ろ、後ろ!」カッパを瞬殺したメロがエラの背後を指差す。そこそこ大きい。クロコダイルロードが大きな口を開けてエラを飲み込もうとしている。
「あらやだ、気持ち悪―い!」エラはヴァイタルアブソーブをしながら水中を華麗に泳いで攻撃を避けた。
「これでもくらえっ!」メロが覚えたての闇魔法を放った。これは何と言ったら良いのだろう?クロコダイルロードの身体が急激に老化して細胞が崩れたように見えた。そしてそのまま紫の血液を水中に溶かしながら湖底へ沈んでいった。
「ぷふぁあ!」精気を吸いすぎたエラがゲップをするように息を吐いた。そしてそのまま地味で清楚なサキュバスに変貌を遂げてしまった。
「エラさんてば、なんでここでぷふぁあするのよ!」
「なんかキモい精気だったんだもの。」
「ねえ、エラ。このままじゃ埒があかなくない?」
「そうね、このままじゃみんなに置いてきぼりにされちゃう。」
「どうしよう?クエストを放棄すると今までの苦労が水の泡だし。」
「ボスを倒しましょう。」
「え、それで片がつくの?」
「ええ、だいたいそんなものよ。ボスが倒されれば雑魚はどんどん減って消えてしまうものなの、そういうお約束なの!」エラは自分ルールを押し通す気のようだ。
「そうね、討伐の証拠をギルドへ持って行って、あとは勢いで報酬をもらっちゃおう!」まあ、メロは元々こういう奴だ。
「どこにいるのかしら?」
「たいてい湖底の洞窟の奥とか。」
「そうね、それに決めましょう。」おい、敵の位置をこっちで決めるな。
「あ、洞窟だ!」メロはラッキー体質だ(ってことにしよう)。
「よーし、ボス退治にゴー!」
「あ、いたいた!」メロは全く緊張していない。
「いちおう声かけたほうが良いかしら?」
「ふつうはあっちから声をかけるんだよ、よくここまでたどりついたな、とか。」
「じゃあ、待ってましょうか?」と言いながらエラの目が心なしか紅く輝いている。
「ねえ、エラさん、しれっと吸ってるじゃない!」
「だって、さっきぷふぁってやっちゃったから、今スカスカなんだもん。」
「しょうがないなあ。じゃあ私も...」
「さすがボスだけあって極上ね...」エラはみるみるエロス精気を貯め込んで艶っぽさを回復した。
「ホント、美味しい、これ!」メロは顔を上気させて、もはやこっそりではなく全力で吸っている。
「戦いが待ってるからあんまり満腹にしないほうが....」
「え、何言ってるの、エラさんのほうが一杯吸ってるってば...」
「だってしょうがないじゃない、止まらない...」
「戦闘の作戦を相談しなくて大丈夫かな?」
「吸い尽くしてから考えましょ。」
「そうだね。美味しいものはすぐいただく、それが正義!」
「ねえ、だんだん味が薄くなってたんだけど。」
「あ、ホントだ。もう空っぽなのかな?」
「あららら、メロちゃん、あれ!」
「あれ、ちっちゃくなってる!」
「どうしよっか?なんかこの状態で倒すと夢見が悪くなりそう。」
「そうだ、生け捕りにしてギルドに持って行って、慌てふためいている間に勢いで報奨金ゲット!」
「やだ、メロちゃんってば天才!」
本業が忙しくなってきたので、たぶん金曜日まで更新がないかもしれません。あ、でも金曜日は抜歯の次の抜糸、うぉああ、こんな医療用の単語でまさかの同音異語だなんて!警察の捜査本部でも、絞殺と噛殺がいっしょですやん。




