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巫女とサキュバスと異世界と、そして人文知は役立たず  作者: 青水


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エルフは買物番長だった

冒険前の準備ってお金がかかるものなのですね。チートでお金無限大にする人の気持ちがわかってきました。

 結局、武器屋で4000ゴールドも使ってしまった。次は道具屋か。もうどうにでもなれ。俺は、女を雑に扱わない男にして人文知を極めた男だ。なんか属性が変な混ぜ物になっている。


「ねえ、プリモさん、私たち、衣装を変えたい。」エルフィーナが真面目な顔で言った。


「これから魔王城を攻略するのに普段着じゃ気合いが入りません。」フェリシアも真剣に圧を掛けてくる。


「お、おう、好きにしたまえ。君たちは大切な仲間、雑に扱うはずがない。」俺は精一杯の太っ腹な男を演じた。まるで太客の女に気前よく贈り物をしたりごちそうして、あとで店の売り上げで回収する気でいるホストのように...いや、そんなことを考えたら顔に出てしまうじゃないか。


「オートクチュール・トレ・シェールにようこそ!」満面の笑みでマダムが出てきた。いかにもなタイプだが...って、おい!何だその店名は!「トレ・シェール(とても高価)」だと!いかん、危険な香りしかしない。退散しよう。「あ、間違えました」と俺が言おうとする前に、「まあ、すごく素敵なお店♡」とエルフの2人は店に入ってしまった。


「お客様たちのような背が高くて華奢なスタイルの女性には、そうですね、これなんかいかがでしょう?それともこれとか?」マダムは次々と商品を取り出してはエルフィーナとフェリシアに渡してゆく。手練れだ、絶対に客を逃がさないモードコンシェルジュだ。


挿絵(By みてみん)


「私、これにしようかな。」エルフィーナが値段を聞かずに試着室へ入った。


「私はこれが気に入ったわ。」フェリシアも商品をてに試着室へ入った。なるほど、エルフの村には貨幣というものがなかったから、高いとか安いという概念がないんだ。仕方ない。ここは気前よく...って、待てよ、貨幣のない村から来て値段を気にしたことがないのなら、俺の気前よさもノーカウントじゃないか。


「ジャーン、どうかしら?」満面の笑顔で試着室から出てきた美形エルフの2人。そりゃ似合わないわけがありません。ファッションモデルとして成功する要素すべてを種族として備えているのだから。


挿絵(By みてみん)


 高かった。2人で3000ゴールド。思いがけない出費だった。転生前に女性に服を買ってあげたことがない俺にとって初めての感情だ。得がたい経験をありがとう。感謝のとは言いがたい涙が目に溢れた。いけない、涙を拭って次は道具屋だ。


「いらっしゃいませ。お客様、運が良い。きょうはバーゲンセールですよ。賞味期限切れのポーションがなんと3割引!」ここの主は非常に調子の良いおばさんだ。賞味期限切れなのにたったの3割引か。これは期待できる、悪い意味で。


「ではその賞味期限切れのポーションを全部とハイポーションを20本、それからMP回復薬を30本ください。」ここでも買物エルフが大活躍だ。そうか、森に住んでいたから町で買物が楽しいのか。うん、うん、わかるよ。田舎から都会に出てきた女の子が一度はかかるはしかみたいなものだね。落ち着くまで温かい目で見てるよ、俺。


「ねえ、これなあに?」メロが不思議な形状の道具を持ってきた。


「あ、それですか?それは罠解除の道具です。1度使えば壊れますから複数個お求めになる方がほとんどです。」


「ではそれも20個ください。」エルフィーナが振り返って購入を決めた。なるほど、買物の主導権は渡さないという意思か。コンカフェでは気づかなかったエルフの特性を知ってしまった。エルフ一般の特性かどうかは知らないが。


 道具屋での支出は500ゴールド。MP回復薬がけっこう高かった。次は魔法屋か。どんな品物があるのだろうか。たぶんそこでもエルフの大人買いを見ることになるだろう。今のメンバーで通常の魔法を駆使するのはエルフだけだし。エルフたちの様子をうかがうとあきらかに高揚している。アウトレットモールに突撃した女子のようだ。


「魔法屋マンソンジュへようこそ!」魔女のような主人は、しかし老婆ではなく落ち着いたアラフォー女性だった。って、待てよ!何なんだ、この町の店の名は?さっきは「トレ・シェール(とても高価)」で今度は「マンソンジュ(嘘)」だと!ふざけてんのか?


「どのような魔道具をお探しで?」


「護符とロールです。」はい、エルフィーナさん、お任せします。そもそも魔法のことは買物番長のあなたにしかわかりませんから。


「護符はどんなものがあるのかしら?」


「護符は属性に応じて6種類、それからデバフ防御が、睡眠、麻痺、暗闇、沈黙、混乱を防ぐ5種類です。しかし効果が相殺するものは付けられません。」


「考えるのが面倒ね。その11種類を人数分、つまり全部で99個ください。」フェリシアは考察を避けて行動へ走るタイプのようだ。もちろん値段は確認しない。


「魔法のロールは使い捨て?それとも習得できるタイプかしら?」エルフィーナは興味深そうに尋ねた。


「どちらもございます。使い捨てタイプは安価で、習得タイプはそれぞれその100倍します。一生ものの能力になりますからそれだけの価値はあるかと。」


「でも術者との相性はあるのでしょう?」


「はい、もちろんです。でもご安心ください。我がマンソンジュでは術者の属性適性を測定することができます。使えない商品を売るつもりはありません。」


「測定は無料なのか?」ずっと黙って支払いをするだけの役だったので、ここで俺は口を開いた。


「はい、商品との適性を調べるためでしたら。でも適性ありと出た場合にはその商品をお買い求めいただくことが条件です。」


「みんなもやってみなさいよ。隠れた才能が眠っているかもしれませんよ。」エルフィーナは俺たちを煽った。煽られたって、ここにいるメンバーはクセが強い奴らばかりで、今さら新しい魔法になんか興味があるはずは......え?えええっ!みんな手を挙げてるじゃないか。翡翠さんまで...


「はい、では並んでくださいね。順番に適性を測定しますから。」怪しげな測定器を奥の棚から持ってきて店主は測定を始めた。エルフィーナは隣でノートを広げて結果を書き込んでいる。


「プリモさん、あなたも測定するんですよ。リーダーなんだから。」エルフィーナはぼーっとして様子を眺めていた俺の手を引いて測定器の前に連れてきた。


「それではこの窪みに右手と左手を置いてください。そのまま動かないで...」まるでレントゲンを撮るみたいな処置で俺は魔法適性を調べられた。


「おや、あなた...ほとんど魔力がありませんね。なので、魔法を覚えることはできません。ただ...珍しい、リヴァイブのロールを使えます。これはめったにない能力です。絶命した仲間を1分以内なら生き返らせることができます。すばらしい。1本300ゴールドです。何本必要ですか?」


「10本!」エルフィーナが躊躇うことなく言った。3000ゴールドだよ。


「すばらしい、プリモさん、これであなたも役に立てます!」エルフィーナは全力で褒めたつもりだろうが、こっちは褒められた気が全くしなかった。


 測定結果は、エラとメロは闇のみ。闇攻撃魔法の習得ロールを2本。エルフの2人はすでに習得済みの風魔法に加えて、エルフィーナはHPの回復、フェリシアはデバフの回復の魔法適性があった。習得ロールをそれぞれ1本。アイドルくノ一の2人は適性ゼロ。俺はホッと胸をなで下ろした。エミリーもゼロ、良い感じだ。翡翠さん、何とすべてに適性ありと出た。マジか、破産する...と思ったが、「私、習得する意思はありませんので、使い捨てタイプを1本ずつお願いします」と言ってくれた。日本とロンドンという貨幣のある世界で暮らしてきただけのことはある。俺は心の中ではなくリアルに手を合わせていた。


 とんでもない出費だった。2万ゴールドも減ってしまった。リヴァイアサン討伐の報酬がまるごと吹き飛んだ。それ以前のエルフ買物番長の爆買いを含めると、2回のクエストで稼いだ金のほとんどが消えたように思われる。果たしてこのまま魔王城へ行っても良いのだろうか?まだ鍛冶屋へ行ってない。防具屋へも行ってない。


こんな状態で魔王城へは行けそうもありませんね。どうしましょう?そしてほっぺの腫れもどうしましょう?

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