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廃墟の館、ラストバトル

廃墟解放クエストの後半戦です。強敵が出そう。

 2階の探索を任された翡翠とアタランタは、廊下を進みながら話し合っていた。


「翡翠さん、この世界での戦いはこれが最後になります。あなたと出会えて良かった。」


「アタランタさん、こちらこそあなたと出会えてたくさんのことを学べました。特に興味深かったのはギリシャの神々の話です。たくさんの神々がいるというのはとても豊かな世界だと思いました。実は私の国にもたくさんの神々がいるんですよ。」


「そうでしたか。神々がたくさんいるといがみ合ったり争ったりするので、人間は大変ですけどね。」


「はい、たしかにとても強力な神々同士が争うと、人間にも深刻な影響を及ぼします。でも。たったひとりしか神様がいないのは寂しい。やはり色とりどりの世界が私は好きです。」


「まったく同意見です。あなたと会えて良かった。」


 そんな異文化交流で友情を深め合いながら2階のマッピングに励んでいると、ある部屋から「侵入者は誰だ...我が眠りを妨げる者に死を与えん...」という重苦しい声が聞こえる。翡翠が扉を開けると、中に漆喰の鎧を纏った禍々しい騎士がいた。槍を構えるアタランタ、呪文を唱え始める翡翠....


「ふふふ、愚か者め、我に魔法は効かん。そして刃も槍も通さん。おまえたちは手も足も出せぬままここで朽ちるのだ。」


「そう簡単に行くでしょうか?小娘と思ってなめてかかると痛い目を見ますよ。」翡翠は不思議な輝きを発する刀を抜いた。「この世界に転生させられてからこれを抜くのは初めてです。御巫家に代々伝わる浄化の刃、あなたの闇が深ければ深いほど、抉られる痛みは耐えがたいものになるでしょう。いざ、尋常に勝負を!」


挿絵(By みてみん)


 ダークナイトは刃の輝きに少したじろいで、何かを呼ぶように片手を上げた。その瞬間、ダークナイトの背後から漆黒のモンスターが2体現れた。双頭の黒いケルベロスが2体、4本のブレスから逃れるのは難しい。斬り殺せば残りの1体の攻撃を受ける。そしてその攻撃に手間取っていれば、ダークナイトの重い一撃が襲いかかるだろう。翡翠が冷静に対処を考えていると、アタランタが投げた槍がケルベロス1体を貫いた。それを見た瞬間、翡翠は残る1体を逆袈裟切りで仕留めた。形勢が逆転した。アタランタはアルテミスに奉じた月光の矢をつがえて弓を引き絞った。しかし、絶体絶命と思われたダークナイトは、その巨体に似合わない俊敏さで宙に跳び、天窓を破って逃亡してしまった。


「強敵でした。油断しているところを急襲されていたらやられていたかもしれません。」刃を鞘に収めながら、翡翠は静かに残心の息吹を吐き出した。


「まったくっもって卑怯な輩だ。とてもナイトを名乗る資格はない。」アタランタはケルベロスの死体から槍を引き抜きながら、ダークナイトが逃亡した天窓を睨んだ。


「ともかくこの階層はかなり危険なモンスターが出るようです。警戒しながら進みましょう。アタランタさんのこの世界での最後の戦場です。悔いのない戦いを!」翡翠は珍しく熱い闘志が沸き起こるのを感じていた。


 マッピングしながらしばらく歩くと、周囲の大気が変化し始めた。死の臭い、瘴気がだんだん濃くなってゆく。まるでこの先に死体の山でもあるかのように。布で口と鼻を押さえながらなおも進むと大きなホールに出た。その真ん中に階下へ降りる階段がある。そこを降りれば、エルフチームと金竜疾風チームに合流できそうだ。そこまでたどり着ければだが。というのも、ホールの中には無数の腐乱した死体が蠢いていたからだ。ゾンビの大群だ。それぞれの個体は非常に弱いが、数の暴力が厄介だ。ざっと見た限り、100体以上いる。あれがすべて立ち上がって襲ってきたら...


「ひとまず静かに廊下へ戻りましょう。対策を考えなくては。」翡翠はアタランタを促して、音を立てないように廊下へ戻った。



「そろそろ合流地点に近づいたころだ。エラ、メロ、様子を見てきてくれ。たぶん的の本拠地はこの先のホールだろう。ボスがいるに違いない。3チームの力を結束して攻撃する。突入のタイミングについて話をまとめてきてくれ。」


「オッケー、じゃあ私は2階を見てくる。」エラはフワリと宙に舞った。


「じゃあ私は東西の廊下が出会う地点ね。」メロはパタパタと飛んで行った。



「翡翠さん、アタランタさん、大丈夫?」2人を見つけたエラは声をかけた。


「はい、大丈夫ですが、この中には大量のゾンビがいます。効果的な術式を考えて殲滅しますので、もう少し、あと15分お待ちください。」翡翠は自信満々の顔でエラに伝えた。


「わかったわ。あと15分と他のチームに伝えます。」



「あ、エルフチームとくノ一チームだ。おーい、大丈夫~?」メロは2チームが合流を果たしているのを確認して喜んだ。


「あとはこの扉の中だけです。おそらく強敵が複数いるでしょう。」エルフィーナは矢筒の中身を確認しながら言った。


「私、雑魚相手にアローレインを放ってしまったので、もう弓矢は使えません。魔法を担当します。使える魔法は風魔法と治癒魔法です。」フェリシアは空になった矢筒を外した。


「私たちはコスパとタイパを考えて戦ったからまだまだ余裕だよ。」ミナルナはいつものユニゾンで元気一杯だ。


 エラがやってきて、あと12分で突入とみんなに伝えた。空気がガラッと変わった。いよいよ館の最終バトルだ。敵の正体がわからないのが少し不安だが、このメンバーで臨めば不可能なことは何もないだろう。



「アタランタさん、それでは手はず通り、私の詠唱が終わるまで矢の嵐で敵を足止めしてください。倍速詠唱しますので5秒だけお願いします。」


「了解しました、翡翠さん。お任せください。アルテミスの加護を我が手に!」


 扉が開けられた。蠢くゾンビたち。すぐには気づかれないが、アタランタの放ったアローレインが10体ほど倒したところで波のようにこちらへ押し寄せる。


「壱壱の原子、壱漆の原子、疾く集まりて結合し、穢れを祓う清めの塩と化せ!その純粋、その結界、不浄を凍らせ、邪気を滅ぼせ!急々如律令!清めよ!」倍速で唱えられた自然学的陰陽術が塩化ナトリウム(NaCl)を構成し、ゾンビの群れは塩漬けになって清められてしまった。お清めの作用で瘴気も収まり、翡翠とアタランタは無事に階下へ降りる階段までたどり着いた。


 ちょうどそのとき、階下の大ホールで戦端が開かれていた。敵は5体のダークナイト、8体のケルベロス、そしてラスボスとみられる謎の女だ。エラとメロのヴァイタルアブソーブは、ケルベロスには良く効いたが、ダークナイトにはあまり効果がないようだ。弱体化したケルベロス8体は、エルフィーナの弓矢とミナルナの銃撃であっという間に殲滅された。だが5体のダークナイトは厄介だ。魔法も物理もあまり効果がない。ラスボスらしい女は勝ち誇ったような笑顔で玉座にふんぞり返っている。


「ねえルナ、あれやっちゃう?」


「そうね、ここで出さなくっちゃだね。」


 双子アイドルくノ一は何やら相談して一時戦線離脱した。まさか敵前逃亡?いや、違う!いったん廊下へ下がった2人は、まばゆい光の衣装で再登場した。何をやる気だ、この戦場で?


「ミナルナの最終奥義、アンジェルック・ユニゾン・クレッシェンド!」


挿絵(By みてみん)


 え?何これ?セーラー戦士?激しい浄化の光に包まれてダークナイト5体は塵になって消え、ラスボスらしい女も息絶え絶えになって玉座にしがみついている。


「これでお終いですね。」浄化の刃を抜いた翡翠と光の矢をつがえたアタランタが女に迫る。


「うわ、許してくれ!もう悪さはしない!山に帰る!」女は急にしぼみしわくちゃの婆に姿を変えた。


「わしは裏の山に住む山婆じゃ。ちょうどこの館が空いていたので女王様気分に浸りたかっただけなのじゃ。ほれ、このとおり、土下座するから許してたもれ。許してくれたら、お礼に温泉の湯量を倍にする。な、悪い話じゃなかろう?もう二度と下界へは降りてこんから、な、ええやろ?」


 なんだかやる気が失せたので、山婆は山に帰した。女には誠意を尽くせと女神も言ってたし、婆だからと女扱いしないのは最低だと、なぜか洗脳されつつある俺なのであった。


緊張する場面もありましたが、みんなの活躍で何とか乗り切りましたね。アタランタさんにとって、この世界でのラストバトルでした。

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