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山麓の町の廃墟

大きな館の廃墟、雑魚モンスターの巣窟、面倒くさいが報酬のためだ。

 港町の次に俺たちが到着したのは、俺が最初にメフィストと訪れた町と港町の間に位置する山麓(さんろく)の町だ。町の背後に山地がそびえ立っている。山の泉から流れ出る綺麗な川が町を潤し、水に恵まれた温暖で静かな町だ。こんな平和な町に高額クエストがあるのだろうか?アタランテの期限はあと2日、つまり明日消える。今日中に何かクエストをこなしておきたい。とりあえず宿屋だ。ほう、ここには温泉があるのか。クエストの後で温泉、これは格別だな。それではギルドへ行くか。


「こんにちは、S級冒険者パーティですが、何か高額報酬のクエストはありませんか?」


「山麓の町のギルドへようこそ。ここは静かで平和な町なので、あまり物騒な案件はないのですが、町の背後にそびえる山の入り口付近にある廃墟が手付かずのまま放置されていまして、新しく購入した持ち主が困っているのです。モンスターが住み着いているらしくて。これを追い出すか殲滅するかして、廃墟をリフォームできる状態にして欲しいのです。報酬は4万ゴールドです。」


「なるほど、住み着いたモンスターの数も不明な巨大な廃墟ですか。確かに一筋縄ではいきませんが、うちのメンバーなら大丈夫、お任せください。」


 実戦ではまったく役に立たないが、いちおうリーダーなので交渉はまとめる。「私にお任せください」とは言ってないからセーフ。広い山麓の館の探索には、全員で当たることにしよう。考えてみれば、前回不参加だったエルフもS級だった。


 

 現地に到着した。思ったより広大な廃墟だ。廃墟と言っても崩れ去った石材の塊ではなくて、しっかりリフォームすれば驚くほど美しく蘇るタイプの、いわばまだ命を宿した廃墟だ。かつては壮麗であったはずのそのたたずまい、尖塔はないが、そしてゴシック様式ではないが、ゴシックホラーの舞台にふさわしい荒涼にして幽玄な雰囲気、翡翠とアタランタは待ち受ける危険を予感して緊張を高めた。


挿絵(By みてみん)


「それじゃあ出発しよう。まず密集して玄関の入り口まで進む。そこから先は3隊に分かれてマッピングしながら進むことにしよう。俺とエラとメロは入り口近くのセーフルームを司令室として待機し、各方面からの報告を整理して作戦の仔細を決める。各部隊との連絡は、空中を移動できるエラとメロの担当だ。」


 扉を蹴破って中に入るとちょうど良い広さの控えの間、アンテチェンバーがあった。ここを作戦司令室として使おう。


挿絵(By みてみん)


「部隊分けは改めて確認する必要もないだろう。エルフィーナとフェリシアのエルフグループ、金竜疾風の双子くノ一ミナルナ、そして異文化神聖乙女隊の翡翠とアタランタだ。これから配付するノートにマッピングしてくれ。では散開!」


 ああ、司令官ポジションの台詞を言うとめちゃくちゃ気持ちが良い。俺は人の上に立つ人間なのだろうか。何か気の利いた格言とかないか...脳内書庫を調べたが何も見つからなかった。通常であれば書庫はどんどん膨れ上がるのが相場だが、俺の脳内書庫はどんどん縮む。異世界に来てからまったくインプットしてないのだから当然だ。まあ良いや。どうせ人文知は役に立たないのだし、俺は異能の美女や美少女に養われているヒモみたいなものだからな。くっ、自分で言っておいて空しくなる。各部隊は東と西と2階に別れて探索を始めた。それぞれエルフチーム、くノ一チーム、異文化チームが担当する。


「あのお...」おずおずと俺に声をかける女がいる。「私のこと忘れてませんか?」


挿絵(By みてみん)


 おっと、そうだった。ここのところいろいろありすぎて、聖書世界の伝説の踊り手サロメをすっかり忘れていた。コンカフェのエンタメ要員として連れてきたのだが、荒事を任せるわけにはいかないので、最近はすっかり影が薄くなっていた。もちろん店の営業中は客をその踊りで魅了してくれていたのだが。


「私、もうお役に立てないのではありませんか?」


「そ、そんなことはないよ。店のステージでたくさんのお客さんを魅了してくれていたし。」


「そうですが、お店が休みになると、私何もすることがありません。戦えませんし。誰か別の人とチェンジしたほうがよろしいのでは?王宮では父のヘロデ王も心配してると思いますし。客人のオスカー・ワイルドさんの去就も気になります。」


 うむ、確かに。現在の状況でサロメが果たすべき役割はない。そうであればチェンジも選択肢の一つか。だけど、この枠ってチェンジできたんだっけ?女神はたしか「やり直しはできない」って言ってなかったっけ?だが当の本人が帰りたがっているのを無理に引き止めるのもな。それに女神はイレギュラーな翡翠さんを転生させている。何とかなるんじゃないか?


「サロメさん、俺としてはあなたを引き止めたい気持ちはある。しかし、あなたにも事情があるだろう。元の世界に帰れるのなら帰って頂いてかまわない。女神の助けが必要なら、いくらでもこの頭を下げて頼んであげよう。」


「良く言った、プリモよ!」うわ、女神が頭の中に直接...「女の気持ちに誠実に向き合う、わかってきたじゃないか。良いだろう、その成長を祝福してサロメのチェンジを認めよう。私に向かって厳かに『すみません、チェンジお願いします』と頼むのじゃ。良いな?」


 ???!!なんだ、その特殊な業界で発せられるような台詞は?しゃあないな、言うしかないか。俺は一切の照れ笑いも躊躇もなく大きな声でおおらかに「すみません、チェンジお願いします!」と言った。すると、「ああ、ありがとう、プリモさん...」という声とともにサロメの姿が透き通って消えていった。


 

 そのころエルフチームは東の廊下を進んでいた。長い一本道の廊下で、右手には外に通じる窓、左手には等間隔で部屋に通じる扉が並んでいる。2人はすべての扉を開けて内部をチェックし、マップに書き込んだ。4つめの扉を開けたとき、魔物が待ち受けていて不意打ちを受けそうになった。ゴブリンだ。奇襲に失敗した仲間をゲラゲラ笑うその集団の数は約10体。Sランクのエルフの敵ではなかった。矢をつがえるのも面倒だとばかり、エルフィーナは無詠唱で風の魔法を放った。カマキリのようなつむじ風がゴブリンたちの四肢を切り裂く。



挿絵(By みてみん)


 そうこうしているうちにフェリシアは5つめの部屋のマッピングを終え、6つめの部屋の扉を開けようとして思いとどまり、ニコッと笑って弓をつがえ、「きゃあ、いたーい、足が刺さって抜けないわ」とわざとらしい悲鳴を上げた。その瞬間に扉が開き、ゴブリンの群れが現れ、そしてフェリシアの弓矢の的になった。


挿絵(By みてみん)


 

 西の廊下を担当しているミナルナは、4つめの部屋でコボルドの群れを殲滅したあとで、あまりにも弱い雑魚敵に2人同時に攻撃するのはコスパもタイパも悪いことに気づいた。17世紀から召喚されたが、なぜかそういうことに気を遣う現代っ子なのである。


「こんなやつら、1人で十分なんじゃ?タイパ的に。」


「うん、それに弾ももったいないよ、コスパ的に。」


「忍者チャンバラ、久しぶりにやっちゃおうか?」


「うん、ダイエットにも良いし、晩ご飯美味しいし!」


「じゃあ、私はこの部屋を片付けるから、ルナはあっちをお願いね。」


挿絵(By みてみん)


「オッケー、任せて!」


挿絵(By みてみん)


 この調子で2人はすべての部屋のコボルドを切り捨て、廊下の突き当たりで右折する角まで到達した。この角を曲がって進めばエルフチームと合流することになるだろう。


Sレベルにゴブリンやコボルド、相手が悪すぎたね。忍者チャンバラが良い感じでした。

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