港町の大冒険
初クエストは港町、海での戦いになります。
海が広がる。カモメが飛んでいる。港には大小様々な船。やってきたぜ、港町。まず宿を確保し、それからギルドでクエスト受注だ。宿は景色の良い高台にあった。窓からの海の景色が最高だ。王都のギルドで体験した最低の出来事は早く忘れて港町を楽しもう。この宿の食堂は海鮮料理が名物らしい。ふふふふ、お魚久しぶり。よし、ギルドへGoだ。
「港町ギルドへようこそ!」受付嬢は爽やかな笑顔で出迎えた。そうだよ、そうだよ、ギルドの受付はこうでなくては。おっと、受付を褒めたら王都ギルドの最悪体験を思い出しそうになった。
「何か景気の良いクエストはないか?」
「そうですね、報酬が高いのは....あ、その前に登録証のランクを見せてください。決まりなので。」
「お、おう、俺は保護者としてついてきたので、実際にクエストを受けるのはこいつらなんだ。」俺はみんなの後ろに引っ込んだ。
「はい、Sランクの登録証です。」Sランク持ち全員が胸を張って登録証を提示した。
「まあ、すばらしい。これだけSランクが揃っていれば魔王だって討伐できそう。はい、では...これなんかどうでしょう?海の覇者リヴァイアサンの討伐です。リヴァイアサンは配下のクラーケンを倒すと出現します。なので2連戦になります。報酬は3万ゴールドです。海の魔物なので船で出撃する必要があります。船は港湾事務所で相談してください。これだけSランクが揃っていれば、チャーターに応じる船長がきっと見つかります。」
おお、初戦の相手がリヴァイアサンとは、いつ負けてもおかしくない強豪揃いのトーナメント戦みたいだ。みんな、気合いを入れるんだ。よし、港湾事務所へ行こう。俺たちはクエスト依頼書を受け取ると港湾事務所に出向いた。
「あすみませーん!」ミナルナのユニゾン。「船のチャーターをお願いできますか?」
「お、嬢ちゃんたち、船釣りでもするのかい?」人の良さそうな船乗りが出てきた。
「いえ、討伐クエストです。」2人は依頼書とSランク登録証を見せる。
「へえ、たまげた。こんなかわいい嬢ちゃんたちがSランクでリヴァイアサン討伐か。」
「Sランクはあと2人います。」ミナルナが促すと翡翠とアタランタが登録証を見せる。
「へえ、別嬪さんだらけで全員Sランクとはねえ。」
「おい、おまえら!」男は背後に向かって大声で言った。「この別嬪さんたちがレヴァイアサンの討伐だ。驚くなよ、全員Sランクだ。誰か船を出したい奴はいないか?」
日焼けした屈強な男が一人手を挙げた。「俺の船を使え。1000ゴールドと保険料100ゴールド、合計1100ゴールドだ。保険に入っていれば船が沈められても安心だ。もっともこっちが溺れちまえばお終いだがな。」男は金を受け取ると無愛想な笑顔で船に向かい、俺たちも男に続いた。
「さあ乗れ。言っておくが救命道具はない。海に落ちたら自力で泳げ。」
海に出て小一時間ほど経つと波が大きくなった。よく見ると泡だって渦巻きのようになっている場所がある。触手が3本出てきた。クラーケンだ。かなり巨大だ。「よーし、任せて!」ミナルナが銃を抜いて飛び出した。
「ああ、かかってきなさい!私たちが相手よ!」ミナルナの嵐の銃弾がクラーケンの身体を穴だらけにした。
「壱の原子、六の原子、疾く集まりて結合し、燃ゆる滴と成りて敵に降り注げ!急々如律令!」翡翠さんの陰陽術で空中から黒い雨がクラーケンに降り注ぎ、揮発性の刺激臭があたりを包んだ。そして、メロがパタパタと飛んで炎のブレスを吐くと、油まみれのクラーケンは勢いよく燃え上がり、あたりにはイカ焼きの香りが立ちこめた。そしてクラーケンはブシュウと海に沈んだ。
ああ、あれに醤油をかけて食いたい、俺がそう思った瞬間、海はさらに荒れ狂い、甲板は斜めに傾いた。いよいよ本命か。出た、半端なく巨大だ。船を一飲みできそう。こんなのと戦えるのか?海のモズク、いや藻屑になるのか?
「メロ、行くわよ!」エラが飛び、メロがそれに続いた。
「さあ、思い切り吸いましょう。吸えばきっと海の力が得られるはず。」
「わーい、そうなったらメロ、ファイア・ウォーター・サキュバスとして爆誕しちゃうじゃん!」
「その名前は長すぎよ。さて、行くわよ!ヴァイタル・アブソーブ!」
何と言うことだ!リヴァイアサンのレベルがみるみる下がって小さくなって行く。縮みに縮んでワニぐらいの大きさになってしまった。それをめがけてアタランタが槍を投げた。槍は小型リヴァイアサンの脇腹に突き刺さり貫通した。絶命を確認したエラは、討伐証拠としてリヴァイアサンの目玉と心臓を抉り取った。魔物の精気を思う存分吸い込んだ2体のサキュバスは満足したようにエロスオーラをダダ漏れにして甲板に舞い降りた。
俺たちはギルドへ行って討伐の証拠と引き換えに3万ゴールドを手に入れた。ふふふ、初回の滑り出しとしては首尾は上々。クエスト達成の後は打ち上げの宴会だ。何しろ俺たちは一流冒険者だからな。今夜は久しぶりの海鮮料理だ。ああ、本来なら刺身を醤油につけて食いたいところだ。江戸前寿司も良いな。しかしここは異世界の港町、そんな都合の良いものはないのだ。
「ねえプリモさん、お刺身やお寿司が食べたくないですか?」翡翠が秘策があるような顔で尋ねてきた。
「そりゃ食べたいよ。それと冷や酒。」
「ですよね?ならばごちそうします。さっき帰りの船でミナルナと相談して、和食パーティをしようってことになったんです。任せてください。」
マジか?翡翠さんの手料理、うれしすぎるだろ!あのニタニタ女神のアドバイス通り、誠意をもって細やかな気遣いを忘れなかったのが功を奏したのだろうか?くっそー、あの女神に感謝の気持ちが湧いてくるなんて、感情をどう整理して良いかわからなくなる。
クラーケンとリヴァイアサンを倒して、和風3人美少女の手作り料理を食べられるなんて、うらやましいですね、戦闘に全く貢献しないプリモくん。




