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店を休業にして、いざ冒険の旅へ!

繁盛店だけど手狭になりました。どうしましょう?

 戦いを終えて店に向かう翡翠とアタランタを、沿道の市民たちは拍手と歓声で賞賛した。さながら勇者の帰還である。恥ずかしさでうつむき加減になりそうなのを我慢して、2人は笑顔で沿道の歓声に応えた。


「アタランタさんの戦いから清らかな気が感じ取られました。その支えになっているアルテミスという御霊(みたま)には純潔の決意が込められているようですね。」翡翠は女神を御霊と呼びつつも、その寄って立つ原理を的確に理解しているようだった。


「はい、アルテミスは月と純潔の女神、月下の狩人です。彼女が怒りを向けて罰を与えるのは、貞潔を穢す者と神域を侵犯する者です。獣に姿を変えられ、その結果命を落とします。」


「なるほど、清き乙女の決意の化身ですね。尊さを感じます。」


 店に戻った2人はその場にいた全員から大きな拍手で迎えられた。お祝いのシャンパンが何本も開けられ、店内は祝賀ムードに包まれた。王宮警察からも長官がやってきて、感謝の言葉を述べた。感謝状の授与式も近々開催されることになるという話だった。これだけ目立つことをしてしまった以上、ただの人気コンカフェという位置づけでは澄まなくなるだろう。まあ、どんな形であれ、王都での名声が上がるのは素直に嬉しい。美しき王都の盾、ビューティフル・ロイヤルシールドと呼ばれるように今後も精進しよう。


 それにしても、仲間の人数が増えたので住居部分が手狭になってきた。とは言っても市街地に部屋を借りてバラバラに離れて暮らすのは、安全上の理由から避けたほうが良い。となると増築が唯一の解決策になる。だがその場合、工事が終わるまで店は休業することになる。資金は十分にあるので、閉店中の生活には困らないが、住む場所をどうするかという問題が浮上する。町中の宿に分宿して待つのも芸がない。退屈になれば何かやらかす奴らが必ず出て来る。まとめ役になるはずのエラが率先して何かやらかしそうだ。どうする?とりあえず建築請負の業者に出向いて、費用や工期のことを訊いてこよう。


「こんにちは。コンカフェをやっているプリモと申します。」


「おお、あの大賢者の!」応対に出てきたスタッフによって俺は賢者から大賢者にランクアップさせられた。


「いやいや、それほどでも。ときに店の増築について相談があるのですが...」


「ほう、増築ですか。あれほど繁盛していつも満席ですから、増築は良い決断だと思いますよ。」


「横に広げる土地もないので、思い切って4階建てにして、1階と2階を店舗に、3階と4階を住居と本部にしようと考えています。」


「良いアイディアですね。王都でも4階建ては増えています。土地は限られていますからね。」


「そこで伺いたいのですが、工期と予算はどのくらいと見積もれば良いでしょう?」


「そうですね、実際の状況を確認しませんと正確なところは何とも言えません。今お伺いしてもかまいませんか?」


「どうぞ、どうぞ。まだ開店前なのでちょうど都合が良い。」



 業者の見積もりによると、工期は1週間、予算は約20万ゴールドとのことだった。考えていたより高い。まあ2階分の増築だから2階建ての家ぐらいはするか。まあ何とかしよう。それより1週間となると、休業期間の半ばでアタランタが消える。補充も考えなければならない。そして消える前にもう少し活躍してもらって、この世界の思い出を作ってもらおう。さて、どうする?資金を作りながら充実した1週間を過ごすとなると、そうだ、全員で慰安旅行だ。旅の先々でギルドに寄ってクエストを受け、高額報酬をゲット。これなら楽しいし、お金も貯まる。アタランタの思い出作りもできる。


「というわけで皆さん、コンカフェは増築のため1週間の休店となります。その期間を利用して、俺たちは慰安旅行に出かけましょう!行く先々でギルドに寄って、高額クエストを受注し、増築の資金も貯め、観光も楽しみ、仲間の絆も深めましょう!」


 全員から拍手と歓声が沸き起こった。みんな冒険に飢えていたのだ。最初に向かうのは隣の港町だ。どんなダンジョンが待っているのだろう?俺もわくわくしてきた。とりあえず王都のギルドに行って、全員の冒険者登録をしなければならない。登録カードがないとクエストが受けられない。おお、正統派異世界ものっぽくなってきた。



「いらっしゃいませ。おや、大賢者のプリモさんではありませんか。皆さんおそろいで登録ですか?」


「はい、工事でしばらく閉店になるので、その間に旅をしながらクエストをこなそうと思っています。」


「それは頼もしいですね。皆さんのような強者揃いなら、さぞかし楽しい旅になることでしょう。それではこの書類に必要事項を書き込んでください。スキルのレベルがわからないところは空欄のままにしておいてください。書類を回収してからこちらで計測します。」


 うっ、待てよ。計測と言ったな。俺、賢者と偽っていたが魔力なんかあるわけがない。どうする、バレるな、うん、これは完全にバレる。騙しようがない。俺は舌先三寸で丸め込められないか必死に考えたが、答えは出なかった。ええい、ままよ!なるようになるしかない。そう考えながら、俺は「なるようになるしかない」を英語、ドイツ語、フランス語に頭の中で翻訳していた。こんな場面で受験生モードになってしまう自分が情けない。


「御巫翡翠様、すばらしい。その華奢なお身体でフィジカル関係もほぼすべてS、魔力は測定不可能です。そもそもこちらの世界の魔力と概念が根本的に違うようで、測りようがありません。アタランタ様、フィジカルはSS、いやSSSです。特に脚力、その速度は人間の限界を超えています。すばらしい。」


挿絵(By みてみん)


「ミナ様ルナ様、フィジカルはすべてSS、魔力関係は、こちらも系統が違うので測れません。ですが、その特徴は、単体では発揮できないけれど、2人がシンクロするととてつもない力を発揮するということです。いやあ、恐れ入りました。エルフのお二人、エルフィーナ様とフェリシア様。エルフ族だけあって、弓術は文句なしのSSです。そして魔力も、エルフ族ですから人間離れした高さです。すばらしい。そして、エラ様、メロ様、申し上げにくいのですが、人間用の測定器では調べようがありません。ただ、長年ギルドの受付を務めてきた経験から言わせてもらえば、普通の人間よりはずっと高い能力が隠されていると感じ取れます。測定不可能なので高ランクの登録はできませんが、高ランクメンバーと一緒ならどんなクエストにも参加可能なCランクで登録させていただきます。そして最後にプリモ様...」


「わかっている。みなまで言うな。俺も実は測定不能...」俺は脂汗を隠しながら何とか言いつくろおうとした。


「いえ、測定できました。実に簡単でした。あなた、人間としてほぼ最弱ですね。役立たずと言っても過言ではない。せいぜい他のお仲間のお荷物にならないよう、細々とした雑事をこなして捨てられないように精進することです。何が大賢者だ、このボケカスが!」


 や、賢者とは言ったけど大賢者と言いだしたのは町の人たちだからね...俺は流れる涙を気取られないよう俯いてFランク登録証を受け取り、後ろに下がった。ふん、俺の実力はこういう形で計測できるものではないんだよ、くっそー、ふざけやがって。冒険者に暴言を吐くギルドの受付なんて俺の知ってる異世界もので見たことがないわ。


「プリモ...落ち込まないで。」エラが俺の頭を撫でた。「そうだよ、がんばだよ!」メロが俺の手を握った。やめてくれ!泣いてしまうじゃないか...ウ...ヒック...ウェエエエン!俺は人目もはばからず号泣していた。


挿絵(By みてみん)


なんと、ふつうの異世界もののように冒険の旅に出てクエスト攻略ですか。そりゃそうですね。コンカフェが繁盛しているだけの話なんて誰も読んでくれませんものね。ぐぬぬ、奥歯を抜かれても泣いたりしないぞ。

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