物語世界からの召喚、ミナとルナ、そしてサロメ
コンカフェの開店が明日に迫っています。
コンカフェの開店が明日に迫ったので、俺は女神からもらった褒美で俺の作品から3人召喚することにした。久しぶり、と言っても1週間ぶりだが、濃い日々を過ごしてきたので、召喚の方法が良くわからなくなった。自分の名前だけだとダメだったな、たしか。二つ名を名乗ってからじゃないと召喚できなかったはずだ。よし、まず誰を召喚しよう?やり直しはできないので慎重に考えろと女神も言っていたな。条件を挙げて行こう。まずコンカフェの店員として接客しなければならないのでビジュアルとコミュ力に長けた女性、これが大事。次に、何と言っても異世界なので、レッサーデーモンのような魔物との戦闘になる可能性がある。戦闘力の高さが求められる。他の作品からこの世界への召喚となると、「最下層のヴァンパイア」以外の登場人物にとっては、俺と同じ異世界転生になる。順応力の高さが問われるな。うーむ、誰にしようか?除外しないといけないのは、敵対する可能性が高いキャラ。ヴァンパイア・クイーンなどを召喚したら大変なことになる。ヴァンパイアは全員除外だ。織田家の忍者は世界各国に潜入させられていたから順応力が高そうだ。金竜疾風、何世代にもわたってたくさんいるから選ぶのが大変だな。コンカフェ向きは...、そうだ、あの元祖アイドル双子、これが良い。たしか体術もさることながら射撃に長けていたはずだ。アカプルコで大活躍のミナとルナ、「2人合わせてミナルナでーす」のくノ一だ。よし!
「人文知を極めしプリモが召喚する、金竜疾風のミナとルナ、ここに顕現せよ!」
「えー?何々?ここはどこ?」ユニゾンで慌てふためくアイドル双子くノ一。
「あー、コホン、突然の召喚に戸惑っているようだが、心配ない。俺は君たちの作者、いわば生みの親である。安心して仕えるように。」
「えー?なんかイヤだ。弱そうだし。」ユニゾンで拒否られディスられた。
「何を言う。君たちの作者なんだよ。作者と言えばキャラにとって神の如き存在なんだよ。君たちがいるのは俺が物語を書いたからだ。俺はつまり君たちにとって...存在論的...」
「この世界のお金ちょうだい!」またもやユニゾンで労使交渉だ。「私たち急にこんな世界に連れてこられて、お金も住むところもないのよ。責任取ってお金ちょうだいよ!」
責任とかお金という単語に反応して見物人が集まってきた。やばい、こいつらはオーラがあるアイドルだ。世界はこいつらに味方するに決まってる。
「わかった、わかった、住むところは何とかするし、お金もあげよう。ほら、2人合わせて100ゴールドだ。」俺は銀貨を5枚渡した。
「ねえルナ、このお金、どのくらいの価値あるかな?」ミナがルナに尋ねた。
「銀貨だからね、たいしたことないと思うよ。」
「だよね。私たちが活躍していた17世紀のアカプルコで1ペソが3000円弱って感じだったから、これもそのくらいだとすると5枚で1万5千円。2人でだよ。舐められてるのかな?」
「アイドルは計算できないって思ってるんじゃない?作者のくせにバカなのかなあ?」
「ひっどーい!」ミナルナはたくさん集まってきた通行人をチラチラ見ながら嘘泣きを始めた。
「この人、私たちをさらってきて働かせようとしてるのに、お金はくれないって...」
「知らない町なのにどうやって生きていけば良いの?...クスン...」
町の人々から一斉に非難の目が俺に注がれた。これはホントにやばい。
「あ~、何か誤解があったようですが、大丈夫です。この子たちは私がマネージメントを担当しているうちのキャストです。歌も踊りも最高ですよ。もしお気に召しましたら、明日開店するコスプレ・カフェにどうかご来店ください。」
何とか取り繕って、ミナルナには店内に入ってもらった。
「お金は、お店が開店してからしっかり払うから。きっと大繁盛間違いなしなので、たくさんギャラもはずむよ。」
「ふ~ん、大丈夫かな?」ミナルナはユニゾンで疑念をあらわにした。
「あらまあ、かわいいデュオね。」エラが出てきて2人を褒めた。「ここは楽しい職場になるわよ。さっそくあなたたちのお部屋に案内するわね。」
ふう、何とか収まった。作者だからと言って登場人物を好き勝手に動かせるものではないらしい。次回は気をつけよう。次は、そうだなあ...ヴァンパイアは避けるということだから、眷属になる前の登場人物を選ぼうか。コンカフェなのでエンタメ能力が必要だ...うん、あいつだ。時空装置を暴走させて聖書世界へ飛んでしまったオスカー・ワイルドが出会った伝説の踊り子サロメ。これならダンスで客を魅了できる。よし!
「人文知を極めしプリモが召喚する、ヘロデ王の宮殿で踊る伝説の踊り子サロメよ、ここに顕現せよ!」
「何ですか、ここは?時空暴走ですか?私は父の王宮にいたはず。」
「どうか、落ち着いてください、サロメさん。私はあなたの作者です。あなたを物語に登場させたのが私です。」
「物語?そういえばあの客人もそんなことを言ってたわ。オスカー・ワイルドと名乗っていた。物語を書く人間だと。」
「そうです。あなたは聖書の世界の住人でしたが、ワイルドはそれを発掘したのです。彼の物語の住人として生み出したのです。そして私も、あなたを私の物語の中で生み出しました。」
「私はここで何をすれば良いのですか?」
「はい、そこの店の舞台で客に踊りを披露してくだされば。」
「いつも私は踊りを所望されるのですね。わかりました。踊ることが私の天命なら、それに従いましょう。」
「では店内へどうぞ。」
久しぶりの召喚、しかもやり直しができないやつで、なんとかやりきりました。あとはメフィストの後釜ポストが空いています。誰が召喚されるのでしょうか?