作品が出版される。そしてメロの災難。
いよいよコンカフェの開店に向けて物件探しです。良い物件が見つかると良いですね。
不動産屋で見せてもらった空き店舗は、どれも帯に短したすきに長しで、いまいちだった。水商売なので繁華街からのアクセスの良さは必須。だが、そんな場所はほぼすべてが埋まっている。それに王都は、現代日本ののような鉄道網がない。駅チカという概念がない。集客のポイントは何か?俺は不動産屋に訊いた。
「飲食店がが繁盛する場所ってどういうところですかね?」
「まず王宮の近所。王宮は観光客もそれ以外の仕事の来訪も多いので、腹が空けば店に入るでしょう。」
「飲食店と言ってもコンカフェですからね、どちらかというと水商売寄りの業態なんですが。」
「ならば冒険者ギルドの近くなんかどうです?冒険者はクエスト攻略のあとに一杯やるというのが相場ですから。」
「なるほど。何か良い物件はありますか?」
「これなんかどうでしょう?宿屋だったのですが、店主が引退したので空き家になっています。1階が食堂、2階が客室になっています。2階はスタッフの休憩所や事務室、さらにVIPルームとしても活用できますね。」
「これは良さそうですね。お家賃は?」
「賃貸でもかまいませんが、長らく続けられるなら買ったほうが良いと思いますよ。場所が良いので、店を畳むときは売却するのも簡単でしょう。お値段は70万ゴールドです。」
「わかりました。仲間と相談して決めますので、この手付金で押さえておいてください。」
俺は1000ゴールドを渡して店を出た。考えていたより大型物件だが、この物件は是非とも欲しい。俺たちはいま宿無しだ。宿屋暮らしでは何かと不便だ。元宿屋なら客室に住める。メフィストとエラがそろそろ戻るころだ。消えるまであと3日なのでさっさと金を引き出さなければ。
宿に戻るとエラとメフィスト、そして美形のエルフが2人いた。これは期待できる。
「おい、メフィスト。コンカフェを開店する物件が見つかったぞ。買取にしたいのでまとまった資金を悪魔財布から出してくれ。」
「おいくらで?」
「70万ゴールドだ。」俺はできるだけ平然を装って声がうわずらないように努めた。
「なかなかの金額ですね。月に49000ゴールドの利息が発生しますが、大丈夫ですか?」
「もちろん勝算はある。(おまえは消えるから借金はチャラになるからな)」
「了解しました。」メフィストはマントの中に手を突っ込んで大量の金貨を取り出した。
「よし、ではさっそく宿を引き払って新しい家に移るぞ。」
「ここにコンカフェを開き、2階は本部および住居とする。」
「70万ゴールドもしただけあって、古いけれどもなかなかの風格ですな。」
「リフォームしてかわいくしちゃうわよ。」エラはやる気MAXでオーラがダダ漏れになっている。
「メフィスト、すまん、あと10万貸してくれ。リフォームに金が必要だ。」
「旦那、大丈夫なんでしょうね、悪魔からそんなに借りて。」
「ふ、問題ない。(おまえはあと3日で消える)」
「きゃあ、素敵なお店!」エラとメロは狂喜乱舞した。だが、そのとき...
「旦那、存在が希薄になってきました...これは一体...」
メフィストが期限切れだ。今まで良くやってくれた。『ファウスト』の世界、あるいは中世民衆本の世界へ戻るときが来た。ありがとう、便利な悪魔...
「え、何があったの?」メロが駆け寄ってきて尋ねた。
「メフィストが役目を終えて魔界に帰った。あいつがいないので、今の俺たちは弱い。気をつけて行動するように。」
「あの悪魔のおじさん、皮肉屋だったけど愛嬌があって好きだったんだけどな...」
良かったな、メフィストフェレス。サキュバスのお嬢ちゃんに「好き」って言ってもらったぞ。聞こえなかったので思い出には残らないだろうが。
そろそろ作品が出版される頃合いだと思うので、俺は出版社を訪れた。編集部では編集長が新刊本を机に並べてニコニコしている。
「あ、プリモさん、ちょうど良いところにいらっしゃった。本ができました。」
「おう、3冊同時にですか。すばらしい。」
「はい、『ジョアンナ・ヴァン・ヘルシング ――The Vampire Queen』は30章からなる作品ですので、1冊読み切りの形で出版します。『最下層のヴァンパイアですが,飯が食えるようになりました。』は少し長いので、3回に分けて出版します。『織田家のアナザー・ジャパン』は長編ですので5回に分けましょう。それぞれ初版2000部で出します。印税は10%です。」
なるほど...
・織田家のアナザー・ジャパン https://ncode.syosetu.com/n7138kh/
・ジョアンナ・ヴァン・ヘルシング https://ncode.syosetu.com/n5112kj/
・最下層のヴァンパイア https://ncode.syosetu.com/n4361kk/
それぞれ初版2000部で印税が10%...本の価格は20ゴールドぐらいだから...俺は苦手な暗算を駆使して手に入る金額を割り出した。うむ、これはなかなかの収入だ。増刷されれば濡れ手で粟だ。良し!借金はチャラになったし、店はオープンしたし、印税も手に入った。これで俺の異世界生活も軌道に乗ったぞ。
店に戻ると、目つきの悪いイケメンとメロが睨み合っていた。
「ちっとも店に顔出さなくなったな、ナンバーワンの姫だったのによ!」
「もうホストクラブになんか行かないわ。あんたに貢ぐのもお終い。」
「何だと!さんざん甘い精気を吸わせてやったのに、恩知らずだな。」
「あんたの精気を吸ったせいで背が縮んだのよ。どうしてくれるの?」
「ふん、吸いながらトロンとした目をしていたくせに...」男は下卑た笑いを漏らした。
「ルシファーくん、こんなところまで追い回さないで帰ってよ。」メロは過去の触られたくない部分を暴露されて、怒りと羞恥で顔を赤らめた。
「ツケをきちんと払ったらな。売り掛けがたんまり残ってるんだよ、メロ姫さん!」
「そんなはずはないわ。いつも盗んだお金を全部あげてたじゃない。」
「足りねえって言ってんだ。」ルシファーはすごんだ。「痛い目を見ないとわからないか?」
「やるって言うの?人間がサキュバスに勝てるわけ...」
ヘラヘラ笑っていたルシファーが姿を変えた。人間じゃなかった。魔物だった。それも悪魔だ、こいつは。やばい。メフィストがいない今、荒事になったら困る。
ルシファーは飛び上がって空から攻撃するつもりのようだ。メロもサキュバスの姿になり空中に移動した。睨み合う2人、一触即発だ。
エラが心配そうな顔をして店内から出てきて、状況を察知したようだ。エラも戦闘に備えてサキュバスモードになった。空を見上げるエラの目が紅く輝き、上に伸ばした手から何やらピンクの光線のようなものが出た。対ヴァンパイア戦で大活躍したレベルドレインの吸引光線だ。ルシファーはそれを食らって一気に覇気がなくなった。そして、その機を狙ってメロがブレスで攻撃した。
レベルが下がったルシファーにはそれに耐える力はなかった。翼を焼かれて落下し、瀕死の状態であえいでいる。
「あら、レッサーデーモンじゃない。」つま先で焼け焦げたルシファーをつつきながらエラが言った。「レベルドレインするまでもなかったわ。下級の雑魚悪魔よ。」
「こんなのが店先に転がってたら厄介だな。警察に通報して牢屋にぶち込んでもらおう。魔物をぶち込む牢屋があればだがな。」俺は繁華街の交番に行って事情を話した。王宮警察の警察官が3人やってきて、焼け焦げた魔物を不思議そうに見ている。
「この魔物、どうしてこんな姿に?」警察官は不審そうに俺を見た。
「店に押し込んできそうになったので、黒魔法で成敗してやったのです。こいつは下級悪魔です。」俺はあたかも自分が賢者であるかのように説明した。
「そうでしたか。それは災難でしたね。この魔物は警察で引き取って処分します。」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
ルシファーくん、まさかのレッサーデーモンだったとは!レッサーデーモンのくせにルシファーなんて源氏名を名乗っていたのは悲しいコンプレックスのせいだったのかな?