エラとメフィストの聞き取り調査
プリモの策略通り、エラとメフィストは働くことになりました。まあ、暇な状態で放置していると何かやらかしそうだから、少しでも役に立ってもらいましょう。
「じゃあ始めましょう、聞き取り調査。私は王宮周辺から螺旋を描いて外壁方向へ、メフィストは逆に町の入り口から螺旋を描いて内部へ向かう、良いわね?」
「了解した。1人になったからといって問題を超すなよ。」
「はぁ?こっちの台詞なんですけど。なんかしゃべり方が雑になってきてない?」
「魔界の位階はこっちが上だからな。」
「私を勝手に魔界の住人にしないでくれる?私はスペシャルな存在なの。」
「まあお互いタメで行こうぜ。気を遣わなくて気楽だ。」
「気を遣わなくて気楽って、気が2回使われていてエレガントじゃないわね。まあ、悪魔にエレガンスを求めるのが間違っているけど。それじゃ、行くわよ。しっかり働いてね。」
メフィストはマントを翻して風を呼び、一瞬で町の入り口に到着した。
「さて...と、私はここから始めるのか。とりあえず兵隊さんに訊いてみようかしら。兵隊さんは頑丈だから、少しだけ吸っても良いわよね?」
「衛兵さん、ちょっと質問良いかしら?ほら、これ、民草の願いの依頼書よ。空飛ぶ火付け強盗について何か情報はないかしら。」
「われわれが知っている情報はすべて民草の願いの部署に上がっています。」
「そうか、そうよね、兵隊さんだもんね。ありがとうね。」
エラは王宮を後にして町の中心部へ向かった。
「真面目そうだし仕事中でかわいそうだったから、吸うのをやめちゃった。じゃあ、次は繁華街ね。あ、あそこのお兄さんに聞いてみよう。」
「おにいさん、ちょっと良いかしら?」
「はい、なんでしょう?」
「空飛ぶ火付け強盗の噂、聞いたことがある?」
「はい、もう大変な騒ぎですよ。逃げるときに空に飛び上がりつつ口から火を噴くんですよ。化け物ですよ、あいつは。」
「あら、怖いわね。出会っちゃったらどうしましょ。でも良い話を聞けたわ。ありがとうね。お礼にほっぺにチュウしてあげる♡」
「あっ!」男性は少しうろたえて、それから気が抜けたように「ふう」とため息をついた。
そのころメフィストは、町の外縁を歩いていた。とても良い季候で、町行く人々はみんな幸せそうだった。
「こんにちは、奥さん、私は旅の商人ですが、さっき恐ろしい噂話を耳にしたんです。なんでも空飛ぶ火付け強盗というとんでもない悪者が跋扈しているとか。商人なのでカネや商品を奪われて火だるまにされるのではないかと心配で心配で...」
「ありゃあ、そりゃ大変だねえ。お金のありそうなところばかり狙うらしいよ、あの悪人は。どんな仕掛けで空を飛んだり口から火を吹くのかねえ?お金持ちは戦々恐々さ。うちみたいな貧乏人はその点安心だけどねえ。」
「口から火を吹くのですか?」
「そうだよ、見た人がいっぱいいるんだ。化け物なのかねえ。あんたも気をつけなよ。」
「ありがとうございます。用心します。これ、お礼です。」メフィストは緑のガラス玉を女性に渡した。
エラは町の居酒屋でワインをちびちび飲んでいた。店に入るまでに5人の男に話しかけ、別れ際に少しずつ吸ったので、お腹いっぱいというか、サキュバスの場合はお腹が膨れるのではなく、色気が、いやエロスが充満するので、うっすらとピンクのオーラを纏っていた。
「メフィストもそろそろ来るかしら。あの悪魔、空も飛べるのね。なら荒事は任せても大丈夫ね、悪魔なんだから。かわいいサキュバスは下から応援してましょ。火傷するとお肌が汚れるし。」
「おう、先に来ていたか。」メフィストが入ってきた。悪魔モードで飛んできたので、まだどこかしら悪魔っぽい雰囲気をたたえている。つまり魔物っぽい2人が居酒屋で密会みたいになっている。
「あらメフィスト、何か情報はあった?」
「おう、どうやら犯人は魔物のようだ。目撃証言がたくさんあった。」
「私が聞いた話もだいたいそれに合致するわ。飛行可能で口から炎のブレス、こんな人間がいるわけない。」
「カネを欲しがる魔物って何かな?」
「あまり上級の魔物ではないわね。宝石などの財宝ならともかく、人間のお金なんて魔物は興味を抱かない。」
「ひょっとして人間に操られているとか。」
「可能性はあるわ。ともかく、今夜現れたら生け捕りよ。頼んだわよ。」
「頼んだわよって、おまえは戦わないのか?」
「いやよ、火傷したくないし、痛い目にも遭いたくないの。か弱い女を戦わせる気?最低な悪魔ね。」
「何がか弱い女だ、腹黒サキュバスめ。ずいぶんと吸いまくったようだな。ピンクのオーラがダダ漏れだぜ。」
「私は男たちから捧げ物をもらう存在なの。みんな喜んで捧げるんだから良いじゃない。ともかく戦いは任せたわよ。負けそうになったら助けてあげる。」
「負けそうになるかも知れないので、そのときは頼む。」メフィストはにやりとした。こいつは前科がある。負けるふりをしてエラを巻き込む気満々だ。
「あ、ごめん、撤回するわ。負けたら代わりに私がやっつけるってことにする。だって誇りある悪魔がサキュバスなんかに助けてもらったんじゃ、恥ずかしくて魔界に戻れなくなるもの。」奸智はエラのほうが一枚上手だった。
空飛ぶ火付け強盗はどうやら魔物だったようです。どんな魔物なのか楽しみですね。