#2 お姉さんがとても強いのですが
こんにちは、COCOAです。
1話が思ったより見られていて吃驚しました。
私の性癖を埋めるように作り出した今作ですが、他の方々の性癖にも刺されば私としても嬉しい限りです。
「…え、どういうこと?」
寝起きであまり回らない頭の中はその一言で埋め尽くされていた。待って欲しい、この人は誰なんだろういやその前に先ず私の卵は何処へ。兎にも角にもこのお姉さんに聞いてみるしかないかな。
「え〜……っと、何方ですか?」
「えぇ〜?!酷い!マスターから産まれたのに、そんな扱いされちゃうんだ…」
シクシクとそれっぽい手振りを見せながら伝えてくるお姉さん。
「待って、私から産まれたってどういうこと?」
「あ、ごめんごめん。分かりにくかったよね。正しく言えばマスターの持ってた卵から無事産まれたのが私、ってこと」
なるほど、合点がいった。卵が無い理由もこのお姉さんが私に跨ってるのも全て分かった。
…いや待って。
「何で私に跨ってるの?というかそもそも何で卵から人が産まれてるの?」
「ん〜…マスターが分かりやすくするため?あと後半は私が人の姿になれるだけでれっきとしたモンスターだよ?」
人の姿になれるモンスターなんて居たっけ。少し調べた時には出てくるモンスターは、もっとこうモンスターらしい見た目をしていたはずなんだけど…
まあそこは良いや
「そっか、そういうこt」
「って言うのは建前で、私がマスターにくっつきたかったからだよ!」
「建前だったのね…なんで要らない嘘をついたの…」
「マスターが分かりやすくするためっていうのも強ち間違ってないからかな〜」
「まあそうだよね、暖めてた卵が無くなってたら普通吃驚しちゃうもんね」
「そういうこと!」
粗方ここまでの流れは分かった、まだ色々聞きたいことがあるんだけど…
「取り敢えず私の上からどいて欲しいんだけど…」
「ん〜…やだ!」
「なんでよ、もう貴女が私のテイムするはずだったモンスターなのは分かったから良いじゃん」
「私がマスターとくっつきたいから〜」
「えぇ…?」
「まあまあ〜そこはおいとこうよ、他に聞きたいことがあるんでしょ?」
「まぁそうだけど…」
まあこの際、大した事でもないことは一旦気にしなくても良いか。
「じゃあ先ず第一に、貴女は誰なの?」
「ん〜?マスターのテイムしたモンスターだよ?」
「そうじゃなくて、モンスターの種類の話」
「あ、そっち?」
「うん、そっち」
そう言うとお姉さんは少し悩んだ後に
「そもそもマスターならステータスから確認出来るんじゃない?」
あ、そっか。本当に私がテイムしたモンスターならステータス情報から見れるのか。
ん〜っと、どれどれ。多分私のステータスの下の方にあると思うんだけど…お、あった。って…何これ…
「ね、ねぇ…貴女の種族、というか貴女がどういうモンスターかは分かったんだけど…これ、本当なの?」
そこには目を疑うような情報が書かれていた。
「本当だよ〜!信じてくれないの?」
「いや信じてないわけじゃないんだけど…なんというか、現実味が無いというか…」
「まあ私って結構レアだからね!」
胸を張ってドヤ顔を見せるお姉さん。可愛い…ってそれは置いといて。
「いや、レアってもので済ませて良いとは思えないけど…」
私のステータスの下に出ていた【テイム済みモンスター】の欄には…
「【バハムート】…って、伝説というか架空のドラゴンだよね…?貴女がそんなモンスターにはこう…見えないんだけど…」
正直ステータスに書いてあるとはいえこの可愛らしいお姉さんの姿を見てもあまり実感が湧かない。
「それじゃあ元の姿見せよっか?」
「そうして欲しいのは山々だけど…此処でやると凄いことになりそうだから、少し移動しない?」
「それもそっか!始まりの街のすぐ傍にドラゴンが出たなんて情報回ったらビックリしちゃうもんね」
「そう、だからちょっとあっちの森の方に行こうよ」
そう言ってこの丘から西の方に見える森【バンカル】を指差す。
「じゃあ早速行こっ!私も早くマスターに見てもらいたいし!」
私のお腹の上からどいて立ち上がるとひょいっと私を抱えて歩き出そうとする。
「いやなんでよ、私歩けるし人に見られたら恥ずかしいんだけど」
「まあまあ良いじゃん〜」
機嫌良く歩き出したお姉さんの拘束を解こうとするも驚くことに1mmも解けない。
「マスターじゃ無理だよ〜、こんな軽い女の子がドラゴンに力で勝てるわけないでしょ?」
反論の余地が無い事実を言われ、私は諦めてお姉さんに抱えられながら移動し始めた。勿論その姿を周囲の人やすれ違う人にも見られその度に微笑ましそうに此方を見てくるから、恥ずかしさが限界に達しそうである。私は無力だ…
歩くこと20分。バンカルに到着し、始まりの街はおろか周囲には立派に伸びた木しか見えないほど中に入るとようやくお姉さんは私を降ろしてくれた。
「ようやっと降ろして貰えた…」
「色んな人に見られてたね〜、マスターが可愛いからかな?」
「それを言うなら貴女でしょうに…」
私に対して言われる可愛いの大半は小中学生に言うようなニュアンスが多いからこの場合はお姉さんが視線を集めてたと思うんだけど…
「えぇ〜、絶対マスターの事見てた人も居るって!」
やめて、恥ずかしい。
「まあそれは良いから。ほら、貴女の元の姿を見せてくれるんでしょ?」
「む〜…マスターの方が可愛いのに…」
余りにも声が小さいものだからよく聞き取れなかったのだけど、まあ大したことは言ってないと思うし
「ほら、むくれてないで貴女の元の姿を見せて?」
「まあいっか、どうせ後々分かってくるだろうし……うん、良いよ!それじゃあ念の為にちょっと離れた場所でやるからそこで見ててね!」
「分かった」
私が頷くと此方に背を向けてお姉さんが歩き出す。20mほど離れた位置に行くと歩くのを止めて私の方を向いた。
「それじゃあ今から元の姿に戻るからね〜!」
「は〜い」
普段の声量だと聞こえないだろうし、大きめの声で返事しておく。
声が届いたのか、お姉さんが頷くとその場でジャンプした。瞬間に雷が降ったかのような音と閃光が走り、思わず目を瞑ってしまう。吃驚してるうちに直ぐに明るさが落ち着いたのでゆっくり目を開ける。するとそこには
「おぉ〜…想像以上の迫力がある…!」
目測でも10mはある事が分かるほどの大きさと、立派な両翼と尾を持ち、惚れぼれするほど綺麗な銀色のバハムートがそこに存在していた。
「その状態で喋れるの?」
「喋れるよ〜!」
抑揚は変わらないが、少し低くなった声が聞こえてくる。
「じゃあ意思疎通はその状態でも問題なく取れそうだね」
「どう?カッコイイ?」
「うん、凄く格好良いよ」
「ふふん!」
どうやら嬉しそうに自慢げな顔をするのは変わらないみたい。可愛い。
「見せてくれてありがとう、もう姿を変えても良いよ」
「は〜い!」
返事を皮切りに気付かぬ間に人の姿に変わっていた。
「あ、姿を変える時は特に何も無いんだ」
まあ雷が走って出てくる姿が人っていうのも何だか締まらない気がするから良いんだけど。そう考えてる間にお姉さん姿のバハムートが寄ってきた。
「今更だけど、貴女って呼ぶんじゃなくて何か名前付けてよ〜」
「え?まあ名前が無いと区別しづらいか…」
「そうそう!それに何か他人行儀だし」
「そっか、もう仲間だもんね」
何か良い名前はないかな〜。バハムートから何か考えるのも難しいし…あ、そうだ
「じゃあシル、ってどう?」
「良いじゃん!じゃあ私、シルって名乗る〜!」
どうやら喜んでくれたみたい。元の姿が印象に残っていて、綺麗だった銀色から取ったんだけど安直だったかな。まあ本人が喜んでるし、いっか。
「そういえばシル、ここら辺に敵モンスターは居ないの?」
「居るよ〜?もうちょっと森の奥に入らないとだけど」
「そういえば今の姿でも戦えるの?」
「うん、小回り効くから森の中だとこっちの方が楽かな〜」
「じゃあついでにちょっとレベル上げもしようかな」
「お〜、良いじゃん!私頑張っちゃうよ〜!」
「ふふ、期待してるよ。それじゃあ早速行こっか」
そんな会話をしながらシルと一緒に森の奥に入っていく。
ここで少し経験値の説明をしよう。基本的に経験値はモンスターを倒す度に入る。各モンスター毎、倒すと貰える経験値が決まっていてモンスターを倒す為に活躍した割合で貰える経験値も変わる。要は1人で倒すとそのモンスターの経験値丸々貰えるし、4人パーティーで倒すと平均25%の経験値がパーティーメンバーに振り分けられる。このゲームはそういうシステムだ。
その場合召喚士はどう振り分けられるかと言うと召喚したモンスターと召喚士本人で振り分けを考える事が出来る。召喚モンスターを育てたいのなら其方に100%振るも良し、レベルを上げてステータスを伸ばしたいのなら召喚士に100%振るも良し。これは設定でいつでも変えることが出来るので、召喚士をやる上でかなり大切なシステムである。今のところ錨とシルは2:8で設定している。理由としてはシルのレベル上げに必要な経験値量が錨よりもよっぽど多いからだ。
「最初だし簡単な敵から倒した方が良いよね」
「まあ私が居るから余裕だね!」
「そりゃ伝説のドラゴンだからね…」
そう言ってる間に初心者向けのモンスター【ブラックボア】が出てきた。
「お、早速敵だね!」
「うん、一応気をつけt」
「とりゃっ!」
バシュッ。そんな到底唯の殴りでは出ないような音を出して攻撃されたブラックボアは鳴き声を発してパタリと横に倒れると、赤いエフェクトを昇らせた後に居なくなる。通知メッセージを見ると【ブラックボアを1体倒しました】と表示されていた。
まあ、そうだよね。バハムートがそこら辺のモンスターに負けることは無いか。少しの驚きと大きな安堵を持った一息をつく。
「お疲れ様、って言うほどでもないか」
「うん!これぐらいなら朝飯前だよ!」
「それじゃあここら辺一帯の敵倒していこっか」
「分かった!」
レベリングは正直そんなに好きじゃない。効率良くやろうとするとどうしても作業感があるから。だから成る可く早く終わらせるためにもシルには頑張って貰おう。
「よし、目標は6レベルくらいで」
「おー!」
そう言って森の中の敵をシルが薙ぎ倒していった。
30分後、森の中は閑散とした状態に陥っていた。持ち物はブラックボアのドロップアイテムである【ボア肉】、【ブラックボアの皮】、【ブラックボアの牙】で埋め尽くされてレベルはあろうことは私が11、シルが7に上がっていた。結論から話すとやりすぎた。その一言である。
モンスターのリポップは種類によってまちまちだが、このバンカルで湧くブラックボアは30分。森の中をぐるっと回りながら薙ぎ倒していくシルの姿はさながら通り魔のようだった。手当り次第見つけたブラックボアを殴って倒す、殴って倒す。そうして今となっては森の中に居る分は粗方倒してしまい、リポップ待ちとなったバンカルは平和そのものである。
「マスターどうする?まだやる?」
そう言ってファイティングポーズをとるシル。
「持ち物が結構いっぱいになってきたしレベルも目標はクリア。今回はもう良いかな〜…」
「そっか!」
「取り敢えずドロップアイテムを売りたいし街に戻ろ」
「分かった〜!」
今持っているドロップアイテムを売ればそこそこのお金が貯まるはず。幾ら初心者向けのモンスターと言えど、塵も積もれば山となるようにある程度装備を整えたりするぐらいなら問題無いとみて私は街に戻る判断をした。
そしてシルにその事を伝えた直後、私は拘束されていた。
「え、また?」
「うん!だってこの方が楽でしょ?」
「いやまあ、そうだけど…恥ずかしいし」
「私がこうしたいから諦めて?」
「………」
そうして私はまた、微笑ましい目線に当てられ続けるのだった。
誤字脱字、文の違和感等ありましたら遠慮なくお教え頂けると幸いです。