#19 シルに勝てないのですが
こんにちは、COCOAです。
少し短いですがご了承ください。
冒険者ギルドに入った私達は受付の人のもとへ向かう。
「すみません、依頼達成の報告に来たんですけど今大丈夫ですか?」
「はい、構いませんよ」
「良かったです、それじゃあこの依頼なんですけど…」
「はい、ライトニングドラゴン1体の討伐ですね。何か証明出来るものはありますか?」
「これで大丈夫ですかね?」
素材アイテムとしてドロップした【ライトニングドラゴンの鱗】を受付の人に見せる。
「大丈夫ですよ、それでは少々お待ちください」
ライトニングドラゴンの鱗を持って受付の人が奥に入っていく。
少し待つと戻ってきて
「はい、ありがとうございました。確認が取れましたので無事依頼達成となります」
「分かりました、冒険者ランクはどうですかね?」
「え〜…アンカーさんはこの依頼を達成したことでBランクに昇格となります。おめでとうございます!」
「ありがとうございます」
無事Bランクに上がれたみたい。ぺこりとお礼を伝える。
「Bランクになられますと、次の街である【巨大都市 ルミネ】におけるダンジョンを攻略する事が出来るようになります」
「なるほど…」
「他の点においてはあまり差異はありませんのでご安心ください」
「分かりました、ありがとうございます」
「ダンジョンについてはルミネで詳しく説明を受けることが出来ますので是非ご確認ください」
「分かりました」
受付の人から依頼達成の旨と軽く説明を受けたところでその場を離れる。何度も使わせてもらってる冒険者ギルド内の隅の方にある机もセットとなっている椅子にシルと座る。
「良かったねマスター、Bランクに上がれて」
「何回も依頼をこなすのは正直面倒だったから助かるね」
「これもそこそこ強かったあのドラゴンを倒せたからだよ!」
「あはは…あれくらいなら全然戦えるんだけどね」
「というか黒雷を使い始めてからは圧倒してたと思うんだけど…」
「思ったよりダメージが通るようになってたから…楽しくなってつい…」
「…マスターは戦闘狂なのかな?」
「そんなことはない、って言い切りたいんだけど…その節があるから否定出来ない…」
「まあ私も似たようなものだし全然良いんだけどね」
「ふふ、シルと似た者同士なら嬉しいな」
「私もだよマスター」
シルが私の頭を撫でてくる。シルに撫でられると気持ちいいのでもっとして欲しい。だからシルの手に頭を擦り付ける。
「どうしたのマスター、もっと撫でて欲しいの?」
「…うん」
「そっかそっか〜…よしよし」
「んふふ」
思わず笑みが零れる。意図が伝わってくれたの嬉しいのだけど、何か足りない気がする。何だろう…
「何か足りない気がするんだけど…シルは何か分かる?」
「足りない?…う〜ん」
2人してうんうん唸る。
「あ、もしかして…」
「シル分かったの?」
「多分これかな?っていうのはあるよ」
「じゃあやってみて?」
どうやら思い当たるものが出てきたみたい。このムズムズするような感覚を早く無くしたいんだけど。
「よいしょ…っと」
「わあっ」
シルが私の方に距離を詰めてくると、ハグしてきた。ログインした時にしてくるような勢いのある感じじゃなくて包み込むような優しいハグ。心が満たされる感覚を覚える。
「ん…これかも」
「やっぱり?」
「やっぱりってことは何となく分かってたんだ」
「まあマスターの考えることは手に取るように分かるからね 」
「え、そうなの?」
「そうだよ〜、だから何でぎゅ〜ってされて満足したのかも分かるよ」
「私のことなのに私より分かってる…ちなみに何でなの?」
「ん?…マスターは寂しかったんだよ。私とのスキンシップが足りなくて人肌が欲しくなってたんでしょ?」
そんなことある?……あるかも。でもこれを認めたら恥ずかしいから嫌なんだけど…
「まあ…そうかも」
「でしょ!」
ドヤ顔をしてくるシル。何か心の中を読まれたみたいでちょっと悔しい。それもこんな状態の時に。なのでちょっとした仕返しとしてシルの頬をつねる。
「えい」
「んむ…うぁ」
「ふふ、可愛い顔してる」
「絶対違うと思うんだけど…」
「そんなことないよ?…ふふ」
「ほらマスター笑ってるじゃん!どうせ間抜けな顔でもしてたんでしょ…」
「間抜けな顔じゃなくて元気になる顔してたよ?」
「どんな顔なのそれ…」
「ん、見ると私が元気になるの」
「マスターが元気になるんだ…じゃあいっか」
「やった」
「マスターだけだよ?」
その言葉に少し心が傾いた。独り占めしたくなる。
「じゃあ他の人にされないように気を付けてね」
「まずマスターいがいの人とこんな体勢にはならないと思う」
「ふふ、それもそうだね」
「安心して?私はマスターだけのものだから」
「…うん」
シルに甘えるように抱きつくと、胸に顔を埋める。私とは違って柔らかい感触を覚える。何でだろう、少し虚しく感じる。
「…やっぱり私もあった方が良かったな」
「?…何の話?」
「…胸の話」
「私の胸に埋まって言うことじゃないでしょそれ…」
「ふと思ったんだもん」
「マスターはその体型が一番可愛いからそのままで居て欲しいな」
「このちんちくりんな体型が一番似合うと…?」
「マスター卑屈すぎない…?」
「でもそういうことじゃないの?」
「まあ合ってるんだけど…私は今のマスターが好きだから」
「そ、そう…?なら良いや…」
「そうそう、だから気にしないで?」
「今まではあんまり気にならなかったんだけど…」
「お年頃?」
「…かもね」
ここ最近ずっとシルと居るからかもしれない。シルはしっかりとした胸がある。それに対して私は…なんて状態だから気にしちゃったのかも。
「でも胸があった方が抱き心地が良いと思うんだよね」
「いやマスターの幼児体型が1番抱き心地良いよ?」
「幼児体型…」
「今更でしょ?」
「まあそうなんだけど…」
「細いって訳じゃなくてむにむにしてるこの感触が一番良いよ〜」
そう言って私に抱き着く力を少し強くするシル。シルも結構良い抱き心地なんだけどな…というか
「それだと私太ってるみたいじゃん」
「お腹周りの話はしてないんだけど、そう聞こえちゃうね」
「肌がむにむにしてるのかな…」
自分の顔を両手で触ってみる。確かに頬周りとかは結構柔らかくて弾力がある気がする。
「自分の顔を触るマスター可愛いね」
「んなっ…じゃあ止める…」
「可愛いって言われるの嫌なの?」
「嫌というか…恥ずかしくておかしくなりそうだから…」
「ふ〜ん…」
シルが何か企んでる顔をしてるんだけど。嫌な予感がするから逃げ出さなきゃ…
「何処に行くのかな、マスター?」
「…シルが怪しい雰囲気してるから」
「ソンナコトナイヨ〜」
「何でカタコトなの…」
「まあまあ気にせず…」
そんな会話をしている最中にごく自然な感じで私を膝の上に乗せてきた。って近くない?何でお腹同士がくっ付いてるの…
「ち、近いんだけど…」
「まあそうしてるからね」
「…離してくれたりとかは」
「嫌なの?」
「うぐっ…」
確かに今シルは物凄く怪しい顔をしてる。けど今この体勢が嫌かと言われたら首を縦に振ることは出来ない。シルとくっつけること自体は嬉しいから…
「ふふ…可愛いね」
横を向いてシルの顔を見ないようにしていると耳元でそう囁かれた。
「ひゃっ!」
「可愛い反応しちゃって…」
思わずシルの顔を見ると今度は目を合わせてそんなことを言ってくるものだから目を逸らす。待って、これどっちにしても駄目じゃない?顔を背けたら耳に来るし、前を向いたら目を合わせてくる。しかも抱き着かれた状態な上にシルの力が強くて解けないから腕が動かせない…待って待って。本当にどうしよう。
「ふふ、焦りだしたねマスター…」
「ちょ、ちょっと…対話しない?」
「やだなぁマスター…今対話してるでしょ?」
「た、立場を対等にしたいんだけど…」
「ん〜?」
ぐっ、分からないフリをしてくる…この状況を打破出来ないものか…
「可愛い、好きだよマスター」
「んぐっ…」
何とか脱出する術を探している間にも知るから囁き攻撃が来る。何で偶にシルは私に対して謀反を起こすの…!
「それはマスターが可愛すぎるせいだよ?」
「どういうこと…ってサラッと心を読まないで」
「マスターが分かりやすいだけだよ〜」
「嘘でしょ…」
今この時点でシルに勝てる要素が無さすぎる。もはや囚われた鳥と同じまである。
「ふ〜…」
「んっ?!」
今度は息を吹きかけてきた。思わず声が出そうになったけど何とか抑えることが出来た。シルは此処がまだ冒険者ギルドってことを頭の中からどっかに飛ばしたのかな?
「ふふ、耳がよわよわなマスター可愛いすぎて私がおかしくなっちゃいそう…」
「その前に私がおかしくなっちゃうよ…」
「それもそうだね」
「せめて2人きりの時にしてくれないかな…?」
「何で〜?」
「視線が怖いから」
「ごもっともな話だね…じゃあまた今度にするね」
「そうして…ってまたこれがあるの?」
「んふふ」
笑って誤魔化すシルを見て私は諦めた。次は抜け出せると良いなぁ…
誤字脱字、文の違和感等ありましたら遠慮なくお教え頂けると幸いです。
評価もして頂けると嬉しいです。




