#10 良い匂いがするのですが
こんにちは、COCOAです。
皆さんはお肉は焼いて食べる派ですか?
それとも煮込んで食べる派ですか?
私は煮込む派です。
ある程度黒雷の神子の使い方、というかどんなスキルなのかは把握出来たので一旦スキルを止める。ぼーっと見つめる目線の先には焼かれて真っ黒になり、地面に横たわっている大木があった。
「ほぇ〜…」
「すっごく強そうなスキルをまた手に入れたね、マスター」
「そうだねぇ…自分のやった事とはいえ未だに信じてないもん…」
「それは間違いなくマスターが起こしたことだから信じて…?」
「まあ流石に信じてるよ、それくらいは…何はともあれこれで私にもシルが万が一居なくなっちゃった時の自衛手段は確保出来たから…」
「自衛手段ってレベルじゃないと思うんだけど?」
「それはそう」
完全なる棚からぼたもちな展開によって手に入れることが出来たこのスキルだが自衛としてはこれ以上ないほど信頼できそうなスキルだ。過剰防衛になりそうだけど、そこはゲームだから…
一段落落ち着いた所で私はシルに相談をし始めた。
「ハプニングがあったとはいえこのお花畑に来て結構癒されることが出来たし、そろそろ切り替えてザリオスで依頼を受けようと思うんだけどどうかな」
「ん〜…」
シルは少しの間悩むと
「もう少しだけここに居たいな」
「ん、分かった。もうちょっとここでゆっくりしよっか」
「やった!」
そう言うとシルがお腹辺りに抱きついてくる。勢いと受け止めきれずに後ろにパタリと倒れる。
「わっ、どうしたの?」
「ん〜?…んふふ」
何やら怪しげな笑みを浮かべるシル。すると私のお腹に顔を埋めてスンスン嗅ぎだした。
「ちょっと、何嗅いでるの…」
少しばかり呆れながらも止めるようなことはしない私。
「えへへ、マスターが私の好きな匂いするから」
「どんな匂いなんだろう…」
「ん〜…人っぽい匂い」
「それはそうじゃない?人だもん」
「なんというか少しミルクっぽい」
「牛乳…それは、果たしていい匂いなの…?」
「ホットミルクみたいな甘い匂いしてるから大丈夫!」
「何が大丈夫なのか分からないけど…まあ変な匂いしてないのなら良いよ」
「そんな変な匂いはしてないから安心して」
そう言ってまたスンスン嗅ぎだした。シルは私の匂いを嗅ぐのにハマったのかな…自分で嗅いでも全然分からないんだよね、当たり前だけど。そんな風に自分で腕の匂いとかを嗅いでみる。
「やっぱり自分で嗅いでも分かんないや」
「まあそういうものじゃない?匂いなんて」
「そういうシルはフローラルな匂いするけど」
仕返しの為にシルの匂いを嗅いで雰囲気を伝えてみた。
「私の匂い嗅いだの?」
「うん」
「そっかぁ…にしてもフローラルな匂いなんだね、私って」
「うん、良い匂い」
「それなら嬉しいんだけど…って、マスター髪の毛が凄いことになってるよ?」
「んぇ?」
「雷纏ってたせいか毛先がぴょんぴょん跳ねてる…」
「え、そんなことになってるの私の髪…」
「よいしょっ…と」
そう言うとシルが立ち上がって私のお腹から頭の方に動くと今度は何故か膝枕された。
「いや何で…?」
「髪の毛を梳かすついでにちょっと、ね?」
「まあシルなら別にいいんだけど」
「わ〜い!それじゃあ膝枕しながらマスターの髪溶かすね?手だけど…」
「うん、お願い〜」
頭を撫でる時とはまた別の触り方をされる。いざ手で梳かされてみると、毛繕いみたいという印象を覚えた。犬や猫はこんな感じで毛繕いしてるイメージあるけど…
良い事思いついた。ご機嫌そうに膝枕をしながら私の髪を梳くシルに対してちょっとばかりの悪戯心が芽生えたのだ。少し咳払いをして喉の調子を整える。それから
「…に、にゃ〜ん」
そう言ってみた。そう、猫の鳴き真似である。シルがどんな反応をしてくれるのか気になったのでやってみたのだけど…なんか目を見開いて止まった。
「うにゃ?」
疑問に思いながら、猫の手でシルの頬を撫でてみる。すると私の両手の自由がきかなくなった。
「もう…マスターはほんとに可愛いんだから…」
「う、うにゃ〜」
私の両方の猫の手を自分の頬に押し付けて遊び始めた。
「マスターは人じゃなくて猫ちゃんなのかな?」
「んにぃ〜」
首を横に振って抗議の意を示す。
「ほれほれ〜」
「にゃあ〜〜…猫タイムは終わり」
シルが私の顎下を撫で始めたところで猫の真似をお終いにする。
「あ、猫マスターが…」
「新しい単語作り出さないで?」
「すっごく可愛かったのに…」
「…」
なんかモヤッとする。可愛いと言われるのも今更だし、私の猫真似に対して言ってきただけなのに…
「…」
「わっ!」
無言でシルに抱きつく。腕の力を少し強めると
「シルは普段の私より、猫の私の方が好きなの…?」
「…え?」
「…どっち?」
「そ、それはもちろん普段のマスターの方が好きだよ…?」
「ん、そう…」
満足げにそう返事する私に対して今度はシルが聞いてきた。
「どうしたのマスター?普段は私は別に可愛くない〜、って言うのに…」
「…気にしないで」
「……!」
中途半端な対応をしたせいでシルにどういう心理状態なのかバレてしまった…なんで分かるのかって?凄く目を輝かせてるシルが目と鼻の先に居るからだよ…
「ねえねえ、マスター!」
「…なに」
「もしかしてマスター、嫉妬したの?私が猫ちゃんになったマスターを普段より可愛がったから、嫉妬したの?」
「…そんなことない」
口ではそう言いながらもシルに抱きついて意図を示す私に対してシルは思い切り抱きしめ返してきた。
「もうっ!マスター可愛すぎっ!!」
「あぅ…」
強く抱きしめられているのと、恥ずかしさのせいで声にもならない声を出してしまう。
「大丈夫だよ!いつものマスターが1番可愛くて、大好きだから!!」
「…うん、ありがと…」
恥ずかしさで物凄く小さな声になりながらも感謝を伝える。シルは感極まった表情で抱き着いたまま私の頭を優しく撫でてくる。
「…ほ、ほら。そろそろ任務に行くよ…」
「んふふ、は〜い!」
勢いのない私の言葉を嬉しそうにしながら返事をしてくれるシルは、私を抱き上げるようにして立ち上がるとザリオスの方に飛び始めた。あぁ…もう。恥ずかしさで爆発しちゃいそう。
ザリオスに着く頃にはなんとか私も平常心を保てるようになっていた。シルはずっとご機嫌なままな上に未だに抱えられてるけど。
やることはさっきも言った通り任務をしていきたい所、なんだけどレイザーベアを倒して素材アイテムとかを入手したから任務の方でレイザーベア関連のものが無いかを取り敢えず探したいんだよね。もしあったらすぐ任務達成として出来るみたいだから大分おいしい。ただ唯一の懸念点なのは私の冒険者ランクがFなこと。Fじゃ到底受理出来ないような任務だろうからもし任務を受理すること自体が無理だったらちょっと悲しいな…
なんて思いながら冒険者ギルドに入っていく。任務を受ける時にお世話になった受付の所に向かう。
「すみません、ちょっと相談があるんですけど」
「はい、どのようなご要件でしょうか?」
「ギルドに来るまでの間にモンスターを倒しまして、もしそのモンスターの任務があったら受けたいんですけど、大丈夫ですか?」
「ええ、構いませんよ。何を倒されてきましたか?」
「えっと、レイザーベアです」
「レ、レイザーベアですか?!」
「は、はい…」
受付の人が凄く驚いている。そうだよね、まだFランクなのにレイザーベアを倒してるんだから。
「ええっと、何か証明出来るものはお持ちですか?」
「あ、はい。素材が落ちたので…これで大丈夫ですか?」
レイザーベアの牙を見せる。
「すみません、少々お待ちください」
そう言うと受付の人はレイザーベアの牙を持って中に入っていく。鑑定でもして確認取るのかな?
シルの頬をむにむにして遊んでいると受付の人が戻ってきた。
「お待たせしました、レイザーベアの牙との確認が取れましたので問題ありません。」
「良かったです…」
「レイザーベアの依頼としては牙と皮の納品がありますが、受理しますか?」
「あ、はい。可能ならお願いします」
「かしこまりました、それでは依頼の紙を取ってきますね」
「分かりました」
今のうちに牙と皮を出す用意をしておこう。
「お待たせしました、納品数がこちらになっておりますが大丈夫でしょうか?」
「え〜…っと、はい。ありますので納品しちゃいますね」
「ありがとうございます」
そのまま手続きをしてレイザーベアの牙と皮を必要数納品する。
「今回の任務達成で冒険者ランクが幾つか上がると思いますので確認のほどお願いします」
「分かりました、ありがとうございます」
そうして私達は受付から離れてギルド内の隅の方に向かう。冒険者ランクが上がるって言ってたけどどれくらい上がるんだろう、と思って確認してみるとCランクまで上がっていた。凄い、レイザーベア一体倒して手に入る量を納品するだけでそんなに上がるんだ。と思ったけどそれ相応の強さがレイザーベアにはあったってことだよね。そう考えると今思い返してもよく倒せたなぁ、としみじみ感じる。
「良かったねマスター、一気にランク上がって」
「そうだね、ランク上げるために何度も任務をやるのは正直面倒だったから結構嬉しいかな」
「弱い敵倒しててもね〜」
「それに結構お金入ったし」
難易度に応じて任務達成時の貰える報酬は上がっていくため、かなり難しいと思われるレイザーベアの素材納品は1度達成するだけでなんと50万Gも私の懐に入ってくることとなった。おかげでかなり資金面では余裕がある。お金が増えたからといって何か買いたいものができるわけじゃないんだけど。
「そういえばレイザーベアのお肉はどうしようかな」
「食材だったら料理店とかにいけばその食材でご飯作って出してくれるよ」
「あ、そうなの?」
「うん!だからせっかくのお肉だし食べたいな〜…って」
なるほど、シルはお肉が食べたいと。私も色々起きてたから気づかなかったけどかなりお腹は減ってる。よし、決まり。
「それじゃあご飯屋さん行こっか」
「わ〜い!」
子どものようにはしゃぐシルを見て私はまた可愛い、とほんわかする。
そうして私達は早速ご飯屋さんへ向かう。と言ってもギルドの近くにあるのを覚えているのでそう時間はかからない。【ネイヤー食堂】に到着するとお店の中に入って店員さんを探す。
「すみませ〜ん」
「お〜う!…どうしたんだ、お嬢ちゃん達」
私の声に反応して奥から元気そうなおじさんが出てくる。
「ちょっと食材をお渡しするので2人分の料理を作って欲しいんですけど、大丈夫ですか?」
「おう、大丈夫だ!」
「良かったです。それじゃあ…このお肉でお願いします」
私は持ち物からレイザーベアのお肉を一塊出すとおじさんに手渡しする。
「おぉう…こりゃあ上等な肉じゃねぇか。何処で手に入れたんだ?」
「私達が狩りました」
「はっはっはっ!可愛らしい嬢さんかと思ったらかなりの大物じゃないか!よし、任せろ。とびきり美味い肉料理を出してやるよ!好きなところに座りな」
おじさんは肉を持って厨房の方へ向かっていった。言われた通り私達は好きなところに座っていいとのことなので厨房に近いテーブル席に座らせてもらう。熊肉の料理ってどんなのが出てくるんだろう。そんな話をシルと弾ませながら待つこと15分。
「待たせたな、これがレイザーベアの肉を使ったシチューとステーキだ」
美味しそうな匂いを漂わせながら私達の元に料理が届いた。どうやらシチューとステーキらしい。匂いもそうだけど見るからに美味しそう。
「ありがとうございます、食べさせて頂きますね」
「おう、沢山食いな!」
おじさんが厨房へ戻っていくところを横目に私とシルは顔を合わせてこう言った。
「「いただきま〜す」」
そうして私達は今まで食べた中で1番美味しいと思えるようなシチューとステーキを存分に楽しんだ。
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