表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一途な僕と一途なキミの、アイで満ちた同棲生活  作者: ノミオ
10年想い続けてきた初恋でガチ恋で最愛の推しが天井から降ってくるワケがないっ!
9/11


アリスちゃんに見送られながら玄関を出て、僕は鼻歌交じりにスキップしながら駐車場へと向かった。


いってらっしゃい。いってらっしゃいかぁ~……いい響きだ……アリスちゃんのあの、ぎこちなくて言い慣れてない感じとか……完全に新婚のそれだったなぁ~。


ルンルン気分で車に乗り込み、僕は近所のショッピングモールへと向かった。


なんとか必要そうなものを買い終え、ガラガラとショッピングカートを押しながら、ふと気づく。


あれ? そういえば下着をネットで注文したけど、届くのって数日掛かるよな?

じゃあ今日含めて数日分の下着が結局必要なんじゃ──。


「お、一ノ瀬じゃねえか」


声に振り返ると、吉田先輩が立っていた。

奥さんとお子さんらしき人も一緒にいる。仕事帰りに家族で買い物に来たのだろうか。


僕の顔とショッピングカートいっぱいの荷物を交互に見て、ニヤニヤしながらこちらに歩いてきた。


まずい。出来れば会いたくなかったな。これは色々聞かれそうだ。


「吉田先輩。ご家族で買い物ですか?」

「そうそう。お前なんだよその荷物~もしかして、ついに彼女と同棲か?」


どうする。誤魔化すか? でも、この人はノリは軽いが、口が軽いタイプではない。

変に言い訳するより正直に答えたほうがいいだろう。


「まあ、はい。今日突然押しかけてきて、なんやかんやと必要になりまして」

「こないだ言ってた子か? はぁ~やるねぇ。いつから付き合ってんだよ」

「それは……えーと」


「パパぁ~。そろそろ帰ろうよ~」


舌っ足らずな声が吉田先輩を呼ぶ。先輩は振り返り「はいは~い。すぐ戻るね~」と猫なで声で返した。


「おい、今度詳しく聞かせろよ」

「了解です。でもこの事はどうか……内密にお願いします」


意味ありげに目配せしてみる。すると吉田先輩は何かを察したようにニヤリと笑った。


「なるほど、紳士協定ってやつか。分かってるって。このヤリチンが」


そう言われながら肩を軽く叩かれる。

どうやら不名誉な勘違いをされてしまったようだ。でも今は、変に否定するよりこの場を切り抜けることのほうが優先だ。


「じゃあまた明日な。おつかれ」

「はい。お疲れ様です」


吉田先輩が家族の元へと歩いていく。


それを見届けて、僕はようやくほっと胸を撫で下ろした。





「ただいま」

「あ、おかえりなさい」


家に帰ると、アリスちゃんは膝を抱えるようにしてソファに座り、テレビを見ていた。


僕に挨拶をした後、再びテレビに視線を移し、食い入るように見ている。

何を見ているのだろうと覗くと、ブリテンのアニメだった。


「はぁ~……クリスくん。今頃どうしてるんでしょうか?」


「早く会いたいです」テレビの中で活躍しているクリスくんを見つめながら、憂いを帯びた横顔でアリスちゃんがぽつりと呟く。


アリスちゃんはクリスくん命だもんな。一日会えないだけでも相当辛いだろう。

クリスくんは男の僕から見たっていい男だ。それは間違いない。僕だってキャラとしては大好きだしね。

アリスちゃんがメロメロになるのも仕方ないと頷けるほどさ。


分かってる。分かってるさ。でも、仕方がないこととはいえ……ううむ。


こうやって目の前でクリスくんに恋してるムーブのアリスちゃんを見るのは、どうしても辛いといいますか。

ちょっと……もやもやしてしまうな。


一瞬胸に湧きそうになった醜い嫉妬心を、頭を振って振り払った。


はっはっは。しかしまあ、僕だってそういつまでも丸腰ではないさ。

なんたって僕はアリスちゃんの全てを知っている。まあ、原作とアニメで分かる範囲だけど。

アリスちゃんの好きなものだって……当然把握しているのだっ!


「アリスちゃんって、確かいちごが好きなんだよね?」


声を掛けると、アリスちゃんがテレビから視線を外してこちらを向く。


「はい。そうですが」

「だよね? これさ、買ってきたんだけど飲んでみる?」


手の持っていた紙袋をテーブルに置き、中身を取り出した。アリスちゃんがテーブルに置かれたドリンクを見て、目を丸くする。


僕がテーブルに置いたドリンク。それは、シャレオツな店構えのせいか陽キャやノマドワーカーが多く集まる、カウンターで呪文めいた注文が必要な、ぼっちの僕にはちょっとハードルが高いチェーン展開のカフェで買ってきた、いちご味のフラペチーノ。


メリー◯リー ストロベ◯ー フラペチーノだった。


「あおいさん……この飲み物は?」

「なんかイチゴをふんだんに使ったドリンクなんだって。アリスちゃん好きかと思って買ってきたんだ」

「はぁ……頂いていいんですか?」

「モチのロンですよ」

「じゃあ……いただきます」


緑色のプラスチックストローを差してあげると、アリスちゃんはそれを受取り、恐る恐るストローに口をつけた。

ずず、と口に含むと、アリスちゃんの瞳がカッと大きく見開かれる。そしてフラペチーノを手にしまま、わなわなと震えだした。


「なんですかこれ。おっ……おいしすぎますっ! こんなの初めて飲みましたっ!」


アリスちゃんはテレビもそっちのけで、目をキラキラさせながら、ちゅうちゅうとフラペチーノを飲み始めた。


この反応、どうやら狙い通りだったようだ。やったぜ。


「はぁ~……ごちそうさまでしたっ美味しかったです!」


アリスちゃんは一息もつくことなくフラペチーノを飲みきり、僕に満面の笑みでそう告げた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ