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「私の事を知ってるなら、ちゃんと分かってますよね? 私はクリスくん一筋だって」
「エグザクトリー。話の途中で登場したアリスちゃんに惚れたモブキャラくんにも、全然靡いてなかったもんね。アリスちゃんに好きになってもらえるなんて思ってないよ」
「絶対に何もしませんか?」
「絶対に何もしないよ。神に誓って。だって僕は、敬虔なクリスチャンだからね」
真っ直ぐ目を見つめてそう返すと、アリスちゃんは一度目を伏せ、そして躊躇いがちに僕の目を見つめ返した。
「では……しばらくお世話になります」
ッッッッ!!!! よっっっっっしゃあーーーー!!!
やった!!! やったぜ!!!
これから僕とアリスちゃんの甘いあま〜い同棲生活がスタートするッッッッ!! スタートしちゃうううううう!!!
心の中でガッツポーズをし、狂喜乱舞する。
しかし僕はそれをおくびにも出さず、爽やかに笑って手を差し出した。
「じゃあ改めて、これからよろしくね。アリスちゃん」
「……はい。よろしくお願いします」
アリスちゃんが躊躇いがちに僕の手を握る。
喜びに震え出しそうになるのを堪えながら、僕もその手を優しく握り返した。
「そういえば、貴方の名前は?」
「え? 僕の名前が気になるの? まさかアリスちゃん……もう僕のことを好きになりかけて」
「違います! これから一緒に暮らしていくために必要だから、仕方なく聞いてるんですっ!」
「蒼已だよ。一ノ瀬蒼已。好きに呼んで」
「……じゃあ、『あおいさん』にしますね」
ふ~ん。下の名前で呼んでくれるのか。これはアリスちゃん、確実に僕に惚れてるな?
「……あの、そろそろ手を離してくれませんか?」
「う~ん、もうちょっとだけ……」
「離してください!!」
「あ、はい、スイマセン……」
凄まじい剣幕で怒鳴りつけられ、僕はしょぼくれつつもアリスちゃんの手を離した。
ふっ、まあいいさ。これから一緒に住むんだ。接触の機会はいくらでもある。
これから好感度上げを頑張れば、もっと色んなところにだって触れるはず……!
「よし、ではさっそく必要なものを揃えなくちゃだね。買い出しに言ってくるよ」
「そうですね。お願いします」
「歯ブラシに服に布団に……あ、下着も必要か。アリスちゃんって何カップ?」
「はぁ!? どうしてそんな事答えなくちゃいけないんですか!? セクハラです!」
「え、だって買わなきゃいけないブラジャーのサイズ分かんないじゃん……」
「それは、確かにそうですけど……」
ごにょごにょとアリスちゃんが口ごもってしまう。どうやら僕にブラのサイズを知られるのが相当嫌なようだ。
「ああ、勘違いしないでね。僕は別に、アリスちゃんのおっぱいの大きさを知って、色々と妄想するために聞きだしたいわけじゃないから。ぶっちゃけ女の子の下着なんて見飽きてるし」
「……最低な発言ですね」
「あ、いや、違うからね? 妹がいるからそのせいよ? でもまあ、気になるなら自分で選んでもらおうかな」
スマホに女性用下着のサイトを表示して見せる。アリスちゃんは興味深そうに画面を覗き込んでいた。
「この中から自分の好きなデザインとサイズ選んでくれる? 説明がなんて書いてるか分かんなかったら読んであげるし、言ってね」
「あ……はい」
使い方を軽く説明してからスマホを手渡した。
アリスちゃんはぎこちなく指先で画面をスイスイとして、何枚か選んでこちらにスマホをよこしてきた。
どうやら普通に日本語を読めているらしい。まあ、僕とも普通に会話してるし、そういうもんなのかもしれない。
「分かってますよね? 絶対に見ないでくださいね?」そういう無言の圧を横から感じながら、僕は出来るだけ買い物かごの中身を見ないようにし、素早く決済を完了させた。
「よし、じゃあ他のもの買ってくる」
「あの、その間、私は何をすれば……?」
「好きに過ごしてていいよ。漫画とか本とか色々あるし、テレビ見ててもいいから。あ、冷蔵庫にまだいちごのポッピーあるし、良かったら食べて」
「分かりました。じゃあ……いってらっしゃい」
「! うんっいってきますっ!」