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幕間1 Here Comes A New Player!!

 ※注意※ こちらは「引退していたVRMMOの続編が出るらしいので、俺は最強の“元”刀王として、データを引き継いで復帰することになりました」https://ncode.syosetu.com/n9997ft/の最終回にて明示された一ヶ月の間の話となっております(´・ω・`)。

 幕間といいつつ、新たな導入っぽくしてみました(`・ω・´)ゞ。ここからもしどういうこっちゃ、という感じで興味が湧きましたら、上記作品から目を通していただけると幸いです。

「こちらになります」

「…………」

「そう殺気立てなくとも、我々は危害を加える為にこの施設を建てたわけではありません」


 ――その施設は病院というよりは、実験施設に近いものだった。既に白衣を着た多くの人間とすれ違っているが、いずれも顔つきとしては人命を救うためというよりも、この状況をいかにして長引かせるか、ということに重きを置いているように思える。

 廊下の両脇にある壁は全てガラス張りで、そこから下を見下ろせば多くの人間がベッドに寝かされている光景が目に映る――そんな異様な状況の中、一人の若き警察官は一切両脇に目をくれることもなく、真っ直ぐに目の前を先導する医者の後を追って歩いている。

 そんな彼の胸につけられた名札には、古河ふるかわという名字が印字されていた。


「少しは下の様子に興味を持たれるかと思いましたが、そんなことはなさそうですね」

「聞くまでもない。どうせ例のゲームに繋がれたまま、目が覚めないでいるのでしょう?」

「その言い方からしてまるでこちらが無理矢理行ったかのような口ぶりですが、最初に承諾したのは皆様プレイヤーの方ですよ?」


 事実として、下で寝かされている人々は皆、ヘッドギアのようなものを被ったまま仰向けで寝かされている。時折医学的にいうところのミオクローヌスのような、一部の筋肉がけいれんするかのようにビクッ、ビクッ、と動いているくらいで、それこそ後は眠っているかのようにびくともしていない。


「睡眠は言わずもがな、食事に際しても適宜栄養剤の投与を行っているため、餓死するなど起こり様がありませんので」

「その言葉をそのまま信用できると思っているのですか?」

「貴方からの信用を得なくとも、実績として既にニュースなどで取り上げられていますから」


 そうして医者はこれ見よがしにとタブレット端末に表示したニュース記事を古河の方へと見せびらかし、にやにやと笑っている。ニュースの内容によれば病院の尽力により多くのプレイヤーが今も生きていること、そして全世界が自国民の命を救うべく、それら病院に支援金の提供を決定しているという記事が映し出されていた。


「……とにかく! こうして既に警察の介入が入っている時点で、いずれは強制的にゲーム解除を――」

「強制的に外すと、あのようになりますが」


 そうして医者が指差す先――下に並んでいるベッドのうち、空いている一台の方へと古河は目を見やる。


「っ!? なんだあれは!?」

「ゲーム機を扱う際には、記載された注意事項をよく読んで、正しく遊びましょうというだけです」


 本来であれば頭部が置かれている位置が、赤く染まっている――それはこの空のベッドで元々寝ていた者がどうなったのかを暗に示唆しているようなものだった。


「くっ……こんなのはただの殺人だ!!」

「しかしその一歩間違えれば簡単に殺人ができる技術を、この世界の多くの企業が賛同して開発に協力したのですよ」


 事実としてこのようなVRMMOの世界へと眠りに落ちた患者を助けるべく、多くの地域でサテライト型の病院が建てられている。その名義は当然ながら、原因となるVRMMOゲーム「リベリオンワールド」のサービスを開発した企業、株式会社エンクレイヴである。

 そしてこの病院に多くのIT企業が資金援助をしており、皆が暗にこの状況から何かしらのデータを取ることができないか、などといった打算的な考えを持っていることを示唆もしていた。


「……馬鹿げている」

「当然ながら、そのような意見もあるでしょう。しかしながら、それらは少数派になりつつあることも、お知りおきを」


 十年前に起きた事件――今回の事件の発端となった「リベリオンワールド」、その百年前の世界を描いたとされるVRMMOゲーム「キングダムルール」が発売された際も、同様なことが起きていた。

 当然ながら当時はこのようなVR空間に閉じ込めるような技術を誰も理解できず、ただただ不安と恐怖に煽られるばかりで、残された人間プレイヤーがゲーム内でルールに則って覇権を争い、最後には少数のやり込み派プレイヤーによって構成されたとあるギルドグループがゲームクリアをすることによって、この事件の幕は閉じられた。

 そして今回も同様な事件が起き、多くの人々はそのような危ないゲームに手を出すはずもなく、前作よりも人が少ない少人数でのクリア、あるいは警察官の男が言うような、外部から早期の介入によってすぐに収まると予測されていた。

 ――しかしそれも正式サービス発表前に、ある一つの褒賞リワードが告知されたことで、多くの人間プレイヤーがヘッドギアを被ることとなる。


「……しかし、本当の話なのか?」

「何がです?」

「聞いている筈だ。ゲームクリアの件」

「ああ、あれですか。勿論ですとも」


 誰もが忌避するこのゲームを、たった一言で参加に踏み切らせるにはどうするべきか――


「――このゲームをクリアした者に、業務提携した関連企業を含む全ての株の所有権を引き渡すという話でしょう? 聞いていますとも」


 ゲーム世界を掌握すれば、現実世界をも掌握できる――そんな馬鹿げた話だが、事実として他の企業は一切否定せず、かといって敢えて自ら言及をしようともしていない。このことから現実世界に住む人々の一部が、元々の生活苦もあって半信半疑にとゲーム世界へと身を投じるようになり、それからも死人が出ていないことを知った一般人までもが、続々とヘッドギアを被るという事態が生じてきている。


「全くもって馬鹿げた話だと思われますが、貴方がたの耳にもちゃんと入っている、と……まさか! クリアしようとした者を強制的に切断して――」

「言っておきますが、我々も医師の端くれ。命の重みを知らないとでもお思いですか?」


 そうしてジロリと医者は警察官を睨みつけ、そして更にこう言ってのけた。


「我々とて、大金が欲しくないと言えば噓になる。しかしこの仕事をするにあたってそれに値する給料を、我々は既に受け取っている。今更アンフェアな真似はしませんし、させませんよ」

「……この場の医者が皆、同じ考えならば良いのですが」

「同じ考えでなければ、この場にいられませんよ」


 そうして更に奥の方へと医者は足を前へ一歩と踏み出し、警察官は再びその後を追う。


「……貴方に割り当てられた部屋はここになります」

 そうして医者に案内されたのは、今まで見てきた場所とは違う、完全な個室。

「……なぜ個室なのだ?」

「一応、このゲームを管理しているシステマ(AI)の判断で、世界ゲームを大きく動かすであろう“ゲームメーカー”には特別に隔離するよう指示があっておりまして」

「では先ほどの大部屋の人間は一体?」

「そのほとんどがゲーム攻略を諦めているようで、さしずめ現実逃避とでも言いましょうかね。ゲーム世界に順応し、日常生活を送るだけで比較的脳波が安定しているプレイヤーを集めた部屋になりますね」


 「リベリオンワールド」の正式サービスから約半年――既にゲームクリアという目的から脱落したプレイヤーも出始めている。酷い言い方をするのであれば、ゲームに飼われた家畜のようなもので、十把一絡げに扱っても問題はないという病院判断がなされている。

 それでも脳波に危険が及ぶこともあるようだが、大抵は外部から様子を見た親族なりが無理矢理ヘッドギアを外そうとした結果、最悪の場合として死に至るというケースがほとんどだという。

 そして元々がPVPに重きを置いたゲームデザインであり、ヘッドギアを通して脳波を読み取って操作をするところから、先ほどの例とは逆に特に激しい戦いを繰り返すプレイヤーは個室で個別に脳波などを管理することで、ゲームプレイに支障がでないよう、生命活動の安定を確保しているのだという。


「っ……」

「おやおや、いざとなれば警察も怖いものですかね。自ら死地に飛び込むというのは」

「黙っていてくれないか! こっちだって初めてなんだ! “ゲーム世界への潜入捜査”など!!」


 はた目に聞けば随分と滑稽な話に思えるが、当の本人はいたって真面目だった。

 監禁の容疑がかけられている企業側エンクレイヴ公認のゲーム内潜入調査などと、はた目に見ればバカバカしいと思われるかもしれない。しかし警察が目的としているのは、エンクレイヴだけではなかった。


「もしかするとこの内部で、インサイダー行為に近いことまで起きているなんて……」


 発端はエンクレイヴが「リベリオンワールド」の正式サービスの際に喧伝した、この言葉だった。


 ――“この世界ゲームがクリアされた際には新たな国家が誕生し、現実世界にもそれが認められることになるだろう”、と。


「馬鹿げている……たかがゲームが、現実世界に干渉などと……!」


 しかし既に彼よりも先にゲーム世界へと飛び込んでいる一人の先輩は、姿を消す際に確証を持ってこう言っていた――


 ――“仮にそれが実現した場合、一個人にしても企業にしても、絶対に渡してはなりません。そのような大きな力など、放棄する道を選ぶべき。そしてそれができるのは、このゲームの本質を知る者だけだ”、と。


「……赤城先輩。約束通り、半年後に貴方の下に参ります」


 既に正式な手続きを済ませ、特別潜入の許可も出た。後は自分が覚悟を決めるだけ。


「お願いします。俺をゲームの中に入れてください」

「私は別に拒みません。そしてゲームを取り仕切っている“彼”もまた、如何なる意図を持っていようが貴方を歓迎するでしょうね」


 そうして医者に誘導されるがまま、古河はベッドへと腰を下ろし、そしてヘッドギアに手をかける。


「……いくぞ!」


 深呼吸をして気合を入れて、ヘッドギアを被って横になる。そして側頭部につけれたスイッチを押して、電源を入れていく――


「――待っていてください、先輩」


 この俺、古河ふるかわ勇剛ゆうごうが、事件解決の為役に立って見せます――



          ◆ ◆ ◆




 ――最初に視界に最初にでかでかと現れたのは、このゲームを開発した会社エンクレイヴのロゴマーク。そこからはオープニングよろしく、百年前に起きた六ヶ国間の戦争の歴史が若き少年の声で語られていく。


 ――かつて暗黒大陸と呼ばれていた巨大大陸、レヴォ。そこでは六つの国がそれぞれ統治を行い、拳王けんおう剣王けんおう銃王じゅうおう導王どうおう械王かいおう暗王あんおうと、六人の王によって互いの侵攻が繰り返される、戦乱の時代が続いていた。冒険者たちはいずれかの国に仕え一人の戦士として他の国の征服に赴き、天下統一の為に、あるいは己が欲望の為に、一人の人間として戦乱の時代を生き抜いた。

 そうして二年間にも渡る大戦争は、後に超大規模戦争グラウンド・ウォーと呼ばれる最後の大戦争の末、剣王が治める国、ベヨシュタットの勝利によって世界は統治され、世界に恒久の平穏がもたらされる――筈だった。


「なっ!?」


 事前情報で知っていたとはいえ、その姿を実際に目にした古河は思わず身構えてしまっていた。ゲームシステムを司る全ての支配者であり、運営の化身。そして“前開発者の化身”とも呼べる存在が、目の前に姿を現わしたからだ。


「――そこから先はミーが説明するヨ」


  突如として目の前に現れたのは、妙に人懐っこい中性的な少年。これまでの宣伝を見聞きする限りだと硬派なゲームに思えたものだったが、どうやらキャラデザインは違うらしい。


「ミーの名前はシステマ。このゲーム世界の案内役であり、そしてこの世界(ゲーム)における神のうちの一人ともいえる存在! よろしくね!」


 開発者が投獄された今、目の前にいるのはただの企業によって設定された人工知能(AI)でしかないと、古河は頭では理解している。しかし目の前にいるのはフレンドリーに話しかけてくる少年。このような技術に触れたことのなかった古川にとって、実際に見聞きしたものとの差に戸惑いを隠せない。


「っ……!」

「おやおやー? なんか緊張している感じかナ? リラックスリラックスー! 今からやるのは楽しい楽しいゲームで、君が過ごすのは現実の煩わしいルールもない、もう一つの拡張空間セカイなんだから、気楽に行こうヨー! あっ、ユーのことは何と呼べばいいかナ?」

「っ、どのような場所であれ、法律はあるべきだ! それと俺の名は古河勇剛だ!」


 それは警官としての誇りか、言いたい放題のシステマに対して、遵法精神を発揮するべく古河は言い返す。


「んんー、流石に本名登録は情報モラルというものがなっていないかナー? よし、ここはミーがそれっぽい名前をつけてあげよう! ユーゴーだ!」


 それに対してシステマは頭の固い人間を相手にするようで情報モラルの無さに苦笑いしながら、意見された事に対する答えも返した。


「それで、ユーゴーの言う法律はあるべきってことだけド……確かにそれもいえるネ! でも安心して! ユーゴーがこれから過ごす世界にも、それぞれの国に定められた法があるからサ!」


 そうして更に規定通りのストーリーを続けるべく、少年の背景にはこの先にある圧倒的な世界観を見せつけるような光景が広がっていく。


「さて! 超大規模戦争グラウンド・ウォーから丁度百年。世界は再び戦乱の世に逆戻りしようとしているんだ。引き金を引いたのは六つの国の内の一つ、旧キャストライン領出身の男によって、暗黒大陸レヴォは再び六つの国へと分裂することになった――」


 そこから先は六つの国の紹介となり、様々な映像とともにシステマの口から国の特徴が説明されていく。


 武闘派の集いでもあった国、デューカーの血を色濃く受け継ぐ国、ナックベア。

 暗殺を得意とし、世界に裏から干渉していたワノクニの生業を引き継ぐ国、アシャドール。

 常に中立を装いながらも策を張り巡らせてきたブラックアートの後を追う国、ソーサクラフ。

 中世を舞台にしておきながら文明レベルが数世代先んじていたマシンバラの超技術力オーパーツを密かに盗み独立した国、テクニカ。

 かの大戦争を勝ち抜き、依然としてその名をとどろかせる国、ベヨシュタット。


 そして――


「――かつてマシンバラと手を組み、銃火器の扱いに長け、最も戦争を好んでいた奇特な国家、キャストラインは一人の男を中心にその形を変え……リベレーターと名乗る武装国家へと世代を飛び越えて、それぞれの国は変化していったのサ」


 話を纏めるとどうやらこのゲームの中の世界は、再び戦乱の世になりつつあるということらしい。


「戦争、ですか……」

「そう! ユー達はこの戦乱の世の中に身を投じていくことになるんだ!」


 その後も激しい戦争を背景にしたオープニング映像が流れていき、眼前に間近に広がる迫力を前にして、ゲーム体験が乏しかった古河はその映像技術に圧倒されて声が出なかった。


「……こんな、凄い技術が――」

「あー、技術とかそういうメタいことは置いておくとしてサ! まずはIDの登録のために、ユーの顔を登録して認証とかに使わせて貰うネ!」

「なっ!? 顔を登録!?」


 個人情報の収集――などと、先ほど本名を名乗った古河がツッコめることなのかはさておき、これに同意しなければ先へと進めない。


「……仕方ない」


 少し迷った後に目の前に表示されている承認ボタンに手を伸ばすと、スキャンするための白い横線が、上から下へと顔の表面を伝っていく。


「……オッケー! そしてこれでユーのアバターが完成だ!」

「えっ、アバターって、これそのまま俺自身じゃ――」

「それじゃ、大陸統一に向けた最初の第一歩を踏み出していこー!!」


 古河の戸惑いもそのままに視界は白くなってゆき、そしてシステマの姿も消え去っていく――


「待て! 俺はまだ何も――」


 このゲームの首謀者は誰だ? 前作開発者が獄中にいる状況で、お前を動かしているのは一体誰だ? そもそもこのゲームの本当の目的はなんだ?

 ありとあらゆる疑問を抱えたまま、古河の視界に次に映し出されたのは――


「……ここは、どこだ?」


 ――始まりの草原。ここはあらゆるプレイヤーが必ず最初に訪れる静かな場所。昼間は澄んだ青い空がどこまでも広がり、夜は満天の星が空一面を覆い尽くす幻想的な光景を目にすることができる。

 そして多くの人間が踏みしめてできた一本道を正直にたどれば、“白き町”ストラードへと真っ直ぐに到着ができるであろう。しかし古河が最初に探したのは道ではなく、ある一人の人間プレイヤーだった。


「一体どこに……」

「探しているのはボクですか?」


 聞き覚えのある声に振り返ったその先――そこにはよく知る顔と、よく知らない装備を身につけた一人の男が立っていた。


「さっ……流石です先輩! もう見つけてくれたんですか!?」

「というより、そろそろ半年経つ頃なので、期待半分に見に来たら偶然いたというのが正解でしょうか」


 真っ白なロングコートに、腰に挿げているのは長剣ロングソード。背中に背負っているのは身を丸々隠せるほどの大盾で、いかにも歴戦の猛者といった装い。そして常に余裕を持った表情は、一部の人間にはトラウマを植え付けられていることを古河は知っている。


「お久しぶりです! あか――」

「ここでは#FFFFFF、通称“シロ”として呼ばれています。もしかして署内でネットリテラシーの研修を受けていないのですか? 普通こういった場で本名を言うことは自殺行為に等しいのですが」


 無理矢理に話を遮ることで、シロは後輩である古河をたしなめる。この時表情には出なかったものの、シロは他に自分以外に誰かがいないか、あるいは盗聴していないかの確認を、ステータスボードを開いてそれとなく行っていた。


「……まったく、周りに誰もいないからよかったものの、このゲームには盗聴スキルといった相手の情報を盗むことも公式に搭載されているのですから、特に注意してください」

「とっ、盗聴ですって!? それこそ犯罪では――」

「この世界では、犯罪ではありません。れっきとした“戦術”の一つです」


 この時目の前に立っていたのは警察官としての赤城ではなく、このゲームの一人のプレイヤーであるシロだった。そしてそれを理解できないほど、古河も愚かではなかった。


「……すいません、“シロ”先輩。俺、こんな世界ゲームは初めてで」

「誰だって初めてです。それにフルネームではない分、まだ許容できるミスとしておきましょう」

「ほっ……」

「ただし、ここから先はボクの指示に従ってください。最初の内は疑問も多くあるでしょうが、沈黙は金とだけ言っておきましょう。家で飼っているペットの“アヒル”の話とかも禁止です」

「……っ! ……わかり、ました」


 ここで言う“アヒル”とは、警察内における制服巡査を指す隠語である。そしてその話すらも禁止ということは、自身が警察だということをこの世界ゲームにおいては伏せておいた方がいいということを、暗に意味している。


「……趣味の天体観測の話も――」

「禁止です。確かにここ始まりの草原は夜になると“ホシ”が綺麗に見えますが、そんなことは後回しです」


 そうしたやり取りが終わったところで、シロは改めて古河に名前を聞く。


「それで? どういうアバター名で登録したのです?」

「それが……お恥ずかしい話、オープニングの少年にも情報モラルで苦言を呈されてしまって……ユーゴーと付けてもらいました」


 同じ人間どころかAIに指摘を受けてしまっていることに、シロは額に手を当てて深々とため息をつかざるをえない。


「はぁー……本当に、先が思いやられますね……では“ユーゴー”さん」

「は、はい!」

「改めまして、ようこそ「リベリオンワールド」に。ここから我々が活動するギルドの方へと案内をしますから、ついてきてください」

「はい! よろしくお願いします! シロ先輩!」


 古河もといユーゴーはそうして敬礼をするが、シロにとってはそうした警察由来の行動全てがこの場に置いては悪目立ちするものでしかなく、暗にこれから先頭を悩ますことになっていくだろうことを示唆している。


「はぁ……出来れば先輩呼びも、止めていただきたいものですが……まあ、いいでしょう」


 ため息と呆れる声ばかりを漏らすシロだったが、気を取り直してユーゴーの今後の育成方針について思案を巡らせる。


「せっかくあの人が一ヶ月の空き時間の提案をしたのですから、これから三週間かけてみっちりと、ゲームの基礎から教えてあげましょう」


 そうしてユーゴーに向けられた笑みには、先程までには無かった何らかの意図が見え隠れしているのを感じることができる。

 そしてその意図が何なのか、ユーゴーは既に経験している。


「……あ、あの、先輩……お手柔らかにお願いします」

「ご心配なく。昼夜問わずにみっちりと、鍛えて差し上げましょう」

 これから警察学校時代と何ら変わらない、地獄のような経験値稼ぎ(叩き上げ)が待っていることを、ユーゴーはまだ知らなかった――

 次回更新は1/19辺りを予定しています(`・ω・´)ゞ。

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