美少女だらけ
実験室に入ると、博士が美少女になっていた。なぜ博士と分かったかというと、美少女が彼のいつもの服装である、よれよれのトレーナーとジャージ姿だったからというだけでなく、実験室全体に有害そうな白煙が立ち込めていて、今まさに何らかの実験が行われた直後だろうことが見てとれたからだ。
博士は美少女の目でこちらを見て、すぐに口を開いた。
「助手。これはだな、説明すると長くなるのだが、昨晩、『美少女の気持ちを知りたい』と思ったのが発端でな」
「終わったじゃないすか」
「いや、ここからが本題でな。もちろん私は天才だから美少女になる技術を開発するのは容易い。だがそれは『美少女になったオッサンの気持ちがわかる』だけじゃないのかと思ってな」
「別にもう聞きたくないっす」
「いやいや聞いてくれよ、ここに至るまでの私の壮大な『前日譚』を」
「そういうのは前日譚なんて言わないっす。なんか急に美少女に興味持った変なオッサンのタワゴトっていうんすよ」
美少女の目が潤んだ。なんてことだ、日頃の博士を知っているせいで全く心に響かない。
「なぜ変なオッサンが急に美少女に興味を持ったのか聞こうと思わないか」
「なぜっすか」
まあ一応聞いてやろう、と思ってそう言うと、美少女は頬を赤らめてもじもじした。
「それはその、私の助手が凄い美少女だなってことに昨晩突然思い至ってだな」
「は?」
「だから例え美少女の気持ちがわからないとしても、まあやるだけのことはやってみるかと……。あっ? 助手!? そんなとこで倒れちゃいかん!」
美少女が慌てて駆け寄って来たのを感じながら、私はあまりの衝撃に気を失った。
……というのが、その後地球が謎の生物の侵略に遭い、それと戦うため開発された美少女しか搭乗できない決戦兵器のパイロットを育成するために、全人類美少女化計画を立ち上げる、私と博士の『前日譚』である。
お題「前日譚」




