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フィリスと魔法使いの国 -6-

編集・加筆することがあります。

UP不定期です☆


「うわあ~、気持ちいい!」


「だねえ♪」


アンナと試行錯誤(しこうさくご)した箒の乗り心地は、最高だった。

よく晴れているし、風もちょうどいい。飛ぶのにもってこいだ。


ジニーはこちらの速さに合わせてくれてるみたいだし、一列に並んでおしゃべりするのも新鮮だ。

それに、魔法をかけた箒やお守りも目ざとく見つけて


「考えたねえ、どんな呪文を使った?

 私も、もう少し変えようかな~」


なんて言う。


夢中で飛んでいたら、お昼をだいぶ過ぎていたらしい。

ジニーがにわかに空腹を訴え、近くの村へ降りて昼食をとった。


村に1軒しかないというお店のスープは、どうやら隠れた人気メニューらしい。

思ったよりも多くの来店客で賑わっている。


思い切り飛んだあとのスープは、とびきりだった。

ゴロゴロとした具材。

見た目からして美味しそうだ。

ひと口飲んでみて、2人で目を見合わせ笑顔になる。


私がグッ、と親指を立てると、ジニーは『ん?』という顔をしたが、すぐに同じジェスチャーを返してきた。


店を出ると、そばには細い小川があり、大きな風車がカラカラと楽しそうに音を立て、のどかだ。


「ねえ、ちょっとだけ時間いい?」


「OK!…それじゃ私はこのあたりを軽く探索してくるか」


私はすぐにスケッチブックを取り出し、描き始めた。



小1時間くらいが経ち、戻ったジニーはみずみずしいオレンジの木苺のような大粒の実を両手からこぼれるくらい持ち帰り、ビックリさせられた。


「前に何度か食べたことあるけど、これは甘い」


「ホントだ、甘酸っぱくて美味しいね♪実験の残りはジャムにする?」


「ジャム。。それって何?」


「お砂糖と、あれば酸っぱい果汁を足して、鍋で煮込むの。トロッとしてて、保存もできるんだ。パンにとっても合うよ」


「美味しそうだな、作ってよ!…まだまだ、いっぱいあるんだ」


つるで編まれたカゴを取り出し、ウィンクしてくるジニー。

見ると、カゴいっぱいに木の実が入っていた。



少し雲がでてきたことにジニーが気づき、2人で飛行を再開する。


そうして、しばらく飛んでいたら…


「あれ、おかしいな‥」


「ん、どうした?」


私が方向を変えようと箒を操っても、箒は真っすぐ飛ぶのだ。

ジニーに言うと…


「それってさ、どんな感じ?フィリスは」


と聞かれた。


「どんな…悪い感じはしないけど、ちょっと不安」


「ふーん…。これまでに、箒と何か話した?」


「話しかけはしたよ。それに、お願い事も。


返事はなかったけど。

ねえ、箒はしゃべるの!?」


「うーん。何度かなら。

箒によく乗って、ちゃんと手入れをしていたら、何か特別なタイミングで、という感じ。

しゃべるというよりは、()()で示すみたい。

気づかないことも多いかも」



しばらく考えていたジニーが、意外なことを言ってきた。


「あのさ、このまま飛んでみるっていうのはどう」


「え、うん…ジニーがそう言うなら」


「…決めるのは、フィリス、貴方だよ」



箒…いや、ダンはここまでずっと安定して、私を乗せてくれている。

初期の授業の時みたいに()()()()()()はしていない。


「うん、それじゃあこのまま行ってみよう」


「OK!」



箒は鳥や飛行中の魔法使い、背の高い木なんかをちゃんとベルで知らせてくれたから、悠々よけることができた。


ジニーも手を叩いて感心していた。




夕方になると、アンナのお守りが白く温かい光を放ち、照らしてくれる。


前に乗せてもらった時は見過ごしていたけれど、ジニーの箒にもしっかりとランタンが取り付けられている。


ただ、私がちょっと疲れを感じてきた。



丘を越えた先の草原で休むことになった。


ジニーは驚いたことに、小さなカバンに4,5人は入れそうなテントを忍ばせていた。


しかも、杖をひと振りすると綺麗に組みあがり、中に入るとランタンやテーブル、長イスなども備えてあった。



ジニーのお手製だという、ジャーキーのような見た目の乾燥肉とパンがお腹を満たしてくれた。


干し草の塊でできたベッドの寝心地も、なかなか快適だ。


どういう仕掛けなのか、天窓が透き通っていて星がきれいに見える。



「あれはなんという星座?」


と聞くと、ジニーも心得たようで、1つ1つ教えてくれた。


ジニーは本当に博学だ。



その後、思い出したようにジニーは小さな四角いテーブルに向かう。

何を書いているのだろう。


羽ペンをサラサラとはしらせる音がして、なぜかとても落ち着く。

こんな時のジニーは、何というかさすがだ、という感じがする。


「フィリス」


「何?」


さっきから、しきりに横顔を見ていたのがバレたのだろうか。



「__どこに行こうとしてるのか、実は何となく知ってるんだ」


「あ、ゴメン …言ってなかった」


「そんなの気にしなくていいよ。

私がもしフィリスだったら、きっと同じことをする。


 …元いた世界に、家に、帰れるといいね」


「うん、ありがと…」


ちょっぴり涙が出る。

私はジニーに気づかれないよう、手の甲でそっとぬぐった。


いつの間にか明かりの落ちたランタンの、かすかに瞬く光を見つめていると、急に眠気が押し寄せてきた。






翌日。小鳥のさえずりの響くなか、だいぶ早くに目が覚めた。


久しぶりにぐっすりと眠れたおかげか、頭がさえている気がする。


(ジニーに、お世話になってるお礼をしたいの。

少し寄り道してもいい?)


と箒に聞いてから、飛んでみた。


不思議なことに、引き返す方向にある森へも行くことができた。

おかげで、泉の水や野草、それに、朝露がしたたるフルーツが手に入る。


私は慎重に魔法で火を起こし、小さなフライパンで水を沸かした。

摘んできた野草を入れると、ハーブティーみたいな香りが立ちのぼる。


「いいニオイだねえ~」


ジニーが起きて来た。

まとめていないフワフワの長い髪。

まだ眠いのか目を細めている。


私は続けてパンをぶ厚く切って温め、チーズやフルーツを添える。


チーズは昨日の村のスープのお店で手に入れていたものだ。

・・・この世界では、チダというらしいけど。


「うーん!美味しい」


ジニーはニコニコしながら食べてくれた。





それから3日、箒でできるだけ長く飛び続けた。

多少の寄り道はしたれけど。

ジニーのテントは居心地が良くて、遅くまで話が弾んだ。


4日目。よく晴れて空は真っ青だ。


「このあたりは私もあまり来たことないね」


とジニーが言う。


「もしかしたら、未知の素材が見つかるかも!!」


らんらんと目を輝かせだす。


「ごめんけど、またの機会にできないかな?」


とお願いすると、あっさりOKがでた。


ところが、私の箒は急に高度を下げ始める。


もしかして、何か気に食わなかったのかな?

それともエピーみたいに、空気を読んでくれた?


まさか、ダンスみたいな動きをする()()に逆戻り?



降り立ったのは、信じられないくらいに澄んだ湖だった。

私たちは綺麗な水にはしゃいで、浅いところで水をかけあう。


こんなに無邪気なジニーをみるのは初めてかも。


「これで飲み水には困らないね!今日はもう、ここで泊って行こうか」


とジニー。私もうなづく。


ジニーは目を輝かせながら、少し遠いところへ行った。

素材を探しているんだろう。


私はまだ湖の水と戯れている。

水の温度が本当にちょうどいい。


足を踏み出して、グラッと大きくよろけた。

いつの間にか深い場所にきていたみたいだ。


あわてて、戻ろうと手足をバタつかせる。

でも、ますます深みにはまっていく。


ついに、頭まで水に沈んだ。


ゴボゴボ…!息が苦しい。



(水流がある・・?湖のはずなのに)


足が吸い込まれるようだ。


だんだん、意識が遠のいていくのを感じる。

急に何も感じなくなった。



遠く、遠くで、ジニーに名前を呼ばれた気がしたのを最後に、私は意識を手放した。



 

 

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