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フィリスと魔法使いの国 ‐5‐

加筆・修正を加えることがあります。


UP不定期です☆

 

 気がつくと私は、どこだかまるで分からない、高い高いところにいた。

 風が吹いているのに寒くないのは、一面の綺麗な灰色の毛足の長い()()のおかげか。


 でも突然、あたりが揺れ始めた。


 あまりの振動に、私は恐怖を覚える。

 頭を抱え込み、早く静まってと願った__その時


「…リ……ど…! 」


 もの悲しい声が遠くから聞こえた。

 ハッキリと聞き取れないけど、女性のようだ。


 私は、急かされたように走り出す。


 でも、少し走ったところで息が切れてしまい、立ち止まる。


 足元だけかと思っていた灰色のラグは、じつはずっと先まで続いていた。

 ふかふかしていて、動きづらいのだ。


 そして、どんどん闇が濃くなってくる。



「・・・フィリス!!」


 今度ははっきりと呼ばれて、ハッとなった。

 私は寮のソファーで寝ていたらしい。


 そばにいたのはアンナだった。


「うなされてたよ… 大丈夫」



 心配そうに覗き込んでいる。


「う、うん。平気!」


 おおよその時間を知らせる壁掛けの魔道具は、真夜中をしめしている。

 こんな時間にうめき声をあげていたら、他の子の安眠妨害になっていただろう。

 ちょっとバツが悪かった。




 数日後、廊下を歩いていたら学長のラウルさんに声をかけられた。

 以前、話したときは椅子に深々と腰かけていて分からなかったけど、スタイルがいい。背も180cm近くはありそうだ。

 今日は黒色に細い白のストライプが入った、立て襟のスーツっぽい服を身につけている。



「フィリスさん エピーから最近の出来事を聞いていますよ♪

 よく頑張っていますね。私が思っていた以上に、貴方はこの世界を深く知ることができている」


 真っすぐに見つめられながら褒められ、ドギマギしてしまう。


「いえ、そんな・・・。ジニーさんやアンナのおかげです。それに、エピーも」


「エピーも、貴方はすごいと言っていましたよ。

 ・・・ところで最近、体調はどうですか」


「げ、元気です!」


「それならよかった」


 ラウルさんはにっこりと笑いかけてくる。

 そのまま少しの間、ジッと見つめられて少し戸惑う。

 学長の瞳は、何でも見通しそうに思えたから。


「さて、次の授業の時間ですね。…受けるかは、つねに自由ですが」


 イタズラっぽくウィンクされる。


「それではまた」


 と背を向けて去って行く後ろ姿に、私はその場で頭を下げた。


「あ、そうそう」


 少し進んだところでクルリ、と振り向いたラウル学長。


()()()()()()んだ。

 ___今の君には、もうできるはず」


「えっ…」


 箒の声を…でも…


(箒って飛ぶもので、話せはしないよね。あ、でも意志はあるんだっけ)


 考えあぐねる私に、学長は小さく頷いたように見えた。


「あのー、待ってください。どういうことですか?」


 聞き返そうとしたけど、学長の姿はもうどこにもなかった。




 ジニーに相談しようかと思って、寮や実験室を訪ねたけどいない。


(こんなのって初めてかも・・・。

 もしかして、例の()()()()に入っちゃったのかな)



 アンナが話を聞いてくれて言うには


「ラウル学長の謎かけか。課題みたいなものかもね。

 学長はめったに姿を見せないけど、生徒1人1人をちゃんと見てるんだって。

 私もね、学長が話に来てくれたことがあるんだ。

 ・・・大事にしてた本を間違って湖に落として、泣いてた時」


「本を・・それはショックだったね。 何て言われたの?」


「だいぶ前のことだから、正直よく覚えてはいないの。

 でも、助言をもらって気持ちが切り替わったのは確かね。

 すぐ、紙を乾かす呪文を覚えたよ」


「へえ、うまくいった?」


「本は暖炉の前に置いとくのが一番だったけど、呪文は何かと応用できて便利!」


 私が見たいとせがみ、アンナは呪文を唱えながら杖を振る。


 わざと水につけた羽根ペンは、みるみるうちに乾いて、元の姿に戻った。

 …しかも、何だかツヤっとして見た目もよくなっている。


「すごい!」


 思わず拍手をする。


「何度も練習したからねー」


 アンナは得意そうに、胸を張って見せた。




 その夜。

 また、夢を見た。


 楽しく箒で浮遊していたのだけれど、大きな何者かに追いかけられ、必死で逃げようとしていた。


 ドド、、!!という音で目覚めると、窓に打ち付ける大粒の雨。

 私の不安な気持ちをあらわしているようだった。




 フィリスと会えなくなって、10日が経った。

 

 (バード便くらい、よこしてくれてもいいのに…)


 私が広間でため息をついていると…


 「久しぶりだねぇ!」


 と元気な声がした。


 「えっ…?その声は」


 辺りをキョロキョロと見回すけれど、声の主はいない。


 ただ、大理石の台の上にすまし顔をしたカラスくらいの大きさの鳥がとまっているのに気づいた。

 白金色にグレーの配色で、なかなかにおしゃれだ。


 「・・・?」


 私がジーーーッと見ていると、鳥はピクッと動き、毛づくろいするようなそぶりを見せ、かき消すようにフッといなくなった。


 次の瞬間、目の前にいたのは__


 「ジニー!!…会いたかったよー」


 思わず駆け寄って、ハグをする。


 「おおっと… 分かった、分かったから!」


 シッシッ、とあしらわれる。

 

 どこに行ってたの?どうして連絡くれなかったの

 質問がグルグル頭の中を巡る


 ・・・あれ、でもよくよく考えると私って未だにパッとしない生徒だし 

 物珍しさで構ってもらえてただけで、じつはジニーにとっては知り合い程度だったり?


 何だか悲しくなってきた。



 ぽん、と頭に手を置かれてハッとなる。


 「何考えてるのか知らないけどさ・・、ちゃんと寝てる?

 それと、よく分かったね。ガレンに化けていたのに。


 すぐに見つかって、焦っちゃったよ」 


 さっきまでの救いようのない考えが、どこか行った。

 ・・・だって、ジニーが今までに見たことないくらい、親しげで優しい顔だったから。


 さっきのおしゃれ配色の鳥はガレンというらしい。

 

 どこへ行っていたのかと聞いてみると、それはヒミツらしい。

 

 

 「あのさ、ジニー。ちょっと頼みたいことがあって」


 「え?何?初めてじゃない、頼み事とか!」


 急にキラキラと瞳を輝かせるジニー。

 

 「箒で、というか箒()出かけたいんだけど…1人だと心細いっていうか。

 アンナ、箒だけは苦手みたいで…」


 「いいよ!いつ行く?今からでもいいよ」


 ニッ、と笑うジニー。


 「いや…準備もしたいし、明後日くらいで・・」


 「いいよ!じゃ 明後日! 裏の林に10時でどう」


 「うん、それでお願い」

 

 


 

 その日の夕方。


 授業はすべて終わり、私は庭園の隅で箒と向かい合っていた。

 例の仮入学用の箒だ。

 といっても、性能や見た目は他の子のそれと大きな差はない。

 なかには、裕福な親に高級店の最新型を持たせてもらい、目立つ子もいるけど。


  

 私はいつからか、箒にダンと名前を付けて呼んでいた。

 空中にいる時、たまにダンスみたいな動きをするから。


 (・・・ねえ、聞こえる?

 何度も乗せてもらってるのに、自己紹介まだだったよね。


 私、フィリス。


 ここに来る前は、遠い異世界にいたんだ。


 あなたにも、帰りたい場所があったりしない?


 私、元の世界の人達に会いたい。

 元気だと知らせて安心させたいの」


 視線をなげかけ、待ってみる。


 でも、箒に変化はまるで見られない。

 

 「ねえ、()()()()()みたら?」


 かたわらで、いつからか私の様子を見守っていたらしいアンナが、話しかけてきた。


 「…どういうこと?どうしたらいいの」


 「もちろん、魔法をかけるんだよ。


 私も最近、学校図書館で借りた魔法書で存在を知ったんだ。

 教授には内緒で、やっている子も多いよ。


 ようは、自分が乗りやすい箒にしちゃうの。

 1番人気なのは、速度を強化する魔法。


 それと、モノを持ち帰るのに便利な重量魔法と…。


 自信がなくて、守りを固めたいならバリアを…」


 「…それ、やってみたい!」


 私の反応が意外だったのか、アンナが目を丸くする。


 「ホント?上手くいかないこともあるけど。簡単じゃないし」


 「失敗してもいい。もう怖くない

 アンナ、呪文を教えて」



 それから明け方までかかって、アンナと2人で魔法をかけ続けた。

 


 「よーし!!これでいいね」

 

 「うん、いいと思う」


 私は夜明け前の空を、箒に乗って駆け回る。


 ()()()()した箒は、接近した鳥などの生き物をベルのような音で知らせてくれるようになり、スピードも少し速くなった。

 それに、方向転換もしやすい。

 

 何かを予感したのか、アンナは少し寂しそうな顔をしていたけれど、一緒に生まれ変わった箒を喜んでくれた。


 「フィリス、これ作ったの。もらってくれる」


 「わあ、きれい…」


 「おまじないをかけておいたよ。安全のお守りに。

 それと、暗くなったら光るから」


 クリスタルみたいな細長いストーンに、茶色の長い革紐がついている。


 私は箒の持ち手あたりに、アンナのくれたお守りをライトとして結び付けた。

 これで、暗いなかでも安心だし、クリスタルみたいな見た目で綺麗だ。

 


 

 当日。

 

 私は箒と荷物を手に、待ち合わせ場所へと向かった。


 あれから、少しでも時間があるときは話しかけてみているけど、箒のダンが応えることはなかった。


 アンナが授業を休んでくっついてきてくれ、少し不安そうにしている。



 「ムリしちゃだめだよ」

 

 「うん、ありがと」



 

 風が強くなったと思ったら、茂みをかき分けるようにしてジニーがあらわれた。

 機嫌がいいのか、ニコニコしている。


 「ジニー、今日はよろしくね」


 「もちろん!さあ、行こう♪」



 すると、おずおずとアンナが

 

 「あの…ジニーさん、あんまりスピードださないでください」


 と訴えた。

 控えめなアンナのことだから、こんなこと言うのは勇気がいっただろう。


 「そ、そうだね、気を付けるよ」


 ジニーはいつもの真顔に戻り、アンナに頷いて見せた。



 私は、ゆっくりと箒に体重を預けた。

 

 そのとき…。


 「デンゴンガ アリマス」


 と聞き覚えのある声。エピーだ。


 驚いたアンナが


 「ひゃっっ!!」


 と小さく飛び上がる。 

 その場にピリッ、と緊張が走った。


 校内から箒で飛んではダメ!と注意されるのだろうか__?

 今度こそ、休校?まさか退学…?


 「・・・クレグレモ キヲツケテイキナサイ

 モンダイガ オキタラ カナラズシラセルコト


 ガクチョウ ラウルヨリ


 ____イジョウデス」


 

 ジニーが胸をなでおろすのが見えた。

 

 「了解です。それじゃあ、今度こそ行こう!!」


 「うん。それじゃあね」

 

 「オキヲツケテ」


 ジニーはどこからか呼び出した箒の上に立ち、短く呪文を唱える。

 …学長のお(すみ)付きがあるからか、イキイキしている

 それはいいんだけど、元の調子で飛ばしそうで、ちょっと嫌な予感。


 私も、練習のときと同じように慎重に、でも素早く箒にのり、箒の柄をギュッとにぎった。


 飛び立つとき、呪文のあとに心の中で呼びかけてみる。

 

 (箒さん…いえ、ダン。

  ()()()ね)


 箒は、相変わらず無反応だ。

 

 「いってらっしゃい…!」


 と笑顔で手を振るアンナの姿が、だんだん小さくなっていく__。 



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