(7)
(どこの後妻かしら?)
叶うことなら、年齢は五十歳以下で特殊な性癖はない人だとありがたい。
「それは、一体どこのどなたから?」
アリスはどきどきしながら、恐る恐る父に問いかける。
「システィス国の国王──ウィルフリッド・ハースト殿だ」
「システィス国のウィルフリッド・ハースト陛下……」
ちょうど今さっき問題集を見ながら勉強していた国名が出てきて、アリスは驚いた。
「あの……国王陛下がわたくしを妃などに迎えてよろしいのでしょうか? システィス国に後宮はなかったかと思うのですが」
アリスは国王に問いかける。
真実はともかく、アリスは周囲から〝子供が生せない〟という疑惑を持たれている。国王など、どんな貴族よりも後継ぎが熱望される存在のはずだ。
王族同士の政略結婚では、申し込み前に相手についての調査が行われる。ウィルフリッドは、アリスが七年間ハーレムに入っていたことや、その間に子供ができなかったことを把握しているはずだ。
「それが、先方が是が非ともとお前を熱望されている」
「わたくしを熱望……」
一体なぜ?と思わざるを得ない。アリスは可愛らしいと言われる見た目をしているが絶世の美女ではないし、アーヴィ国が他国に比べて膨大な資源を持っているということもない。つまり、熱望される理由がないのだ。
うーんと悩むアリスを見て、両親は顔を見合わせる。彼らも、なぜウィルフリッドがアリスを妻に望むのか、皆目見当がつかないのだろう。
「もしもお前が嫌なら、なんとか断ることもできる」
父は心配そうな目で、アリスを見下ろす。
「断る?」
システィス国は強大な軍事力を持ち資源も多い国なので、国際的な影響力が強い。断って関係が悪化したら。アーヴィ国にとってはかなりの痛手だろう。断るという選択肢は、極力避けたいはずだ。
「いいえ。わたくし、システィス国に参ります」
アリスははっきりとそう言った。ビクルス国に嫁いだもののハーレム解散して実家に帰されるという前代未聞のことでただでさえ両親には迷惑を掛けた。これ以上、自分が原因で迷惑をかけたくはない。
「アリス、本当にいいの? ウィルフリッド陛下には気になる噂もあるわ」
心配そうな顔をして口を挟んだのは、アリスの母である王妃だ。
「気になる噂?」
「ウィルフリッド陛下が国王と王太子を殺し、王座を手に入れたという噂よ」
王妃は胸元でぎゅっと手を握り、アリスを見る。考え直したほうがいいと目で訴えている。
(国王と王太子を殺し──)
それはまた随分と物騒な噂だ。両親がアリスを心配するのも頷ける。
しかし──。
「構いません。気になる噂があるのはわたくしも同じです」
アリスは首を横に振る。
アリスの〝気になる噂〟は子供を産むことができないのではないかという噂だ。
王族に嫁ぐ女性が子供を産めないということは、即ち世継ぎを作れないということだ。
そもそも子作りをしていないのだからできるはずがないのだが、真実を知らないくせに好き勝手な憶測をまるで真実のように言う人は少なからずいるものだ。だからアリスは、ウィルフリッドの悪い噂も本当か疑わしいと思った。
唯一の心残りは、せっかく外交官になろうと思い立って勉強を始めたのに、それが叶わなくなってしまうことだ。
とはいえ、絶対に外交官になりたかったわけではなく、自分が役に立てそうな分野を探していたら外交官が目に付いたというだけのこと。これを理由に断るほどのものでもない。
それに、アリスは外交官になるよりもシスティス国の国王に嫁いだほうが、直接的にアーヴィ国に恩恵をもたらすことができるだろう。
「このお話、是非進めてくださいませ」
アリスはそう言うと、にっこりと微笑んだ。
次章、いよいよアリスがシスティス国へ。
プロローグのあのシーンも出てきます。引き続きお楽しみください。
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