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【書籍化】元・最下位の妃、ニ度目の政略結婚で氷の冷酷王に嫁ぎます  作者: 三沢ケイ


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◆ エピローグ

 私室の窓を開けると、心地よい風が室内に流れてきた。風の冷たさが以前に比べてだいぶ柔らかい。


「だいぶ暖かくなって来たわね」

「そうですね。もうすぐ、庭園の花もたくさん咲き始めるかと」

「本当? 楽しみだわ」


 アリスはエマの話を聞き、表情を綻ばせる。


 システィス国では冬の間、花を楽しむことができない。花が大好きなアリスとしてはとても残念なので、今年の夏は温室を建築したいと思っている。温室であれば、もしかしたら花が咲くかもしれないと思ったのだ。


 それに、これが上手く行けばシスティス国で冬の間に育てられる野菜の種類を増やすこともできるかもしれない。食卓のバリエーションが格段に増えて国民の生活も豊かになるはずだ。


「そろそろ、裁判の判決も出た頃ですね」


 今の言葉にアリスは「そうね」と答えて、再び窓の外に目を向けた。



 ウィルフリッドとアリスが樹氷を見に行った日から、そろそろ四ヶ月が経つ。

 あの日、ウィルフリッドの叔父であるヴィクターは、国王の暗殺未遂の罪で逮捕された。ヴィクターは『陛下のことが心配になって様子を見に追いかけただけだ』と無罪を主張しているが、誰が聞いても苦しい言い訳だ。それに、ヴィクターが氷と水の異能を持っていることは、あの場にいた全員が目撃した。


『まさか異能を持っていることを隠しているとは全く気がつかなかった』


 項垂れて寂しげに呟くウィルフリッドの姿に、胸が押し潰されるような思いだった。

 一方で、ヴィクターが逮捕されたことから言い逃れは無理だと観念したノートン公爵家の使用人達は次から次へと証言をしてくれた。


 酒に酔ったヴィクターは『国王の座を必ず手に入れる』とよく漏らしていたこと、イリスは息子のことを〝未来の国王陛下〟として接するように使用人達に指示していたこと、そして、前国王と王太子が亡くなった日ヴィクターとイリスが祝杯をあげていたという証言もあった。


 ヴィクターは元々、ウィルフリッドのことも国王と王太子と共に殺して自分が国王になるつもりだった。しかし、ウィルフリッドが自分の異能の力を使って生き延びてしまったので計画が崩れた。


 新国王となった幼いウィルフリッドを殺すこともできたが、後見人としてほぼ国王と同等の権力を手にしたので、下手に動いて自身に疑惑が向くのを防ぐためにしばらくは忠臣を演じることにした。

 しばらくはそれでうまく事が運んでいたが、どんなに幼い子供もときが経てば大人になる。段々と成長したウィルフリッドはやがて自分の意志をもって政権を運営するようになった。さらに都合が悪いことに、文武両道で警戒心が強く、全く隙がない。


 なんとかしてウィルフリッドを殺す機会を窺っていたヴィクターにチャンスが到来した。ウィルフリッドが、異国の出戻り王女と結婚したいと言い出したのだ。

 相手の王女──アリスは子供をなせない体であるという噂があり、ヴィクターにとっては都合が良かった。子供ができなければ、いずれウィルフリッドが死んだときの王位継承者は彼になるからだ。


 さらに、アリスは雪国の知識がほとんどなく、彼女に起因した事故死とすればウィルフリッドが巻き込まれたとしても不審に思われない。


 国王殺しは殺人罪の中でも最も重罪とされる。おそらく、ヴィクターは死刑を免れないだろう。


「アリス様。お医者様がいらっしゃいましたよ」


 エマがアリスに呼びかける。


「ええ、ありがとう。お通しして」


 アリスは振り返り、返事をする。


 ここ最近、アリスは原因不明の体調不良に襲われていた。ずっと微熱が続き、突然気持ち悪くなったり、日中やけに眠くなったり。心配したウィルフリッドが医師にかかるように命じ、今日はその診察日なのだ。


 医師は穏やかそうな、初老の女性だった。


「失礼いたします、妃殿下」


 問診から始まり、医師は一通りアリスの健康状態を確認してゆく。


「おめでとうございます。ご懐妊と見て、ほぼ間違いありません」

「え? 懐妊?」


 アリスは目を瞬かせる。


「まあ! おめでとうございます、アリス様!」


 部屋に控えていたエマは医師の言葉を聞き興奮気味だ。


(懐妊ってことは、赤ちゃんができたってこと? わたくしと、ウィルフリッド様の?)


 言われた言葉を理解すると、じわじわと喜びが湧き起こる。


「アリス!」


 バタンとドアが開き、ウィルフリッドが入ってきた。裁判の最終判決が出て、今戻ってきたのだ。今日アリスの診察があるので、結果を気にして急いで戻って来たようだ。

 艶やかな銀髪はいつもより後ろに流れている。


「診察結果はでたか?」


 ウィルフリッドはアリスの元に歩み寄ると、彼女の両手を握る。


「はい」


 アリスは頷く。


「わたくし、赤ちゃんができたそうです。喜んでくださいますか?」


 アリスが微笑むと、ウィルフリッドは大きく目を見開く。そして、満面の笑みを浮かべた。


「もちろんだ。これ以上喜ばしいことはない。おめでとう、アリス」


 ウィルフリッドはアリスを抱き寄せると、そっとキスをする。


 柔らかな日差しが窓から差し込む。

 長い冬が終わり、システィス国に春が訪れようとしていた。

 

 <了>


最後までお付き合いいただきありがとうございました

下の評価ボタン☆☆☆☆☆を★★★★★にして応援いただけたら作者のモチベーションUPに繋がるので何卒よろしくお願いします!


そしてなんと、皆様の応援のおかげで本作の書籍化が決定しました! 詳細は後日活動報告にてお伝え予定ですので、よろしければお気に入りユーザー登録もお願いします。


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― 新着の感想 ―
面白かったですが何故あきらかに怪しい王弟である宰相を全く疑うことが無かったのかの深掘りが欲しかったです。 あっさりと解決してしまったせいで宰相がそんなにずる賢く見えずそんなのにみんな騙されてたの?って…
すごく面白かったけど、最後はサラッと終わるのではなく、もうちょっと余韻を楽しんでから締めくくってもらいたかった。最後の終わり方で今迄のエピソード内容が霞んでしまった。
[良い点] 不遇な生活の中でもそれを逆手にとって生き抜く強さが素晴らしい。 三沢さんの作品はいつも面白いですね、安心して最後まで読めました。 [気になる点] ルシアが姉というイリス。もっとねちねち関わ…
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