◆ 第七章 十三年前の真実
事件から二週間が経つころには、アリスはすっかり元気になった。
あれ以降は不思議な吹雪も発生しておらず、王宮はすっかりと平穏を取り戻している。
朝食の席で、アリスはたまごスープを口に運ぶウィルフリッドを窺い見る。
「ウィルフリッド様。本日はイリス様にご招待されてノートン公爵家に行ってまいります。アメリア様も参加されるので、ご一緒させていただく予定です」
「叔父上の屋敷に? そうか、楽しんでくるといい」
ウィルフリッドはスプーンを運ぶ手を止め、にこりと微笑む。
「はい」
アリスもつられるように微笑んだ。
先日ヴィクターを訪ねたとき、彼はアリスの気晴らしになるようにお茶会でも開くように妻に伝えると言っていた。その言葉通り、数日前に『お茶会を開催するので是非来て欲しい』とノートン公爵夫人であるイリスから招待状を受けとった。
たまたま招待状が届いたとき、アリスは王宮にお見舞いに来てくれていたアメリアとお茶を飲んでいる最中だった。お茶会のことを知ったアメリアは自分も行きたいと言い出し、アリスも是非にとそれを望んだので、結局二人で参加することになったのだ。
(イリス様ってほとんどお話したことがないけど、アメリア様がいるなら安心ね)
実は、イリスには若干苦手意識がある。以前話したときに他の夫人たちの前でハーレムの話を持ち出されて以来、なんとなく苦手になってしまったのだ。
「万が一何かが起こったときのために、近衛騎士は多めに連れて行け。あと、防寒もしっかりとな」
万が一何かが起こったときのため、と言われてすぐに、先日の吹雪のようなことを警戒してるのだとわかった。
「はい。承知いたしました」
アリスは唇を引き結んで頷いた。
ノートン公爵家に到着したのは、約束の時間の少し前だった。
「時間前に申し訳ございません」
「いえ、大丈夫です。もうそろそろ時間ですし」
カメラが謝罪するアリスに顔を上げるように促すと、屋敷の奥へと案内する。
広い廊下の床にはふかふかの絨毯が敷かれ、天井には小さなシャンデリアが等間隔に並ぶ。そこかしこに飾られる絵や壺などの美術品も、かなりの金額だろう。
(とても立派ね)
ノートン公爵であるヴィクターは前国王の弟で、ウィルフリッドの叔父だ。現在最も王家に近い公爵家であることもあり、屋敷内の調度品はアリス達が過ごす王宮に遜色ないほどだった。
「こちらのお部屋へどうぞ」
長い廊下にいくつも並ぶドアのひとつをイリスは開く。中は接客用のサロンになっており、六人掛けのテーブルセットが置かれていた。
「アメリア様!」
テーブルに向かって、既にアメリアが座っていた。アメリアはアリスに気づくと、表情を明るくする。
「ごきげんよう、アリス様。先週以来ですね」
アメリアは一旦息をつき、アリスのドレスをまじまじと見る。
「そのドレスはもしかして、以前お伝えしたミセストールの工房の製品ではありませんか?」
「はい、よくわかりましたね。実はウィルフリッド様にプレゼントしていただいたんです」
アリスはドレスのスカートを両手で抓み、よく見せるようにポーズして見せる。
今日着ているのは、ウィルフリッドがプレゼントしてくれた薄水色のドレスだった。厚手の生地で保温性を持たせているが、生地の薄水色の効果で暑苦しくは見えない。最近のアリスの一番のお気に入りだった。
「まあ、そうなのね! 自分の瞳に似た色を贈るなんて、ウィルもなかなか隅に置けないわね」
アメリアは、アリスとウィルフリッドがうまくいっている事を感じ取り、とても嬉しそうだ。




