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 ◇ ◇ ◇


 執務室にいたウィルフリッドは、窓を揺らす風の音で顔を上げた。寒冷地のためシスティス国の窓は二重窓構造なのだが、それでも音が聞こえてくる激しさだ。


「今日は吹雪か」


 システィス国では冬の間、時折こういった猛吹雪に襲われることがある。大体一日で収まるので、こういう日は外に出ないに限る。


 立ち上がったウィルフリッドは窓の外を見る。激しい雪で視界は閉ざされ、十数メートル先にあるはずの尖塔すら認識できない。


「陛下。失礼します」


 ノックと共に入室してきたのは、側近のロジャーだ。ロジャーは手に書類を持っていた。


「今日は酷い吹雪ですね。明日は騎士や衛兵達を総動員して雪かきだな」


 ウィルフリッドが窓の外を眺めているのに気づいたロジャーも窓に近づき、肩を竦める。吹雪になると雪が積もるため、道路が使えなくなる。そのため、主要な幹線道路は使えるように雪かきをするのだ。


(吹雪か)


 ウィルフレッドは右手に神経を集中させる。その手を窓に向けて大きく振ると、城下から王宮へと続く幹線道路の雪が一瞬で消え去った。ウィルフリッドが持つ、異能の力だ。


「うわ。相変わらず凄いですね」


 ロジャーが窓の外を眺めながら、感嘆の声を上げる。


(特に異常は感じないな)


 ウィルフレッドは自分の右手を眺める。右手はウィルフレッドの意思に合わせ、開いたり閉じたりした。


「ロジャー。アリスが吹雪に見舞われた日のことだが、同行した騎士達への聴取は終了したか?」

「はい。まさにちょうど報告書がまとまったところです」


 ロジャーは手に持っている書類をウィルフリッドに見せるように、掲げる。


 アリスが外出中に局所的な吹雪に見舞われたのは、数日前のこと。全身に雪を被った近衛騎士が助けを求めて王宮に駆けこんできたときは、本当に肝が冷えた。

 会議を中断して急遽助けに行って最悪の事態は逃れたが、ウィルフリッドにはどうにも解せないことがあった。


(なぜ急に、アリスがいた場所だけが局所的に猛吹雪になったんだ?)


 もちろん、天気の影響でたまたまそうなったということも否定できない。しかし、ウィルフリッドの脳裏によみがえるのは、十三年前の忌まわしい記憶だ。


(父上と兄上が亡くなったときと、同じだ)


 十三年前のあの日、ウィルフリッドは父と兄と共に視察へ向かった。

 その道中、晴天だった天気が急変し、突然の猛吹雪に見舞われた。吹雪対策をしていなかったウィルフリッド達一行はなすすべなく立ち往生し、ふたりは帰らぬ人となったのだ。


 あのときはウィルフリッドが異能を暴走させたのではないかという疑いが濃厚だったが、今回のアリスの件に関しては同行すらしていない。それに、あの吹雪を収めたのはウィルフレッドであり、異能は暴走させていない。


 それに、気になることがもうひとつ──。


「お時間が大丈夫なら、今ご説明しますがどうしますか?」


 ロジャーがウィルフリッドに尋ねる。


「では、今聞こう」


 ウィルフリッドは応接用のソファーに座り、ロジャーにも座るよう顎で向かいのソファーを指す。ロジャーは勧められるがままに、そこに座った。


「アリス妃が外出された日ですが、気象台の者の報告によると朝から天気は晴れ。多少の雲は出ていたものの、風は穏やかでした」

「ああ、そうだな」


 ウィルフリッドは相槌を打つ。

 あの日は外出するアリスに『晴れていてよかったな』と声を掛けた記憶がある。少なくとも、王宮の付近は晴れていた。



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