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(2)

 

「もしケイト様が真実を教えてくださらなかったら、わたくしショックすぎて寝込んでいたわ」

「ふふっ。ハーレムの皆様ったらアリス様のことを見た瞬間、ホッとしていたわ。だって、アリス様ってばただでさえ若いのに童顔で、まるで小動物みたいに可愛らしいんですもの」


 ケイトはアリスが嫁いできたときのことを思い出したのか、くすくすと笑う。


 そう、ハーレムでの生活は、アリスが想像していたものとは全く違っていた。なぜなら、アリスの夫であるこのハーレムの主──クリスは大の年上女性好きだったのだ!


 なんでも、最低でも十歳以上年上でないと興味すら湧かないらしい。つまり、元々童顔で背も小さい上に八つ年下のアリスは、彼の好みの対極にいた。


 初夜に寝所にすら現れず、一切自分に興味を示さないクリスの態度にアリスは少なからずショックを受けた。女官に聞いてみると、彼は一番のお気に入りの妃、ルシア──彼女はアリスの二十五歳年上のこのハーレムで最年長の妃で、当時既に四十歳だった──の元に足しげく通っているという。


 唯一よかったのは、あまりにもアリスがクリスに相手にされないので、ハーレム中の妃たちから『この子は敵にならない』と判断され、虐められるどころか可愛がってもらえたことだろう。


 そしてルシアは現在に至るまでクリスの寵愛を一身に浴び、絶対的寵妃の座を揺るぎないものにしている。対するアリスは七年間で夫の顔を見たのは数回程度。全て宴席の場で遠目に見ただけである。


 同情した他の妃が強力な催淫剤だと言って瓶に入った媚薬を分けてくれたが、そもそも渡りがないのに使いようがない。そんなこんなで、アリスは最底辺の妃としての地位をいつの間にか固めていた。


 ハーレムの妃に配られる給金は、どれだけ主の寵愛を受けているかで変わってくる。世知辛いことに、アリスの給金は雀の涙だった。もしかしたら、女官のほうが多いかもしれない。


 だから、アリスはみんなに可愛がられていることをいいことに、色んな妃の元を訪れては侍女のように働き、小遣いを稼いでいた。涙なしには語れない、ということもなくそれなりに楽しかったのでそれ自体は別に構わないが、想像していた結婚生活と全く違っていたのは否めない。


(結婚生活か……)


 ふと、先日読んだ人気作家の書いたという恋愛小説の内容を思い出す。


 ──身を焦がすような恋に翻弄される二人は、最終的には数々の苦難を乗り越えて結婚し、心身ともに結ばれる。その後、可愛い子宝にも恵まれて、いつまでもいつまでも幸せに暮らしました──。


(うーん。違いすぎて笑っちゃう)


 ハーレムでの暮らしは気ままで悪くないが、果たしてこれは結婚生活と言えるのだろうか。夫と年に一度も会わないなんて。


(もし別の人に嫁いでいたら、全く違う結婚生活を送っていたのかしら?)


 思わずそんなことを思ってしまう。


「十五時ってことは、そろそろだわ。行きましょう」


 時計を確認したケイトに促され、アリスは「ええ、そうね」と立ち上がる。大広間に向かうと、既に多くの妃達が集まっていた。


 そこに現れたのは、大臣を伴った若い男性だった。


「皆、よく集まってくれた。今日は大事な話がある」

「あれって、エルゴ殿下? クリス殿下はどうしたのかしら?」


 隣に立つケイトがこそっとアリスに耳打ちをする。

 エルゴはクリスの腹違いの弟で、ここビクルス国の第二王子だ。母親譲りの金髪碧眼で、なかなかの美青年だ。


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