表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ヤンキー青年と老夫婦

作者: 昼月キオリ

ここにヤンキー達からボコボコに殴られて逃げている最中の若い男がいた。

ヤンキー1「みなとー!!」

ヤンキー2「待てコラー!!」


湊「ちっ、まだ追って来んのかよ、あいつらもしつけーな」

横浜湊(よこはまみなと)。高校二年。金髪にピアス。いわゆるヤンキー。

目つきの悪さも相まって絡まれることもしばしば・・・。

走っている湊の目に止まったのはバイクに乗り、信号待ちをしていたおじいさんだ。

老松「え、ちょっと君!」

老松一仁(おいまつかずひと)。(78)。

湊は老松の声には耳も傾けず勝手にバイクの後部座席に乗り込んだ。

湊「おい、おっさん!このまま走れ!」

老松「わ、分かったよ・・・」


湊の剣幕にたじたじと言った様子の老松はいかにも人が良さそうな感じのおじいさんだ。


15分後、湊は近くにあった公園にバイクを止めさせると後部座席から降りた。

湊「よし、ここまで来ればあいつらも追って来ないだろ、おいおっさん、もう行っていいぞ」

遠回しにお前の用は済んだと告げる湊。

老松「あんた、何であの子達から逃げてるんだ?」

湊「あ?おっさんには関係ねーだ、ぐぅ・・」

湊が言い返そうとしたその時、湊のお腹が絶妙なタイミングで鳴る。

湊「はぁ・・・そう言えば今日何も食べてなかったな」

老松「なぁ、あんた家に来ないか?」

湊「は?何言ってんだおっさん、頭おかしいんじゃねーのか?この状況でよくそんな事が言えるな」

老松「腹が減ってるんだろう?」

湊「いや、そりゃあ減ってるけど・・・」

老松「実はこれでもおじさん和食屋をやっててね、腕にはちょいと自信があるんだ、良かったら食べて行かないかい?」

湊「いや、けど俺金ないし・・・」

老松「お金の事なんて気にしなくていいよ、これも何かの縁だ」


見た目通りのお人好しか、まぁ、タダ飯食えるならいいか・・・。

そう思った湊はおっさんの店に行く事にした。


和食屋に到着。

老松「雅代(まさよ)さん、ただいま」

雅代「お帰りなさい買い出しありがとう、あら、あんた、また連れて来たのかい?」

老松雅代(おいまつまさよ)。(78)一仁の妻。

 

また、という事は何度も同じ事してるのかこのおっさん。


老松「まぁね、君、何が食べたい?」

湊「ぐぅ・・・じゃあハンバーグ定食で」

再度お腹の虫が鳴った湊は店の壁に貼られたメニュー表を見るとハンバーグ定食を注文した。

老松「ふふ、ハンバーグ定食ね」


この和食屋は夫婦で営んでいるらしい。

老松が調理をしている。

10分後。

老松「できたよ」

この店は出来上がった料理を自分で運ぶシステムらしい。


出来立てほやほやのハンバーグを口に運ぶ。

湊「美味い・・・」

腕に自信があるというのは本当らしい。

老松「それは良かった」

湊「なぁ、おっさんは何で俺なんかに優しくするんだ?」

老松「若い子がお腹を空かしていたら放っては置けないだろう?」

雅代「この人、いつもこうやってお腹空いてる若い子を連れて来るんだよ」

湊「どんだけお人好しなんだよ、そんな事してたらこの店赤字じゃねーのか?」

老松「ああ、赤字も赤字、大赤字!ははは」

老松は赤字の事など大して気にも止めていないようでカラカラと笑った。

湊「・・・」


雅代「お腹が空いたらまたいつでもおいで」

老松「いつでも待ってるからね」


俺は勝手に仮を返しに来ると二人に伝えて店を出た。

金がなかった俺は初めてバイトを始めた。

しかし、ずっとヤンキー生活をしていた俺はなかなか上手くはいかず、バイトを始めては首になる日々だった。

そんな俺もしばらくしてなんとか稼げるようになった。俺は貯めたお金を持って店に向かった。


店の近くまで行くと店が閉まっている事に湊は気付く。

湊「ん?定休日か?」

店の前で突っ立っていると後ろから一人の男に声をかけられた。

店の常連「金髪頭にピアス、兄ちゃん、ひょっとして・・・」

湊「?誰っすか?」

店の常連「このお店の常連だった奴さ、

二人ね亡くなったんだ、2週間前に」

湊「え・・・」


戻って来た時には二人はすでに亡くなっていた。

妻が数年前から患っていた病気で亡くなり、おっさんはその後を追うように亡くなったそうだ。

そう、つまり俺と会話していた時にはすでに病に侵されていた事になる。

それを今初めて聞かされたのだ。


店の常連「これ、ある人に店の後を継いで欲しいと書かれた手紙が置いてあったんだがね・・・君だね?」

そう言ってその人は俺に手紙を渡してきた。

湊「?」

俺は不思議に思い手紙を読んだ。


手紙にはヤンキー青年君へと記載されていた為、すぐに自分だと分かった。

俺は高校卒業後、店を継ぐ事にした。

とは言え、料理もろくにした事がない俺は二人が残したレシピから料理の勉強をし、そして今まで一度もした事がない接客の仕方、経営の方法まで学んだ。

最初は上手くいかない事ばかりだったが努力の末、なんとかお店は経営できるようになった。


それから三か月後。

母親と男の子が来店した。

しかし、男の子が自分の分を運ぶ途中で転び、お盆をひっくり返してしまった。

真斗「うわっ!!」

ガッシャーン!

湊が物凄い形相でこちらへ向かって来る。

母親「す、すみません!ほら、真斗(まさと)も謝りなさい!」

真斗「ご、ごめんなさい・・・」

湊はしゃがむと子供の体をパパパッと見る。

母親「あ、あの・・・?」

湊「よし、怪我はないな、気が利かなくて悪かった、次は俺が運ぼう、作り直してくるから少し待っててくれるか?」

真斗「う、うん・・・」

湊「よし、いい子だ」

母親「あ、あの、ありがとうございます!ほら、真斗もお礼を言って」

真斗「あ、ありがとう・・・」

湊「ああ」

母親「真斗、優しいお兄ちゃんで良かったわね」

真斗「うん!僕、あのお兄ちゃん大好き!」

その言葉を聞いた湊は料理を作りながら静かに笑を浮かべるのだった。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ