エピローグ そしてまたいつもの日常が……
ちゅうじんが地球を去ってから三か月。新年度を迎えた多田は、今まで勤めていた旅行会社“妙魅ツアーズ”を辞め、観光省で勤務していた。
「いや~、やっぱり定時で帰れるってのは良いな」
「今までブラックな企業に勤めてましたからね。本当に定時で帰っていいのかって気持ちになります」
そう不安げに話すのは、多田の後輩である下条だ。あの阿保な下条まで、こうして観光省で勤務できているのには理由があった。
◇◆◇◆
遡ること約三か月前。ちゅうじんが地球から去った翌日に、企画課全員に召集命令がかけられた。突然の呼び出しに一同困惑している中、課長である和住が話し始める。
「突然呼び出して悪かったな。お前らに重要な話がある」
どうせ締め切りギリギリな書類を、今日中に片付けろとかそんなんだろ。ここに勤めて何年だと思ってるんだ。
年明け早々バタバタして疲れていた多田は、内心イラつきを見せていた。他のみんなも、もったいぶらずに早く言ってくれ、とダルそうに課長の次の言葉を待っている。すると、課長が続けてこう言った。
「俺も含めてだが、ここにいる全員は本日付けでこの会社を辞めることになった」
「……はああ⁉︎」
突然の辞令に一同驚きの声を上げ、先日までちゅうじんの帰還準備に追われて寝不足だった多田は、一気に覚醒した。
え、何。ついに倒産でもするの?
失礼だとは感じるも、衝撃の事実に思わずそう思ってしまう。下条やジュリアは勿論、あの王子までポカーンとした表情をしていた。夜宵は事前に聞かされていたのだろうか、やっとかと言いたげに息を吐いている。
「え、それじゃあ明日からどうするんですか⁉︎ 私、何にも準備してないんですけど⁉︎」
「これからどうやって生きていけば……」
「……」
「おい戻ってこい! 腹黒王子!」
ジュリアと下条は頭を抱える。王子は放心状態になっており、口から魂が出かかっていた。多田はそんな王子の頬を思いっきり叩く。
室内が軽くパニック状態になりかけていると、課長が咳払いをした。
「人の話は最後まで聞けと習わんかったか?」
「すいません……」
多田を含めた四人が謝罪すると、課長が続きを話し始める。
「別に倒産するわけじゃない。ただ、大規模な人事異動が行われるだけだ」
「だけだってそんなあっさり……」
「ちなみに、何処へ異動するんですか?」
人事異動? こんな中途半端な時期に?
多田は首を傾げながらそう思う。普通、人事異動は年度初めに行われるはずで、年明けにするものではない。多田が疑問に思っているその一方で、下条が自分たちは何処に行くのかと課長に質問した。
「観光省だ」
「……はい?」
「え、なんで?」
課長の言葉に一同、首を傾げる。観光省というのは省庁の一つで、ここ妙魅ツアーズを含めた観光業の会社は観光省の下部組織なのだ。
一体どういう了見でこういう事態になったんだ? まあ、うちの会社がブラックだからだろうけど。
どんどん疑問が多田の頭に浮かんでくるが、詳しい事情は後日説明されるようで、その日はお開きとなった。
◇◆◇◆
「ってな感じで、唐突に異動になったんだよな」
「そうですね。まさかその異動の件に、多田さんのご友人が絡んでいたとは思いませんでした」
「そのことを課長の口から聞いたときは驚いたな。あの大東が官庁の職員だったなんて……。しかも、かなり権限持ってるタイプの」
多田がポロッとそう話すと、下条は目を見開いてこう言った。
「え、知らなかったんですか?」
「だって、何にも聞かされてなかったからな」
「な、なるほど」
後日、大東から何故俺たち企画課が観光省へ配属されることになったのか聞いてみると、「環境がブラックなせいで、優秀な人材が潰れていくのは可哀想だから」ということらしい。事実、企画課以外からも何名か観光省へ異動になっている人がいるそうだ。
まあ、昔っから正義感だけは人一倍強い大東ならやりそうだな。
多田は苦笑いを浮かべながら改めてそう思う。
「おーい、べらべら喋ってる暇があるんだったらさっさと出てくれないか? 鍵が閉められん」
夜宵は多田たちの後ろからやってくると、部屋の鍵を指先で回しながら注意してきた。
「あ、すいません」
「それじゃあ失礼します」
夜宵に軽く謝ると、多田と下条は足早に部屋から出ていく。前は無茶ぶりをしてきた夜宵も、ここに来てからは柔らかくなったようで、多田に蹴りが飛んでくることも少なくなった。大方仕事でのストレスが解消されたのだろう。
こりゃあ、大東には感謝しないとな。
多田は下条とビルの前で別れると、地下鉄に乗るために駅の方へと向かった。職場環境が改善された代わりに、観光省の場所が京都御所の近くにあるため、前よりも通勤の時間が長くなってしまったのだ。だが、それも約三年間、ブラック企業に勤めていた多田にとっては些細な問題だった。
電車に乗っている間、暇なのでスマホを弄っていると、またしても某国からミサイルが打ち上げられたという知らせが入ってくる。
最近多いな。今度は大阪かよ。……って近いじゃねーか!
多田は内心慌てながらも、情報を確認していく。どうやら、五分後に到達するそうだ。多田は冷や汗をかきながら、被害に合わないことを祈っていると、新たな情報が届いた。
すぐに確認してみると、ミサイルは突如として進路を変え、いつも通り日本海の方へと着弾するようだ。
こちらに飛んでこないことが分かると、多田は静かに息を吐いた。
あー、良かった。
そう安堵していると、いつの間にか下車する駅についていたようで、多田は慌てて鞄を持つと電車を降りるのだった。
◇◆◇◆
その後、キテレツ荘に着いた多田が玄関を開錠しようとポケットから鍵を取り出すと、大きな地震でも起きたのではないかと思うほどの大きな揺れに襲われた。
「な、なんだ? 地震か?」
多田は急いで鍵を差し込むと、中の様子を確認に入る。扉を開けてみると、ブレイカーが落ちたのか電気がつかなくなっていた。多田は急いでスマホの明かりをつけて、足元を照らしてみる。すると、辺りには衝撃でガラスが散乱しており、花瓶が割れているのを発見する。多田は足を怪我しないように土足で廊下を進んでいった。
リビングの扉を開けてみると、やけに物が散乱している。
地震怖すぎだろ……。
多田はそう思いながら、辺りを照らすと、見覚えのない大きな何かがリビングを占拠していた。
「ん? 何だこれ……」
多田がそう呟くと同時に何かが開く音がしたので、そちらの方を照らしてみる。すると、見覚えのある影が見えた多田は唖然とした表情を浮かべた。
「えへっ。また来ちゃった!」
「お前、何でいるんだよ……⁉︎ てか、毎度毎度墜落してくんな!」
そう。多田がライトを照らした先に居たのは、三か月前にルプネスに帰ったはずのちゅうじんだった。リビングの大半を占拠しているのはUFO。つまり、ちゅうじんはまたしても多田の家に墜落して来たようだ。前回来た時と同様、ちゅうじんはグレイ姿で宇宙服を身にまとっている。多田は地震じゃないと分かると、すぐにブレイカーを上げて、電気をつけた。
すると、ちゅうじんがつけていたヘルメットを外して話し出す。
「ごめんごめん。でも、今回は仲間と逸れたわけじゃなくて、偵察隊として正式な調査で来たんだ。ってことでまたよろしくな!」
「お、おう。じゃなくて、どうしてくれんだよ⁉︎ 俺の家がめちゃくちゃじゃねえか!」
「また直してやるからそんなに心配するなよ~」
「そういう問題じゃねえー‼︎」
そういうわけで、再び地球にやってきたちゅうじん。ちゅうじんが帰ってきたことで、多田の心労は減るどころか更に増えていくことになるのだった。
これにて『宇宙人が家にやってきた!』完結となります!ここまで読んでくださり本当にありがとうございました!と言っても、まだ連載開始してから二ヶ月経って無いんですけどね。最初はどうなることかと思いましたけど、無事完結できて良かったです。ですが、あくまでこの作品は前座であって、本番はこれからなのでまたどこかでお会いするかと思います。その時は暖かく見守っていただければなと思います。
読者の皆様、本当にありがとうございました!
いつか改稿してまた出すかもしれないし、別の形で多田たちの物語をお届けするかもしれないので、またその時はよろしくお願いします。
告知しておくと、次回作はこの作品と同じ世界観でやっていくのでお楽しみに!




