第64話 正月 (後編)
多田と別れたちゅうじんはベンジャミンと一緒に例の裏山へと向かった。
「ここに来るの久しぶりだな~。あ、そういや修理ってどこまで進んでるの?」
「後は、内装を最低限使えるところまで直したら終わりだな。多分今日中には終わるはずだぞ」
「おお、そうなんだね」
ちゅうじんはベンジャミンに進捗状況を伝えると、さっそくUFOの中へと入っていく。ベンジャミンの入ったキャリーケースをメインルームの中でも安全なところに置くと、ちゅうじんは部屋を出て、各設備を点検・修理し始めた。待っている間、ベンジャミンは暇なので、素直に眠りにつこうと、寝る体勢になる。
一方のちゅうじんは、工具箱を持って機内を歩いていく。ところどころ壊れている部分が見受けられるので、ぱぱっと直し始める。
UFOを操縦するのに必要なところ以外は、宇宙空間に入ってからいくらでも直せるのだ。今は帰還するのに必要なところを直せば問題ない。
ちゅうじんは四時間かけて機内を回っては修理して、また別の場所へ移動するを繰り返した。
「まあ、ざっとこんなもんだろ。多田には遅くなるって伝えたから、そろそろ戻って昼休憩にでもするか」
ちゅうじんは工具箱を戻しにメインルームへと向かう。
ベンジャミンは今頃爆睡してるんだろうな。
ベンジャミンの様子を想像しながら歩くこと数分。持っていたカードを専用の機械に翳して中に入ると、ベンジャミンらしき鳴き声が聞こえてきた。
何事かと思い、工具箱を適当な場所に置いてベンジャミンの傍に行くと、何やらザザーッと砂嵐のような音が近くから聞こえてくる。ちゅうじんはベンジャミンを落ち着かせてから、音のする方向に駆け寄った。
「ん? これって通信機か?」
砂嵐の音は、仲間とはぐれてから使い物にならなくなっていた通信機からしていた。じっとその様子を見つめるちゅうじん。数分間、メインルームが無音に包まれる。
すると、何やら通信機の方から声が聞こえてきた。
『聞……えてる、……K……01』
「……?」
通信環境が悪いのか、聞こえてくる声が低いからなのか、何を言っているか分からず、首を傾げるちゅうじん。
『聞こえるか? Kー001機体。聞こえてるなら応答しろ』
「あ、はい。聞こえてます」
『おー、やっと繋がった』
通信機から聞こえてきた声はちゅうじんの上司だった。ちゅうじんは通信相手が上司だと分かると、慌てて元のグレイの姿に戻る。ずっと、連絡のとれないちゅうじんを心配していたのだろうか、通信機から安堵の声が聞こえてきた。
『とにかく無事か?』
「はい、むしろ前よりもピンピンしてます」
『そ、そうか。そっちで何があったかは分からんが、みんな心配していたぞ』
上司から通信が繋がるまでの経緯を聞かされるちゅうじん。どうやらちゅうじんと逸れた仲間は一足先にルプネスに帰還しており、ちゅうじんが何処に飛ばされたのかずっと調べていたのだそう。そして、試しに通信機で連絡を取ってみたところ、こうして繋がったらしい。
『ちなみに今いる場所は何も危険はないんだな?』
「あ、はい。それはもうめちゃくちゃ平和です!」
『おお、そうか』
ちゅうじんが笑顔でそう返すと、上司は引き気味に返事をした。その後、ちゅうじんは自分の状況を軽く報告する。それを聞いた上司はこう言った。
「お前が満喫しているようで何よりだ」
「はい!」
「さて、話は変わるが、機体はもう直っているんだな?」
「最低限の修理は完了しています」
機体が直っていることを聞いた上司は、少し考えてから口を開いた。
「そうか。なら、仲間も心配していることだから、すぐに帰ってこい」
「……え? ちょ、ちょっと待ってください!」
「何か不都合でもあるのか?」
「ふ、不都合と言いますか……。一週間だけ待ってもらえませんか?」
ちゅうじんは突然、帰還しろと言われたことに驚きながらも、何とか猶予をくれと上司に向かって話す。
すると、上司はしばらく考えてから、一週間だけだからなと言い残し、通信を切った。ちゅうじんは通信が完全に切られたのを確認すると、深く溜息を吐く。
いや、そんな急に帰還しろとか言われても無理だぞ。色々しなきゃいけないこともあるし。何より多田にこのこと言わなきゃだし。
ちゅうじんは内心で愚痴りながらも、ひとまずは簡単に事情を話そうと、ベンジャミンの元へと向かった。
「どうだった?」
「一週間後にはここを発たなきゃ行けなくなった」
「え、それはかなり急だね。多田には言うの?」
「一応な。取り敢えずのんびりしちゃいられないから、帰るぞ」
「わ、分かった」
ちゅうじんは、すぐに帰る準備をし始める。突然のことに驚きを隠せないのはベンジャミンもなのか、いつにも増してしょんぼりしていた。
工具箱を戻して、忘れ物がないか確認をし終わると、ちゅうじんはキャリーケースを持ってUFOから出ていく。
帰ったら多田に何て伝えよう……。
ちゅうじんはぐるぐると考えながら、キテレツ荘への道を歩いていくのだった。




