第63話 正月 (前編)
どんちゃん騒ぎの大晦日から一夜明け、一月一日となった朝。昨夜甘野からもらったおせちを食べながら、テレビを見ていると初詣の様子が流れていた。朝からたくさんの人が近くの神社を訪れており、朝からよく行けるなと内心で思う多田。
すると、多田の目の前でおせちを頬張っていたちゅうじんが口を開く。
「初詣って自分たちの場合はどこに行くんだ?」
「確か伏瀬大社だったような気がするな。年始めは毎年なんやかんや忙しいから行けてないことが多いんだが……。それにうちからじゃ遠いからな」
「えー、一回ぐらい行ってみたいぞ」
「そう言われてもな……」
遠いし、寒いし、人いっぱいだろうし、どうせ先輩もいるだろうから行きたくないんだが……。
多田は意地でも行きたくないようで、行きたいと言っているちゅうじんを嫌そうに見つめる。ひとまず、目の前のおせちを片付けてからでないと、話は進まないので黙々と食べ進めていく。
三十分ほどかけて食べ終わり、多田が洗い物をしていると、チャイムが鳴った。
誰だよこんな年初めから……。って一人しかいないか。
多田は洗い物の手を止めると、やれやれといった感じで玄関の方へと向かう。
「はいはい。初詣なら行きませんよ~」
「やあ、明けましておめでとう多田君。さっそくで悪いんだけど、初詣行かないかい?」
「明けましておめでとうございます。行くつもりないので、さっさと帰りやがれください」
大家が新年の挨拶と共に、初詣のお誘いをしてきた。予想のついていた多田は青筋を浮かべながら、笑顔で断りの返事をすると共に、玄関の扉を閉めにかかる。いつかのようにまたしても玄関口で攻防が始まった。
ちゅうじんとベンジャミンは何やら騒がしいなとこっちにやってくると、大の大人二人して何やってんだと言いたげな表情を浮かべる。
「そんなに行きたいなら一人でどうぞ」
「いや~、みんなで行くから楽しいんでしょうが」
「何の話だ?」
「何でもないから早く戻れ」
大家と多田の二人が何の話をしているのか気になったちゅうじんは、そう口にする。しかし、ちゅうじんに知られたら絶対に行きたいと言うにきまっているので、多田は早くリビングの方へ戻るように促す。
その様子をベンジャミンは、マジで何やってんのと呆れていた。
「あ、うーさん。初詣に興味ないかい?」
「え、初詣⁉ もしかして行けるのか?」
すかさず大家がそう話すと、ちゅうじんは見事食いついてきた。またこの展開かよと思いながらも、多田は大家に向かってこう言う。
「おいこら、面倒なことになるから言わないでくださいよ」
「うん! 今、多田君に一緒に行こうって言ってるんだけど、聞いてくれなくてね。うーさんからも言ってやってよ」
「大家さんがせっかく誘ってくれてるんだぞ。断るのかよ」
「うっ……」
多田が止めるも、大家は多田の言葉を無視して話し始めた。ちゅうじんは大家に言われた通り、多田の方を向くと、そう言い出す。
それが仕事だったら断るわけには行かないけど、今は違うだろ。でも、こうなったら意地でも連れていかれそうだしな……。
多田はため息を吐くと、諦めたように大家の誘いに乗ることを伝えた。それを聞いたちゅうじんと大家はハイタッチをして喜んでいる。その様子を苦笑いしながら見ていると、再び口を開いた。
「但し、さっさとやること済ませたら即帰るからな」
「了解だぞ」
「君、どんだけインドアなのさ」
「うるさいですね。逆に大家さんほど、アウトドアな人ってあんまりいませんよ」
多田は大家に向かってそう言うと、出かける準備を始めた。ちゅうじんがせっかくだからベンジャミンも一緒に連れていくと言うので、多田は早くしろと声をかける。
そうして準備をすること三十分。多田たちが家から出てくると、大家と共に伏瀬大社へと向かった。
現地に到着すると、既に多くの人が初詣に訪れており、境内へ続く道が混んでいるのが分かる。
「人いっぱいだね~」
「そりゃそうでしょうよ。年明け早々に来るんだから」
「おお、屋台が並んでるぞ!」
ちゅうじんの指さす方向には、屋台がズラリと並んでいた。ちゅうじんが凄く寄りたそうにしている。多田は呆れながら、本来の目的をちゅうじんに改めて言った。
「はいはい。まずはお参りしてからな。てか、すぐ帰るから今日は寄らないぞ」
「えー、ケチ」
「相変わらず仲良いよね、君たち」
「どう見ても仲悪いでしょうが」
三人は雑談をしながら、境内へと続く階段を上っていく。拝殿の方に到着すると、お参りする人で長い列ができていた。三人は最後尾の列に並ぶと、話を再開させる。
「そういえば、大家さんって管理人の他に何か仕事してたりするのか?」
「あ、確かに」
ちゅうじんがそう訊くと、大家は少し間を置いてから応え始めた。
「んー、キテレツ荘の管理だけじゃ食べていけないからね。詳しいことはあんまり言えないけど、公務員だったりしなくもない」
「どっちだよ」
大家の曖昧な返答に思わずツッコミを入れる多田。だが、大家の言う通り、管理人の仕事だけでは食べていくのは厳しい。
けど、公務員って副業できたっけな……。基本的には無理だったはずだけど……。てか、あの自由人な大家さんに公務員なんて務まるのか?
多田がぐるぐると頭の中で考えていると、大家が肩を叩いてきた。
「? どうしました?」
「どうしたって、ほら前」
「え、あー、すいません」
大家が多田の前を指さすと、もう多田の順番が回ってきていた。ちゅうじんはもう終えたようで、隅の方で待っている。自分もさっさと済ませようと拝殿の方へと向かった。
「お待たせ」
「お、来たか」
「よし。それじゃあお参りもしたところで、僕はこの辺で失礼するよ。少し用事ができちゃったからね」
「あ、分かりました」
大家が申し訳なさそうな顔をしてそう言うと、多田は帰ろうと鳥居の方へと足を進める。すると、忙しそうに店番をしている夜宵と朝姫を発見した。
面倒なことになりそうだから、絶対寄りたくないんだけどな……。
多田が社務所の方をスルーして来た道を戻ろうとするが、案の定、ちゅうじんが夜宵たちを見つけてしまい、社務所の方へと走っていく。
多田は本日何回目かも分からない溜息を吐くと、大家と一旦別れてからちゅうじんの方へと向かった。
「明けましておめでとう! 夜宵、朝姫」
「あら、久しぶりねうーさん。明けましておめでとうございます」
「うーさんか。ってことは、もしかしなくても多田も居るってことだよな。げっ、やっぱりいた」
夜宵がそう予想していると、後からやってきた多田が挨拶をしてきた。
「明けましておめでとうございます先輩。げっ、って何ですか。新年早々失礼すぎません?」
まあ、こっちも新年早々、会社の人間と顔合わせるのは嫌なんだけどな。
口に出したらかなりの確率でしばかれるので、内心で毒をつく。すると、夜宵が面倒くさそうな表情をしてこう言った。
「仕方ないだろ。今日は朝から会社の同僚とか後輩に会ってんだから。その度に営業スマイルで返さなきゃならんこっちの身にもなれ」
ってことは、俺の前に下条たちも来たってことか。遭遇しなくて良かった。年明け早々更に面倒なやつらには会いたくないしな。
「の割に、俺に対しては普段通りですけど……」
「まあ、お前だしな。んで、何しに来たんだよ。用がないならさっさとそこ退いてくれ。他の参拝者の邪魔だ」
夜宵がしっしと手を振ると、多田は隣にいるちゅうじんに、特に用が無いなら帰るぞ、と声をかける。すると、ちゅうじんが朝姫から聞いたのか、おみくじを引きたいと言ってきた。
「それじゃあさっさと済ませるぞ」
「やったー!」
多田とちゅうじんはさっそくおみくじを一枚引いてみる。多田は今回こそはマシなのが当たりますようにと祈りながら、紙を開いていく。
「え、中吉⁉」
「おお! 前よりは良くなってるじゃないか! まあ、ボクは大吉だけどな」
「なんでお前はそんなに強運なんだよ……」
でも、生まれてこの方中吉なんて初めてだな。今までは良くて末吉だったけど。そうなると、俺って結構不運な方なのか?
多田は人生で初めて出た中吉に内心喜ぶ。詳しく内容を見てみると、『来年度までは注意されたし。その後は徐々に今までの行いが報われるだろう』と書かれていた。
その結果を見た多田は、ちゅうじんと一緒に指定された場所に行って、おみくじを木に結び付ける。
「よし。それじゃあ帰るか」
「あ、ちょっと寄りたいところがあるから先行っててくれ」
「ん? 分かった。あんまり遅くなるなよ」
「はーい」
多田はちゅうじんと別れると、そのままキテレツ荘へ帰るために駅へと向かうのだった。




