第61話 大晦日 (前編)
やっぱり正月休みって最高だよな。ほぼ年中無休で働いてたから久々にゆっくりできるし。
多田はそんなことを考えながら、一昨日から始まった正月休みを満喫していた。今はいつもちゅうじんが占領しているソファに寝転びながら、去年の年末に買った漫画を読み更けている。リビングのテーブルの方から若干視線を感じるのはきっと気のせいだ。
「おい、いつになったら退くんだよ」
自分の定位置を取られて悔しいのか、ちゅうじんがジト目でそう言ってきた。多田は漫画から目を離すことなくこう応える。
「元はといえば、俺が買ってきたソファなんだけどな。今日ぐらいは我慢しろ」
「ケチ」
「自分の部屋があるんだから、そっちに行けば良いだろうが」
「そんなこと言ったって、ボクの部屋にテレビないし」
多田が正論で返すと、ちゅうじんが屁理屈をこね始めた。多田はまた始まったと呆れながらも、退いてやる気はないと再び返す。
ちゅうじんはこれ以上言っても無駄だと諦めたのか、リモコンを手に持つとテレビをつけた。
テレビから流れてきたのは、おせち料理の特集だった。ちゅうじんは興味津々のようで、食い入るようにテレビを見つめている。すると、音が気になったのかベンジャミンがちゅうじんの元へと寄ってきて、一緒にテレビを見始めた。
しばらくして、特集が終わったのかちゅうじんがこちらを向いて言ってきた。
「大晦日とお正月ってテレビで何回も言ってたけど、どういう意味なんだ?」
「ん? 大晦日は年末。つまり今日のことで、お正月っていうのは明日の年始めのことだ」
「な、なるほど」
「スマホがあるんだし、それで調べようよ」
ベンジャミンがそうちゅうじんに話しかけると、さっそくスマホヲ取り出して調べ始めた。多田はこれ以上説明しなくても良くなったので、再び漫画の方に視線を戻そうとすると、チャイムが鳴った。
誰かは知らんけど、年末に何の用ですかね~。
漫画の続きを邪魔された多田は、内心イラつきながらもリビングを出て、玄関の方へと向かう。
「あ、どうも久しぶりだね。多田君」
「ご無沙汰してます!」
「あら、どうも」
「お久しぶりですね」
「あ、うーさんだ」
扉を開けると、順番に大家と甘野、みやびに恵美、そして武尊が居た。キテレツ荘の住人が勢ぞろいしているので、何事かと思う多田。玄関の方にたくさんの人の気配を感じたのか、ちゅうじんとベンジャミンもリビングの方からやってきた。
「おー! みんな久しぶりだな!」
「え、こんな昼間から皆さん何の用です?」
「え、うーさんは知らないから良いとして。多田君忘れたの? まだ若いのに老化進んでるんじゃない?」
「うるさいなクソ大家。あー、もしかしていつものアレですね?」
「そうそう」
ちゅうじんが久しぶりにみんなに会えたことではしゃいでいる隣で、大家と多田が会話を繰り広げる。傍ではしゃいでいたちゅうじんはアレという単語を耳にしてはてなを浮かべていた。
「アレってなんだ?」
「んー、まあ来てみれば分かるから、ささっと必要なものだけ持って降りてきて~。あ、ベンジャミンは掃除が終わってからなら連れてきて良いよ」
「ほら、早く準備しろ」
「? 分かったぞ」
大家がそう言うと、みんな階段を下りていった。ちゅうじんは訳もわからず、最低限必要なものを取りにリビングへと戻る。
多田も同じくリビングへと戻ると、読みかけの漫画を仕舞いに自室へと向かうのだった。
◇◆◇◆
そんなこんなで準備すること十分。多田とちゅうじんは言われた通りに、最低限のものを持って家を出ると、大家たちが待っている方へと急ぐ。
「お待たせしました」
「よし、それじゃあ全員揃ったところで例の場所に行こうか」
「今年も大量に買い込んできましたからね!」
「今年は一人増えるから多めに買ってきたわよ」
大家がそう言うと、空き部屋である一〇三号室の前に移動した。多田たちの前を歩く甘野と恵美は、何やら両手いっぱいに買い物袋を持っている。ちゅうじんはこの一〇三号室に何かあるのだろうか、と不思議そうな表情を浮かべた。
大家がポケットから鍵を取り出して扉を開けると、みんな中へと入っていく。続いてちゅうじんも中に入るが、これと言って変わったところはなく、普通の構造をしている。ここが何のための部屋なのか分からないまま進んでいくと、甘野とみやびが持っていた袋を台所の空いているスペースに降ろした。
「それじゃあ、ここの掃除しましょうか」
「そうですね」
甘野が他のみんなに向かってそう言うと、部屋の掃除をするために各自動いていく。しかし、どういう状況かいまいち分かっていないちゅうじんはオロオロしている。そんなちゅうじんに向かって大家が説明し始めた。
「毎年大晦日になると、この空き部屋を使ってキテレツ荘のみんなで忘年会をするんだよ。年越しそば食べたり、特番見たりして。んで、今はそれをやるために一年間使ってなかった部屋をみんなで手分けして掃除してるんだ」
「あー、そういうことだったのか」
「と、いうわけでうーさんも手伝ってね~」
大家にそう言われて渡されたのは、モップだ。これで床を綺麗にしろということなのだろう。一年間使われていない部屋はさっと見ただけで埃が溜まっているのが分かる。ちゅうじんは大家に言われた通り、各部屋の床を掃除していくのだった。




