第60話 妹とショッピング (後編)
フードコートへと着いたちゅうじんと亜莉朱は四人掛けテーブルの席を取ると、買ったものを入れた袋を椅子に置いた。
「ふう~、疲れた」
「亜莉朱のおかげで良いものが買えたぞ」
「えへへ、どういたしまして!」
ちゅうじんは、先ほどの洋服の店で買った袋をちらっと見てからお礼を言う。亜莉朱は嬉しそうな表情を浮かべながら返事をしてから席に座る。ちゅうじんもそれに合わせて着席すると、周囲を見回してこう言った。
「そういえば、やけに白髭のおじさんのグッズを見かけるんだけど、何かあるのか?」
「白髭のおじさんって」
亜莉朱はちゅうじんの発言が可笑しかったのか思わず笑ってしまう。ちゅうじんは何か可笑しなことを言ったのかと首を傾げた。亜莉朱は気を取り直して、白髭のおじさんについて話し始める。
「あれはサンタクロースって言って、クリスマスにプレゼントをくれる人なんよ」
「クリスマスって最近テレビとかでよく聞くけど、何なんだ?」
テレビをつけるとどこもかしこもクリスマスという謎の単語を言っているので、ちゅうじんはその度にはてなを浮かべていた。その意味を亜莉朱に訊くと、彼女は少し考えてからこう言った。
「あー、えっとな。クリスマスっていうのは、年に一回白髭のおじさんが良い子にしてた子らにプレゼントを渡しに来るんよ。それで、その日にはケーキ食べたり、チキン食べたりしたりすんねん。まあ、元々クリスマスって言うんは偉い人の降誕祭らしいんやけど、詳しいことはまたネットとかで調べたら出てくるんとちゃう?」
「偉い人が何なのか気になるな。また調べてみるぞ」
亜莉朱から説明を受けたちゅうじんは、そう応えるとスマホのメモにクリスマスの由来と打ち込む。家に帰ったら調べるつもりなのだろう。亜莉朱はちゅうじんがメモし終わるのを待つと、話しかけてきた。
「なあなあ、そろそろお腹空かへん?」
「そういえば、もう十五時だな。軽く何か食べるか」
ちゅうじんが腕時計を見ながらそう言うと、亜莉朱が一つ提案してくる。
「せやったら、サーティー〇ンのアイス食べへん? 今、期間限定のアイスクリームが売られてるんよ」
「え、冬にアイスって寒くないか?」
「確かにそうやけど、案外冬場のアイスも美味しいで。うーさんも食べようや」
「んー、亜莉朱がそう言うなら食べてみるぞ」
何を食べるか決まったところで、さっそく買いに行こうとちゅうじんと亜莉朱は席を立つ。しかし、亜莉朱はちゅうじんにここで待っておいてと言い出した。その理由が分からないちゅうじんは首を傾げて問う。
「二人とも買いに行ったら、席取られるかもしれへんやろ? それに食べたい言い出したんは私やから、うーさんの分も買ってきてあげるで。お金は後で頂くけどな」
「そういうことか。ならここで待っておくぞ」
「それじゃあよろしくな~」
亜莉朱はちゅうじんに荷物番を任せると、アイスクリームを買いに行く。その間ちゅうじんは言われたとおりに、亜莉朱の荷物を見張りながら、周囲を見回していた。
フードコートって初めて利用するけど、色んな年代の人が利用してるんだな。今度ルプネスに帰ったら上に報告しなきゃいけないから、ここのことも追加しておこう。
帰還するのがいつになるかは分からないが、デバイスのデータを上司に渡さなければならないので、ちゅうじんはきちんと記録されてるかの確認を、またしなければならないなと頭の隅で考える。
そう周囲を観察していると、亜莉朱が二人分のカップを持ってこちらに戻ってきた。
「お待たせ~。かなり混んでたから遅くなったわ」
「それだけ人気があるんだな」
「そりゃ全国展開してるからな。それじゃあ食べよか」
亜莉朱はテーブルにカップを置いてから席に着く。亜莉朱が席に着くのを見届けてから、ちゅうじんは目の前のアイスに手を付け始めた。
チョコレートにイチゴのアイスが混ざったもので、てっぺんには星がついている。買ったときについてくるスプーンで掬って食べてみると、口の中でチョコとイチゴの味が広がった。
ちゅうじんはアイスの冷たさに思わず身震いする。それを見ていた亜莉朱がクスリと笑ってこう言った。
「どう? 美味しいやろ?」
「確かに美味しいな。でも、食べてたらだんだん寒くなってくるぞ……」
「あはは。まあ、この季節に食べるとそうなるよな」
亜莉朱はそう言いながらアイスを口に運んでいく。時折喋りながら食べていくこと十分。二人とも完食し終わったころには、ぶるぶる震えていた。
「あ゛ー、寒っ!」
「冬場にアイスなんて食べたら風邪引くぞ」
「流石にそれは言い過ぎ。よし、食べ終わったことやし、本屋でも行く?」
「そうだな。本屋は何処にあるんだ?」
ちゅうじんが身体を震わせながらそう訊くと、少し考えてから亜莉朱が口を開いた。
「確か一回外に出て、渡り廊下歩かなあかんかったと思う」
「ってことは今よりも寒くなるのか」
「そうやね。まあ中に入ったら暖かいやろうから、それまでの我慢やな」
「お、おう」
亜莉朱とちゅうじんは席を立つと、カップをごみ箱の中に捨てて本屋の方へと向かった。外に出てみると、冷たい風がちゅうじんたちを襲う。寒い寒いと二人が言いながら、中に入ると本屋さんが見えた。
二人が一時間半かけて各自好きな本や漫画を買うと、外は真っ暗になっていた。ちゅうじんと亜莉朱はショッピングモールから出ると、駅の方に向かって歩き出す。
すると、昼間通ったときとは何かが違うということにちゅうじんは気づく。ちゅうじんは隣を歩いている亜莉朱の肩を叩いた。
「ん? どしたん?」
「あのキラキラ光ってるやつって何なんだ?」
「あー、イルミネーションのことか」
「イルミネーション?」
ちゅうじんはまたしても知らない単語が亜莉朱の口から出てきたため、首を傾げる。
亜莉朱はちゅうじんの様子に気づくと、付け加えてこう言った。
「冬場によく街路樹とかに電球が取り付けられるんよ。んで、夜になったら一斉に光出すんやけど、それがまた綺麗でな~。ここら辺で言ったら、ロームのイルミネーションがめっちゃ綺麗なんやで」
「へえ~! それは見てみたいな」
「機会があったら行ってみると良いで。マジで圧倒されるから」
亜莉朱は目を輝かせながらそう語る。ちゅうじんはそんなに凄いのかと内心思いながら、ちらほら光っている木々を見た。すると、先日行った京都タワーが視界に入る。
「あ、京都タワーも光ってるぞ」
「あれはライトアップやな。そういや、夜の京都タワーは行ったことないんよね」
「そうなのか」
「まあ、夜遅くに出歩いたら怒られるしな。今度、親誘って行ってみよ」
ちゅうじんは亜莉朱の話を聞きながら、清水寺もライトアップされていたことを思い出す。
いつか夜の京都市内も回ってみたいな。
ちゅうじんがそう思っていると、いつの間にか駅に着いたようだ。亜莉朱と改札前で別れると、ちゅうじんはそのまま電車に乗るためにホームへと向かうのだった。
◇◆◇◆
キテレツ荘へと帰ってきたちゅうじんは、良い子に寝ていればサンタさんがやってくるかもと亜莉朱が言っていたことを思い出す。ベンジャミンが早めに自室へと戻っていくちゅうじんを見て首を傾げる中、珍しくベッドに潜って眠り始めるちゅうじん。
そして翌朝、目を開けるとちゅうじんの枕元にはプレゼントの包みが置いてあった。
「おお! 本当にサンタさんが来たんだな」
プレゼントの包みを開けると、欲しかったゲーム機が中に入っていたので、朝から大喜びするちゅうじん。
一方で、仕事に出かける準備をしていた多田の元にベンジャミンがやってきた。
「もしかして、ちゅうじんのために買ってあげたの?」
「え? いや、仕事で忙しすぎてクリスマスプレゼントの存在忘れてたし、昨日はちゅうじんの部屋にすら入ってないぞ?」
ベンジャミンにそう訊かれるも、多田は知らないと応える。しかし、ベンジャミンは多田が恥ずかしがって誤魔化していると思っているのか、再度訊いてきた。
「嘘だぁ~、ホントはこっそり買ってきたんじゃないの?」
「いや、ホントに知らないんだって! マジで!」
「え、じゃあ誰がプレゼント置いたのさ」
「え、誰だよ」
多田は知らないの一点張りで、リビングには沈黙が流れる。多田が置いてないのであれば、一体誰が置いたというのだろうか。多田とベンジャミンの背筋がヒヤッとしている中、ちゅうじんがニコニコした表情でリビングに入ってきた。
「二人とも、黙ってどうしたんだ?」
「い、いや……何でもない」
「うんうん。ほら早く仕事行く準備しなよ」
「分かってるよ」
ベンジャミンと多田の様子が少しおかしいことに気づいたちゅうじんは、首を傾げるのだった。




