第58話 ハロウィン文化祭(後編)
「ここやな。メニューはそこに置いてあるのを取ってもらったらええよ。それじゃあ、何にするか決まったら呼び鈴押してな」
「分かったぞ」
「はいはい」
「それじゃあ」
亜莉朱に席へ案内されると、亜莉朱から一通り説明を受ける。説明が終わると、亜莉朱は一礼してから奥の方へと消えていった。亜莉朱が奥に行ったところで、多田は盛大に溜息を吐く。
「どうかしたか?」
「いや、何でもない。それよりさっさとメニュー選ぶぞ」
「おう!」
多田はテーブルに置いてあるメニューを開くと、何があるのか見始めた。定番のオムライスやナポリタンを始め、さまざまな料理があり、中にはスペシャルメニューまでもが存在するらしい。
さて、できるだけ量の少ないものが良いんだよな。えーっと、ドリンクとケーキでも頼むか。
早くここから出たいという思いが強いようで、手軽に食べられるものを選ぶ多田。何を頼むか決め終わったところで、ちゅうじんの方を見る。
「よし。ちゅうじんは何にするか決まったか?」
「決まったぞ!」
ちゅうじんから返答をもらうと、多田は呼び鈴を押した。すると、すぐに亜莉朱がやってきて、注文の品を聞き取り始める。多田は亜莉朱に先ほど決めたものを言う。
「はい。お兄は二品ね。うーさんは?」
「えーっと、オムライスにサンドイッチ、ミートパスタに――」
「ちょっと待て、どんだけ頼むつもりだよ」
これでもかというほどたくさんの量を注文するちゅうじんに、ストップをかける多田。だが、ちゅうじんは多田の心情など知る由もないので、どうしてかと訊き返す。
「え? 別にいいじゃないか。お金はちゃんと持ってきてるんだし」
「いや、そういう問題じゃなくてだな」
「うーさん、どれだけ頼んでも良いんよ? その分うちのクラスの売り上げが増えるし」
「やましいなおい」
多田が止めようとする一方で、亜莉朱がぐいっとちゅうじんの方に顔を近づけてそう話す。売り上げ一位を取れば、文化祭の食品模擬部門で優勝できることを思い出す多田。
そういえば、亜莉朱は昔からお金に目がなかったし、負けず嫌いだったよな。
妹の性格に呆れていると、注文が終わったのか亜莉朱は再び奥へと戻っていった。その様子を目で追っていると、何やら周囲のテーブルが騒がしいことに気づく。
「あの席の接客担当の子、可愛いよな~」
「金髪蒼眼で、関西弁ってのも最高かよ」
どうやら亜莉朱のことを話しているようだ。
まあ、あれだけ見たらそう思うよな。けど、家じゃよく罵詈雑言が飛んでくるし、口は悪いわ勝手だわ色々と大変なんだよ。
多田は家での亜莉朱の言動を思い浮かべる。何かあれば多田に向かって文句を言い、気に食わないことがあれば、蹴りが飛んでくるのだ。流石に学校では猫をかぶっているのか、そんな様子は一切見られない。接客中ということもあるのだろう。
そう考えていると、もう出来上がったのか亜莉朱が料理を運んでやってきた。
「はい、お待ちどうさま」
「おお~! 美味そうだな」
「結構本格的じゃないか」
目の前に並べられた料理を見て、思わず呟く多田。ちゅうじんも目を輝かせている。オムライスからケーキに至るまで、どれもお店に並んでいてもおかしくないぐらいにはクオリティが高い。
多田の言葉を聞いた亜莉朱は、自慢げに話し始めた。
「まあ、うちのシェフは料理の大会で金賞取ったことあるらしいからな」
「え、凄っ」
「やろ? うちも試食してんけど、めっちゃ美味しかったで」
亜莉朱は嬉々として料理の感想を語ると、思い出したかのように二枚の小さい紙を渡してきた。
「あ、せやせや。はいこれ」
「これは?」
「実はクラス内で、誰が一番いい接客してたか集計取ってんねん」
「なるほどな」
「後、十五時半から生徒会企画のコスプレコンテストがあるから、それも良かったら見てってな」
「あー、あれな」
多田は在学中にもそのようなコンテストがあったことを思い出す。
確かその時の生徒会長のコスプレ姿がイケメンだとか何とかで、女子から黄色い悲鳴が上がってたような……。
懐かしいなと思いながら、多田はケーキを食べ進めていく。
「え、美味っ!」
「このオムライスふわふわで美味しいぞ」
「こんなことなら、レストランで食べてこなきゃよかったな」
京都駅のレストランで、かなり食べていたことを後悔する。ちゅうじんはいつの間にか注文した量の三分の二を食べきっており、ホントよく食べるやつだと思う多田。
十五分ほどで食べ終わると、テーブルに置いてあったボールペンで紙に必要事項を記入していく。会計終わりにその紙を投票箱に入れると、多田とちゅうじんは教室を後にした。
◇◆◇◆
「あー、楽しかった」
「もうこんな時間か」
その後、多田とちゅうじんは舞台発表やコンテストを見て回り、あっという間に十七時になっていた。実家に帰った二人は夕ご飯を食べ終わると、キテレツ荘に帰る準備をし始める。
「もう出れるか?」
「ばっちりだぞ」
「よし。それじゃあ帰るか」
多田とちゅうじんは荷物を持って玄関を出る。多田が明日からまた地獄の日々が始まるのかと嘆いていると、多田の両親と妹も見送りのために玄関を出てきた。
「またいつでも来ていいからな」
「待ってるわよ」
「あ、そうや。うーさん、良かったらLEIN交換せーへん?」
「勿論だぞ!」
ちゅうじんはメッセージアプリであるLEINの画面を開けると、QRコードを表示する。すると、亜莉朱はスマホのカメラでそれを読み取った。
「よし、これでいつでも連絡できるな」
「そうだな!」
「それじゃあまたな~」
「おー、いつ来るか分からんがまたな」
「また会おうな!」
多田とちゅうじんは三人に別れを告げると、キテレツ荘へと帰るのだった。




