第57話 ハロウィン文化祭 (中編)
「おお~、文化祭ってすげー!」
ご飯を食べ終えた二人は、亜莉朱のいる高校へとやって来ていた。十三時を回っているので、すでに多くの来場者がここを訪れている。ちゅうじんは目の前のデコレーションされたアーチを目にして、テンションが上がっていた。
「まだ入ってすらないんだが」
多田は呆れながら、隣ではしゃいでいるちゅうじんに対してそう言う。
「あー、そうだった。早く中に入るぞ!」
「はいはい」
多田はちゅうじんのテンションの上がりように顔を引き攣らせながら、アーチを潜った。亜莉朱のシフトは十四時かららしいので、暇をつぶすために校内をさらっと見て回ることに。中に入ると、凝った装飾でいっぱいで、ちゅうじんの表情がニパァッと緩んだ。
「学生って凄い!」
「そ、そうだな」
ちゅうじんの言葉に引き気味に返事をする。
大体どこの文化祭もこんなもんじゃないのか。唯一違うとすれば、やっぱりコスプレだよな。
周囲を見回すと、どこもかしこもコスプレをした生徒たちでいっぱいだった。これは他校にはない特色で、多田が在籍中に聞いた話だと、この文化祭はハロウィンイベントも兼ねているらしい。もっと他にも理由はあったような気はするが、なんせここを卒業したのがかれこれ七年も前の話なので、思い出せない。
多田は思考を止めると、装飾に目を光らせているちゅうじんに声をかけた。
「んで、どこ回るんだ?」
「そうだな……」
多田に訊かれたちゅうじんは、バックの中から先ほど受付で貰ったパンフレットを取り出すと、ページをペラペラ捲り始めた。
「この脱出ゲームが気になるぞ」
「なら二階の新校舎だな」
「おう!」
多田とちゅうじんはさっそく目的の場所である新校舎へと向かう。
新校舎なんて俺が居たときにはなかったんだよな……。確か亜莉朱が入学した年にできたんだっけか。にしても、相変わらず絵上手いな。我が妹よ。
パンフレットの表紙のイラストを見ながら、しみじみとした気持ちを覚える。多田に絵の才能はないので、こりゃ妹の方に全部持ってかれたな、と悔やむ多田。
パンフレットに載っている地図を見ながら歩いていると、やけに綺麗な校舎が見えた。恐らくここが新校舎なのだろう。渡り廊下の突き当りに脱出ゲームと書かれた看板が見えるので、ここで間違いないようだ。かなりの列ができているので、やはり人気なのだろう。
これ、シフトの時間に間に合うのか。
多田は時計を確認しながら列に並ぶ。ちゅうじんは今か今かのその時を待っており、そわそわしている。
「なんか脱出ゲームの部屋暗くないか?」
「え、あー、言われてみれば確かに」
ん? ってことはもしかして……。
多田は嫌な予感を覚えた。改めて見てみると、何やら怪しげな雰囲気がゲーム会場である教室から漂っている。
「脱出ゲームは脱出ゲームでも、ホラーよりのやつじゃないか……」
「おお! ホラーなのか! 良いよな~、ホラーって」
「嘘だろ……。ちゅうじんってホラーいける口なのかよ」
多田はちゅうじんがホラー好きと知って思わず、声を漏らしてしまう。
「え? 多田はそういうの苦手なのか?」
「い、いや。そんなに怖くないやつなら大丈夫」
「なら良かったぞ」
多田のホラー嫌いは幼稚園の頃からで、幼稚園の夏祭りでお化け屋敷に行った際、追いかけられるパターンの脅かし方をされて以来、若干のトラウマと化しているのだ。
まあ、所詮は学生の作ったやつだから、ガチのお化け屋敷よりはマシだよな。
時折悲鳴が聞こえてくるのは気のせいだと、多田は暗示をかけながら順番が来るのを待つ。
二十分ほどしたところで、前の人が中から出てきたので、血だらけの看護師の格好をした女子生徒からルールの説明を受ける。
ゲーム内容としてはよくあるもので、中で出されたクイズに正解して鍵の番号をゲットしていき、最後に、鍵のかかった箱を開けるために番号を入力していく形式だ。
説明を受けた多田とちゅうじんはさっそく中に入る。
「何にも見えないぞ」
「あはは……。怖くない怖くない」
中は暗幕が貼られているため、受付でもらった懐中電灯で照らしながら進んでいく。多田は暗示をかけながらちゅうじんの後ろを歩いていくのだった。
◇◆◇◆
「はああ……怖かった」
「最後の最後で、多田が叫びながら出ていくから面白かったぞ」
「おい」
無事に脱出できたようで、ちゅうじんの手には景品のジャックオランタンのキーホルダーが握られている。多田は外の空気を吸ってから、時間を見た。
「あ、もうちょっとで十四時だな」
「亜莉朱の教室って何階なんだ?」
「確かこの上だったはずだ」
多田とちゅうじんは亜莉朱の教室の位置を確認すると、足早に教室へと向かう。三階に着き、チラリと教室の中を覗いてみると、中には結構な量のお客さんが入っていた。
確か、亜莉朱のクラスは喫茶店だったよな。定番ちゃ定番だけど、やっぱりこういうのって人気だよな。
多田は室内の盛況ぶりに微かに目を見開く。ちゅうじんもその人気ぶりに口角を上げている。受付の人に軽く説明を受けてから、中へと入っていく二人。システムとしては、ひとテーブルごとに接客担当が一人つくらしい。
どうか、妹にだけは当たりませんように。
多田は気まずさからそうならないように心の中で祈る。一方のちゅうじんは落ち着きがないのか、教室内をキョロキョロ見回して様子を見ている。
すると、接客担当の一人がこちらにやってきた。どうやら接客の人は金髪蒼眼女子らしい。衣装は喫茶店らしくメイド服のようだ。接客担当の子は高めの声で、挨拶をし始める。
「どうも、本日接客を担当する――ってお兄かい」
「え、もしかして亜莉朱か?」
「え、そうなのか? 全然そうは見えないぞ」
目の前に立っている女性の反応を見る限り、接客係は亜莉朱らしい。接客する客が兄だと分かった瞬間、声色を元に戻してジト目でこちらを見てくる。
声色で何となく察した多田は驚きの声を漏らす。ちゅうじんも目の前にいるのが亜莉朱だとは思ってなかったようで、目を見開いた。
「うーさん、今日は来てくれてありがとうな」
「どういたしましてだぞ」
亜莉朱は隣のちゅうじんにそう言いながら、嬉しそうに目を細める。
なんか俺にだけ冷たくない? どんだけ嫌われてるんだよ……。
多田が一人悲しんでいると、亜莉朱が口を開いた。
「まあ、コスプレしてるしな。どう? 似合ってる?」
「めちゃくちゃ可愛いぞ!」
「えへへ、ありがと! ずっとここにいるのも迷惑やし、席に案内するわな」
亜莉朱はちゅうじんに褒められて嬉しそうに頬を緩める。一方の多田は、心の中で現実逃避をしていた。
なんとなーくこうなることは予想してたけど、妹に接客されるとか気まず過ぎるだろ。一刻も早くここから出たい。
多田はそう思いながら亜莉朱の後をついていくのだった。




