第50話 実家にいらっしゃい (後編)
家を出てから十分後。無事に駅へと着いた多田とちゅうじんは駅の改札を通るために、券売機で切符を買っていた。
「えっと、多田の実家ってどこら辺にあるんだ?」
「簡単に言うと、京都市内にある。今日は会社とは逆方面の電車に乗るからな」
「へえ〜! 京都市ってあれだよな? 葵祭で行った時の」
「ああ。それで間違いない。けど、実家があるのは東山区ってところで、前に行った京都御所からは離れたところにあるんだ」
多田が実家の位置を説明すると、ちゅうじんは興味深そうに「なるほど」(★「~になる程」とも読めるので括ったほうが良いかと)と言った。そう話している間にも、前の人が切符を買い終えたようで、多田たちの番が来る。
前回は切符を買うのに戸惑っていたちゅうじんも、今回はスムーズに買えたようで、やったー! と喜びの表情を見せていた。それを隣で見ていた多田は、そんな切符を買えたぐらいで喜ぶものなのかと、苦笑いしている。ちゅうじんは自分の切符を買い終えると、多田と立ち位置を逆にするために、横にズレた。自分の番が来た多田は、鞄の中からいつも通勤で使っているICカードを取り出すと、カードトレーにICカードを挿入する。隣でそれを見ていたちゅうじんは、驚きの表情を浮かべた。それもそのはずで、ちゅうじんはICカードの存在を今初めて知ったからだ。
「なあ、今入れたカードって何なんだ?」
「ん? お前はこれ見るの初めてか」
「そうだぞ」
「これはICカードって言ってな。普段は通勤通学する人が使うことが多いんだが――」
ちゅうじんにそう訊かれた多田は、ICカードについて簡単に説明をし始める。多田の説明を聞いたちゅうじんは、地球にはまた便利なものがあるのだと、知ることができて満足そうな表情を浮かべた。
そう説明している間にも、多田はカードの残り残高を確認すると、財布を取り出して、これから向かう駅までの金額を券売機に投入した。すると、投入された金額が表示され、決定ボタンが表れる。多田がそのボタンを押すと、少し間を空けてからカードトレーにカードが戻ってきた。
「よし。これで定期区間外でもこのICカードを使用できるようになるんだ」
「入れたお金が消える代わりに、ICカードにそれが入ってるなんて不思議だな。今度どういう構造になってるのか調べてみるぞ」
「そうしろそうしろ。んじゃあ改札潜って、電車を待つとするか」
多田とちゅうじんは、そのまま改札をそれぞれICカードと切符で通ると、京都市方面のホームへと向かった。
ホームとホームは地下通路で繋がっているので、そこを通ってホームへと進んでいく。ちゅうじんは前回はそこを通らなかったので、ワクワクしながら歩みを進める。二人は地上のホームへと続く階段を上ると、ホームに着いた。今日は平日なので、ホームにはたくさんの人が立っている。
「やっぱりこの時間帯って人が多いんだな」
「前に電車に乗ったのもこの時間帯か?」
「そうだな。あの時は多田が家を出てから三十分ぐらい経ってたし」
「今更だが、何で俺の会社に来ようと思ったんだ?」
ちゅうじんが当時のことを思い返しながら喋っていると、多田は素朴な疑問が思い浮かんだので、ちゅうじんに訊いてみる。
「何でって、単純に多田の会社がどんなところなのかこの目で確かめたかったからだぞ」
「な、なるほどな」
多田はその成果はどうだったのかとちゅうじんに訊いてみた。すると、思っていた以上の収穫が得られたらしく、これで上司に怒られずに済むとちゅうじんは嬉しそうに返事をする。
待っている間にそう話をしていると、電車がホームへと入ってきた。今回乗るのは前回と違い、特急列車だ。前に乗ったものと外装が違い、座席も背もたれの部分が長くなっているパターンなので、ちゅうじんは今からこれに乗れるのかとはしゃいでいる。
そんなちゅうじんに、一旦落ち着けと手のひらでちゅうじんの頭を叩く多田。叩かれたちゅうじんは頭を押さえながら、電車に乗るのを待つ。電車から降りる人がいなくなると、順番に待っていた人が乗車していく。多田とちゅうじんもそれに合わせて電車に乗り込んだ。
結構な人が降りたばかりで、席がチラホラ空いているのを見かけた多田は、ちゅうじんに一つ提案する。
「座席空いてるし、せっかくだから座るか?」
「そうだな!」
多田が提案すると、荷物を座席の網棚に置き、ちゅうじんは窓側の席に、多田は通路側の席に座った。先に席に腰を下ろしたちゅうじんは、案外ふかふかで座り心地が良いと感動している。多田が続いて座ったところで、電車の扉が一斉に閉まった。発車ベルがなると、電車は徐々にスピードを上げて進んでいく。多田たちが降りるのは終点なので、このまま乗り続けていれば着くだろう。多田がスマホを見ている中、ちゅうじんは情報収集のためか外の景色を見ていた。電車はしばらくすると、トンネルに入り、窓の外は真っ暗になる。
「なあ、多田」
「今度はなんだ?」
「急に外が真っ暗になったけど、どうしてなんだ?」
トンネルの存在を知らないちゅうじんは、隣に座っている多田に尋ねた。多田はスマホから目を離すと軽く説明を入れる。ちゅうじんはある程度理解したら、再び窓の外に目を向けた。
何だか、ちゅうじんが来てから異様に物事に対する説明が上手くなったような気がするんだよな……。
多田は横目にちゅうじんを見つめると、再びスマホの画面に視線を落とした。
それから一時間が経過し、あっという間に、終着駅に到着するアナウンスが車内に流れた。そのアナウンスを耳にした乗客は、皆入り口の方に移動し始める。それと同時に電車の速度が落ち始めた。
多田はそろそろかと思いつつ、スマホの電源を落とし、電車が停車するのを待つ。同じくちゅうじんも両膝の上に置いていたキャリーケースを手で持ち始める。二人の降りる準備が整うと同時に、電車が停車して入り口付近にいた乗客が降り始めた。
多田とちゅうじんは完全に停車したのを確認すると、網棚に置いてあった荷物を取って下車する。
「それで、これからどう進むんだ?」
「えっとな。駅の出口で親父が待ってるからそこに向かうことになるな。人が多いからちゃんと着いてこいよ」
「勿論だぞ!」
多田の言う通り、人混みで迷子になりそうな中、ちゅうじんは多田の後を着いていく。ホームから出て、改札に切符を通すと、二人は地上に続く階段を上っていく。そうして階段を上りきると日差しが差し込んできた。多田とちゅうじんが駅の出口に着くと、近くで一郎が待っていた。
「よく来たな! ここまで長かっただろう」
「久しぶりだな。一郎!」
「やっぱり来ない方が良かったかもしれない……」
かれこれ一時間半近くかかったので、若干疲れが見えている多田とちゅうじん。一方、出迎えてくれた一郎はアホみたいに元気で、その高いテンションが多田をさらに疲れさせた。そう会話をしながら、多田たちは一郎に連れられて、駅の近くにある駐車場へと到着する。
その駐車場にはやけに高級な車が駐車されていた。一郎は、その車の前で足を止めると、ここからの移動方法をちゅうじんに説明し始める。
「ここから俺の家まではもう少し距離があるから、ここからは車移動だ」
「おお〜! これってもしかしてベ○ツじゃないか?」
「よく分かったな! そうそう俺の愛車の一つなんだが……っと、その話は運転しながらでもできるから、まずは荷物を積んで乗ってくれ」
ちゅうじんに愛車の車種を当てられて、上機嫌な一郎はそのまま愛車語りを始めようとするが、多田から何でも良いから早く乗せろという視線を感じると、二人に荷物を後ろのトランクに乗せるように言った。二人は一郎に言われるがまま、後ろのトランクに荷物を積み終わると、後部座席に乗り込んだ。一郎は二人が乗ったのを確認すると、そのまま車を発進させるのだった。




