第49話 実家にいらっしゃい (前編)
家族が家に来てから一週間が経った頃。多田は無事に有給を取得し、明日は多田の実家に向かう日となっていた。向こうに滞在するのは三日間。多田がビーチバレーで取得した有給は、いつの間にか今回の滞在期間を除外すると、残り一日となっていた。
「こんなことなら卓球参加しとくんだった……」
「ドンマイだぞ。というか元から配布されてる有給はどうしたんだよ?」
「あれはな。うちの会社ではほぼないものとして扱われてんだよ。だから、実質天災でも起こらない限り、俺に休みは無いんだ……」
己の会社を恨む多田。妙魅ツアーズは旅行会社ということもあってか、休みなしの年中無休制なのだ。例え、有給制度があろうがそれを使っている暇もないほどに忙しく、特に多田の勤める企画課は人手不足な割に仕事量が多いので、尚更休みたくても休めない状況にある。
「とにかく、明日からの三日間で休めるだけ休みたいところだな……」
「……もういっそのこと、転職でも考えたらどうだ?」
「俺もそれはチラッと考えてはいるんだが、そう簡単には辞められないのが現実なんだよな。別に人間関係はそれほど悪くはない……と思うし」
多田は企画課のメンツを頭の中に思い浮かべる。
下条は抜けてるところと書類作成が苦手ってのはあるが、良いやつだし、ジュリアもアホだけど仕事には熱心だし。王子は性格に難ありだが、仕事はできるやつだからまあ、良いだろう。夜宵先輩は……性格に難ありで、時々仕事を押し付けられる時もあるけど、基本的には頼れる人……だろうし。課長は中間管理職で押し潰されそうになってるところはあるし、大量のノルマを押し付けてくるけど、根は良い人だからな……。
改めて企画課のメンツを振り返ってみると、多少思うところはあるが、チームとしての纏まりはあるため、人間関係的には多分大丈夫なはずだ。多分。
「おーい。どうかしたか多田? さっきから黙り込んでるけど……」
「あー、いや、企画課の連中をちょっと振り返っていたというか……。それよりも、明日の準備は終わったのかよ?」
「ほら! ちゃんとしてあるぞ!」
「んー、どれどれ……」
ちゅうじんが自信満々に言ってくるので、多田はちゅうじんの荷物を確認する。何だか、やけにリュックの方が膨らんでいる気がするが、取り敢えず中身を検分しようと、多田は明日持って行く用のリュックと手さげ袋のチャックを開けた。
すると、中には着替えや歯ブラシセット、ペット用品を始めとした必需品の他にゲーム機や漫画、スナック菓子が収納されている。これを見た多田は思わず、ため息を吐く。
「あのな……。沖縄に行く前にも行ったが、そんなに荷物は要らないだろ?」
「えー、だってお泊まりだぞ。みんなそれぐらいは持って行くだろ?」
「にしてもこれは多すぎだ。あまり荷物が多いと、電車に乗る時に迷惑だからな。もう少し量を減らせ」
「ちぇっ。分かったぞ」
多田に入れすぎと指摘されたことに腹が立ったのか、ちゅうじんは文句を垂れながらリュックの中の物を抜いていく。
一方の多田は、何回言っても学ばないやつだなと、目の前にいる人外に頭を抱えた。
多田の実家は京都市にあるため、そこまで行くには電車を利用しなければならないのだ。その駅影響で、大量の荷物を持って乗り込むと周りの乗客に迷惑がかかる。多田はそこまで考えてちゅうじんに注意をしたのだが、そこまで気が回っていないちゅうじんは、小言を言いながらスナック菓子や漫画を抜いていくのだった。
◇◆◇◆
そして翌日。無事に昨日のうちに準備を終えた多田たちは、駅に向かうために出かける用意をしていた。向こうに着くのは大体十四時ごろになるので、それに合わせて電車に乗らなければいけないのだが、ちゅうじんがやらかしてしまい、それどころではなくなってしまったのだ。
「何やってんだよ……。流石に浮かれすぎじゃないか?」
「すまん……」
何をやらかしたのか、多田に向かって謝罪の言葉を述べるちゅうじん。そんなちゅうじんと多田の目の前には、割れたお皿が散乱していた。簡単に状況を説明すると、ちゅうじんが食器を片付けている最中に、手を滑らせてお皿を割ってしまったのだ。
「これじゃあ電車に間に合わんな。取り敢えず、散らばった皿の処理が優先だな。ちゅうじん、念力で一気に皿の破片を集められるか?」
「おう!」
「よし、それじゃあ集め終わったら新聞紙に包んで捨てておいてくれ。俺はその間に次の電車の時間を調べるのと、親父に連絡入れてくる」
「了解だぞ!」
ちゅうじんがさっそく念力を使って、割れたお皿の破片を集める。そうしている間にも、多田はリビングの外に出て、スマホの電源を入れた。駅まで迎えに来てくれるという一郎に連絡を取るために、電話帳のアプリを起動して、該当する項目を探し出す。多田一郎という文字が見えると、多田はそこをタップする。少しして、電話の呼び出し音がなると、電話の向こうから一郎の声が聞こえてきた。
『おー、どうした?』
「うーたんがちょっとやらかしてな。そっちに行くの遅れそうだから、一応連絡しといたほうが良いと思って」
『了解だ。別にゆっくりで構わんからな』
「助かる。それじゃあ」
多田は一郎に要件だけ伝えると、すぐに通話終了のボタンをタップし、スマホの電源を落とした。そうして連絡を終えた多田は、ちゅうじんのいるリビングの扉を開ける。中に入って様子を見てみると、ちゅうじんは指示通りに後処理を終えたようで、今は手を洗っているところだった。
「無事に終わったか?」
「おう! バッチリだぞ。甘野さんの講座の時にも何回かお皿を割ったことがあったから、後処理には慣れてるしな」
「そ、そうか……」
うちのバカが手間かけやがって、本当申し訳ない……。
多田は心の中で、甘野に謝罪する。すると、ちゅうじんは手を洗い終わったようで、すぐに外に出かける用の服に着替えるために、自室へと走っていった。
ちゅうじんのやつ、慌てるからやらかすんだよな。もう少し落ち着きという物を持って欲しいところだ……。
多田は走っていくちゅうじんを見送ると、自身も着替えるために自室へと向かった。
そしてちゅうじんと多田が着替えるために自室に向かってから十分ほど経った頃。先に着替え終わったのはちゅうじんのようで、リビングに入っていく。いつも家で来ているラフな格好とは違い、白の厚手のシャツに黒ズボン、最近は肌寒いので上に茶色のコートを羽織っている。
ちゅうじんはリビングに入ると、キャリーケースを持って犬小屋の方へと向かった。先日一郎に言われた通り、今日はベンジャミンも連れてきて良いらしい。
「ほら、出てきて良いぞ〜」
「ばふばふ!」
ちゅうじんは犬小屋のゲージの扉を開けると、そこからベンジャミンを出してやる。窮屈そうにしていたベンジャミンは、飼い主の周りを何周か歩き回ると、大人しくキャリーケースの中に入っていった。
ちゅうじんはベンジャミンが中に入るのを確認すると、キャリーケースの入り口を閉じる。すると、ちょうど多田が戻ってきたのか、大きめのバッグを持ってリビングの入り口で待機していた。
「それじゃあ行くか」
「おう! お泊まり楽しみだぞ〜」
こうして、出かける準備を終えた二人と一匹はキテレツ荘を出て、駅へと向かうのだった。




