第46話 家族が家にやってきた!
手紙が送られてから数日が経った。今日は仕事が午前中のテレワークのみなので、今は自室に篭って会議中の多田。だが、会議が長引いているせいで、なかなか終わる気配がない。予定では十二時に終わるはずが、時計の針は十三時を過ぎていた。
最も会議の内容は企画書の提案だけで、やるべきことはもう終わっているのだが、いかんせん雑談の時間が長い。
まだ終わらないのかよ……。もう王子に至ってはアイマスクつけて寝てるし。
課長が良いと言うまで、接続を切ってはいけない謎ルールが存在するので、抜けるに抜けれないのだ。多田は頬杖をつきながら終わるのを待って、夜宵はあくびをしながら課長の長話を聞いている。ジュリアは裏で絶対アニメ見てるよなという表情をしていた。
もうそろそろこの長話も終わるかと多田は思うが、課長はまだ終わる気はないようで、また新たな話題を切り出してくる。我慢の限界に達した多田はミュートボタンを押した。これでこちらの声は聞こえないので、多田は盛大にため息を吐く。
「もう予定の時間から一時間は経ってるぞ……。課長の話長いんだって」
多田はミュート状態になっているのを良いことに、言いたい放題愚痴をこぼす。課長の話はまだ終わらない。下条は今日は出張でこの会議には参加していないので、出張の下条が羨ましく思えてくる多田だった。
◇◆◇◆
一方、多田の会議がなかなか終わらないので、痺れを切らしてソファから立ち上がるちゅうじん。
「誰だよ。十二時までって言ってたやつは。もうヒル○ンデスも中盤に差し掛かってるってのに……」
「ばふぅ……」
ちゅうじんはぶつぶつ文句を言いながら、キッチンへと向かう。ベンジャミンもお腹が空きすぎて、だらんと床に寝そべっていた。テレビの音がリビングに流れる中、昼食の準備を進めていくちゅうじん。冷蔵庫の取手に手を伸ばすちゅうじん。
今日ぐらい手を抜いても良いだろうと、ちゅうじんは朝からスーパーに行って蕎麦を買ってきたのだ。ちゅうじんはそれを冷蔵庫から取り出すと同時に、鍋に水を入れて火をかける。
そうして蕎麦を茹でる準備をしていると、家のチャイムが鳴った。ちゅうじんは誰だろうと思うが、今は料理中で手が離せないので、多田に出てもらうことにするちゅうじん。ちゅうじんがチャイムに出る気がないと察したベンジャミンは、チャイムが鳴ったことを知らせに多田の部屋へと向かった。
ベンジャミンは多田の部屋の前に到着すると、爪で扉をカリカリする。中にいた多田はそれに気づくと、ミュート状態を解除してこう言った。
「あの、家に誰か来たみたいなので、これで失礼します」
『おー、長話して悪かったな。それじゃあ会議もお開きとするか』
課長は画面越しにそう言うと、zoumを閉じた。次第に多田のパソコン画面もホームへ戻る。それを確認すると、多田は自分の部屋を出るために扉に手をかけた。
一方のベンジャミンは多田が出てくる気配を感じると、リビングへと戻っていく。多田は自分の部屋から出ると、まっすぐ玄関の方へと向かった。
配達が来る予定なんてないし、もしかして大家か甘野さんあたりか?
多田はそう思いながら、靴を履いて扉を開ける。すると、そこには意外な人物がいた。
「はーい。どちら様で――」
「元気にしてたか?」
「久しぶりね〜」
「え、何でこんなところにいるんだ……」
多田の視界に入って来たのは、大家でも甘野でもない多田の両親と妹の亜莉朱だった。両親は久しぶりに多田の顔を見たのか嬉しそうな表情を浮かべていた。だが、そんなことよりも多田は突然の訪問に驚きを隠せない。多田がポカーンと口を開けていると、母親の祥子が口を開いた。
「あら? もしかしてあの手紙読んでないの?」
「ん? あー、そう言うことか……」
祥子にそう言われて、数日前に送られてきた手紙のラストに書いてあったことを思い出す多田。合点の言った多田は心の中で、せめてこっちに来るタイミングぐらい書いとけよ、と愚痴る。
すると、両親の背後からひょこっと亜莉朱が出てきた。彼女は長い髪をポニーテールで括っており、ロングスカートにダボっとした服を身に纏っている。前にあった時よりもいくらか身長が伸びているので、成長したなと思う多田。
「なに見てんのお兄。せっかく来てあげたんやから、はよ家ん中上がらせてーや」
「え? あー、ちょっと今立て込んでて見せられる状態じゃないと言いますか……。って勝手に上がるなよ!」
そう言って家に上がろうとする亜莉朱。多田は、今見られたら非常にまずいことになるので、必死に止めようとする。だが、亜莉朱はそんな多田の声を無視して、ズカズカと家の中に入っていく。
「それじゃあ、お邪魔するわね」
「え、ちょっと⁉︎ こら待たんかい!」
亜莉朱に続いて両親まで家の中に入ろうとするので、止めようとするが案の定それも無視されてしまう多田。あまりの勝手さに思わず、多田の口から関西弁が出てしまった。多田は本日何度目かも分からないため息を吐くと、中に入って玄関の扉を閉めて施錠する。
「全く、うちの家族は本当に勝手すぎる……」
多田はそう呟くと、先に行った三人の後を追いかける。すると、先にリビングに入っていた亜莉朱が声を上げた。何かあったのだろうかと思い、多田は急いでリビングの方へと向かう。
「え、嘘やん。お兄……」
「ど、どうした? って……はい?」
「ほお〜、これはこれは」
亜莉朱の目線の先を辿ると、そこにはちゅうじんがいた。いや、正確には何故か女性の姿になってエプロンを身につけているちゅうじんが。ちゅうじんは突然現れた多田の家族を見て、固まってしまっている。
「え、えっと……お邪魔してまーす」
取り敢えず何か喋らなければと思ったちゅうじんは、額にダラダラと汗をかきながらしまったという顔をしてそう言うのだった。




