第42話 夏祭り (その弐)
そして迎えた夕方。電車を乗り継いで伏瀬大社の最寄り駅へと着いた多田とちゅうじんは、貰ったチラシを見ながら神社へと歩いていく。今回は花火が上がるので煙たくなるのと、人混みでもみくちゃにされそうということを踏まえて、ベンジャミンはみやびのところで留守番だ。
「えーっと、しばらくは一本道を進むだけで良いんだよな?」
「ああ。大抵こういうのは、人の流れに着いていけばなんとかなる」
多田はそう前に歩いているカップルを見ながら、ちゅうじんに言った。ちゅうじんはそういうのもなのかと思いながら、多田の言う通りにカップルの後を着いて行く。多田はふと、周囲を見回してみると、やけにカップルらしき人たちが多いように思えた。
あれ、伏瀬大社ってそういう系の神社なのか? それともただの偶然?
ボーっと考えながら歩みを進めていると、ちゅうじんに声をかけられた。
「なあなあ、そう言えば多田って恋人とかいたりするのか?」
「……はあ⁉︎ なんだよ急に。てか俺の思考を勝手に読むな!」
「痛ッ! 力加減考えろよ」
唐突そう問いかけられたため、大きな声を出しながらちゅうじんの頭を叩く多田。まさか、ちゅうじんからそのような言葉が飛んでくるとは思っていなかったので、心でも読まれたのかと思ってしまう。
だが、ちゅうじんは読んでないと否定する。本当か? と多田が疑いの目を向けていると、ちゅうじんが続けてこう言った。
「やけに恋人が多いから、多田はどうなのかと思って」
「んー、なるほどな。あ、ちなみにそう言うのはいないぞ。断じていない」
「そうなのか? 案外モテそうな性格してるのに」
「え……? マジで?」
ちゅうじんからそう言われた多田は、本当かと訊き返す。するとちゅうじんは頷き、その理由を述べていく。
「え、だって普通に優しいし、面倒見良いだろ? それに真面目だし」
「お、おう……」
「ただ、仕事人間すぎるのは残念だけど……」
「おいおい。でも、実際忙しすぎて作る暇がないってのはあるんだよな」
そういえば昔から仕事人間というか、頼られるというか仕事を押し付けられるというか……。そんなことが多かったっけな。
多田はそう思いながら、過去を振り返ってみる。小学生の時の多田はよく喧嘩の仲裁やら、相談やらに乗られることが多かった。それは中高も一緒で、部活の助っ人やら生徒会の手伝いやらを剣道部と両立しながらこなしていたのだ。
そのため、この会社に入る前から寝不足の日々が続いており、まだ学生にもかかわらず目の隈の濃さが尋常ではなかった。
そう振り返ってみると、小学生の頃から本質的にはあんまり変わっていないようだ。多田はその事実にため息をつく。
まだ、二十代半ばだし仕事なんていくらでもあるからな。流石に今の会社のままだと本気で潰れそうだ。お金も言うほど貰えてないし、こりゃあ真剣に転職を考えた方が――
そう多田が思っていると、ちゅうじんがあっ! と声を上げた。
「ん? どうした?」
「ここじゃないか?」
「あー、そうだな。ここで合ってると思うぞ。現にジュリアと王子が待ってるからな」
ボーッと考え事をしながら歩いていたため、気付かなかったが伏瀬神社に着いたようだ。既に王子とジュリアも揃っているようで、多田たちを発見すると手招きする。多田とちゅうじんは待っている二人の元へと向かう。
「どうも多田さん、うーさん」
「はい、待たせた罰としてチョコバナナ人数分奢りな」
「え、やったー!」
「ボクも食べたいぞ!」
薄い水色の生地の浴衣をきたジュリアが笑顔で挨拶する。一方の王子は会って早々、無茶な要求を多田にした。
「はあ? まだ集合時間まで五分もあるだろうが」
「でも、待たせたことには変わらないでしょ」
「チョコバナナ! チョコバナナ!」
「はあ……分かったよ。王子、後で覚えとけよ」
一人分ならまだしも、人数分奢らなければならないことに多田は頭を抱える一方、後で王子には制裁を与えようと心に誓う。
そんなこんなで全員揃ったところで、一の鳥居を潜って、屋台が並んでいる参道を進んでいく。まだ夕方にもかかわらず、たくさんの人がお祭りを楽しんでいるようで、ガヤガヤとした声が多田の耳に入ってきた。
「マジで人気なんだな」
「そりゃあそうですよ。ここはお狐様だけじゃなくて、縁結びの神様も祀られているんですから。カップルが多いのも当然です」
「な、なるほどな」
ジュリアはそう早口で語る。ジュリアは神社仏閣オタクで、もういっそのこと神社省にでも転職した方が良いのでは、と思うぐらいには詳しい。だが、とてもジュリアの頭では入れるような場所ではないし、何かと条件があるらしいのだ。前に多田が気になって調べてみるも、その条件とやらは明記されていなかった。まあそれはともかく、ジュリアがここに入ったおかげで、あの怖い夜宵も少しは丸くなったらしいので、良いとしよう。
ジュリアは参道の中央を通らないように歩き、それに合わせて多田と王子も歩みを進めていく。その一方で、王子は参道の中央を堂々と進んでいた。すると、ジュリアが多田の肩を叩いて話し掛けてくる。
「あの、荷物持っててもらえませんか?」
「え? あ、うん」
「ありがとうございます。……何やっとんのじゃこの腹黒王子ぃー‼︎」
「え? ちょっ! グハァ!」
ジュリアは多田に荷物を預けると、王子に向かってドロップキックをキメた。無事にクリーンヒットしたようで、王子は参道の隅の方でうずくまっている。それを見た多田は、ジュリアも絶対に怒らせちゃダメなやつだと思うと同時に、いい気味だなと内心ほくそ笑む。
「流石は元バレー部のジャンプ力だな」
「かっこよかったぞ!」
「あはは。ありがとうございます。神様に対して失礼な好意を取った輩に、制裁ができて良かった良かった〜」
ジュリアは多田から荷物を受け取ると、笑顔でそう言った。いや、厳密には目が笑っていないのだが。多田とちゅうじんはよくやったとジュリアを褒める。
「お、多田……ちょっと肩貸して」
「自業自得だ。ちゃんと反省するまでチョコバナナ奢ってやらんからな。それじゃあさっさと回るか」
「ですね!」
「おう!」
王子にそう言われるも、ざまあみろと言った表情で言い返す多田。ジュリアが制裁を加えてくれたので、多田は自分からの制裁は後日で良いかと考える。見事罰を喰らった王子を放って、屋台を回り始める多田たち。ジュリアがまずは食べるものを食べてしまおう提案したので、それぞれ好きなものを買いに行くことに。
二十分して多田が集合場所である屋台の傍に立つ。多田の手には焼きそばやたこ焼きを始め、人数分のチョコバナナが握られていた。チョコバナナの棒を握る手は、もはや鉤爪を持つような感じになっている。
多田の指が疲れていく中、ジュリアが戻ってきた。ジュリアはたこせんの入った袋にかき氷、たこ焼きが握られている。先ドロップキックを喰らった王子は先ほど買いに行き始めたばかりなので、残すはちゅうじんだ。どれだけかかってるんだと思いながら待つこと十分。
「待たせたな!」
「おかえりなさいって、ええ⁉︎ 何ですかその量」
「流石に買いすぎというかどうやって持ってんだ……あっ」
「ふふん! 食べたいもの全部買ってたら遅くなった」
ちゅうじんの手には、焼きそばやたこ焼き、かき氷にたこせん、りんご飴など大量の食べ物が握られている。それを見たジュリアと多田は驚く。多田はどうやってその量を持っているのかと疑問に思ったが、若干食べ物が浮いていることに気づき、念力を使ったなと思った。
「それじゃあ食べますか!」
「そうだな」
「早く食べてチョコバナナ受け取ってくれ……袋で包んでいるとはいえ、流石にこの体勢はキツい」
「分かったぞ!」
そんなこんなで王子を待たずに、買ったものを順番に食べ進めていく多田たち。遅れて戻ってきた王子はちゅうじんと多田の状況に思わず、どういうこと? と呟くのだった。




