第38話 美ら海水族館 (中編)
高速バスに乗ること二時間。途中の道も空いており、予定よりも早く沖縄海洋博公園に着いた多田たち。ここは公園内に水族館があるので、そこまで歩く。沖縄海洋博公園は海に面しているため、遠くから海の景色も堪能できるのだ。公園を歩いているだけでも、ワクワクの表情を見せてるちゅうじん。ベンジャミンも舌を出しながら歩みを進める。一方、これから苦手な場所に行くということで多田の顔は死んでいた。
「あ、見えてきたんじゃないか?」
「ばふ!」
「あ゛ー、帰りたい。今すぐキテレツ荘に帰りたい……」
ちゅうじんが水族館の建物を指差しながらそう言うが、多田の気分は一向に上がらない。心なしかいつもより覇気がないような気がする。そんな多田を見たちゅうじんはため息を吐くとこう言った。
「せっかく来たんだからもうちょっと元気出せよ」
「元気もクソもねえわ。なんでわざわざ沖縄に来てまで、苦手なところに行かなきゃならねえんだよ」
「ばふぅ……」
ちゅうじんがそう言うも、多田のテンションはみるみるうちに下がっていく。いつもはキレッキレのツッコミも水族館に来たからか、鋭さが消えていた。ちゅうじんは多田の言葉にどう言い返したら良いか分からず、口を閉じてしまう。ベンジャミンも情けない声を出す。
そんなこんなで歩いていると、水族館の入り口まで来た。水族館の周囲にはたくさんのハイビスカスが咲いており、いかにも沖縄な雰囲気を味わえる。
ちゅうじんは取り敢えず、なかなか入ろうとしない多田の背中を押しながら館内に入ると、受付でチケットを購入しに行く。
「本日はお越しくださりありがとうございます。チケット枚数をお教えください」
「えっと、二枚で」
「かしこまりました。それでは合計で四千二百八十円になります。加えてペット料金も必要になります」
「おお……」
案外高いな……。
金額を聞いたちゅうじんは思わずそう思ってしまう。だが、払わないと入場できないので、手持ちの財布からお金を出した。使い物にならない多田には、後から徴収することに決めたちゅうじん。少しすると、スタッフの人からチケットを受け取る。無事にゲットしたちゅうじんは多田にチケットを渡しに行く。
「ほら、買ってきてやったぞ」
「悪いな。ほい」
多田にチケットを渡すと、代わりにチケット代の料金ぴったしの現金が返ってきた。ちゅうじんはそれを受け取ると、財布の中に現金をしまい、鞄の中に財布を入れる。多田はそれを見届けると、足早に海人門と呼ばれるゲートを潜った。それに続いてちゅうじんとベンジャミンもゲートを潜る。
展示のある階は三階なので、まずはそこの入り口へと向かう。道中はエスカレーターで行くことができるので、それに乗って入り口へと辿り着く。しばらく進むと、珊瑚と熱帯魚の水槽がちゅうじんたちの真下にあるのが見えた。
「おお〜! 珊瑚って初めて見たぞ!」
「ばふばふ!」
「へえ……」
初めて見る珊瑚礁や熱帯魚にちゅうじんは感動の声を漏らしている。ベンジャミンも同様に目をキラキラさせているようだ。太陽の光に照らされて、珊瑚がキラキラとエメラルド色に輝いているのが分かる。
多田もチラ見するが、その綺麗さに声を漏らす。ちゅうじんが真上からの景色を楽しんでいると、近くに下へと降りる階段があるのを発見した。
「なんだあれ?」
「多分、下に降りたら水槽の中を間近で見られるんだろ」
「それ本当か⁉︎ なら早く行こう!」
「ばふぅ!」
そう言いながら下へと続く階段を降りていくちゅうじんとベンジャミン。多田は子供かと小さな声で呟くと、ちゅうじんの後を追うように歩き始めた。
下に降りてみると一気に視界が暗くなる。部屋全体の照明が落とされており、水槽の中がよく見えるようになっているようだ。ちゅうじんは先ほど真上から見た珊瑚の水槽を見つけると、じっくりと観察し始める。
「真上から見るよりももっと綺麗だぞ」
「おー、そうだな」
ちゅうじんの言葉に棒読みで返す多田。何がそんなに楽しいのかという表情を浮かべながら、ちゅうじんの様子を見守る。ある程度見終わり、次は熱帯魚が展示されている大きな水槽へと目を向けるちゅうじん。そこにはさまざまな種類の熱帯魚がおり、子供たちもたくさんの魚を見ようと目をキラキラさせていた。すると、水槽を見ていたちゅうじんから多田に声がかかる。
「なあ、あの青くて黒い縞模様の入った魚って……」
「ああ、確かファインディング○モに出てくるやつだな。元の名前はナンヨウハギだった気がするが」
「へえ〜、やっぱりそうなのか」
その口ぶりだとちゅうじんも例の映画を見たことがあるようだ。ちゅうじんの質問から少し経過すると、今度はほとんど光の入らないスペースへと進んでいく。辺りは真っ暗でほとんど何も見えない。足元に気をつけながら進んでいくちゅうじんと多田。通路の横にある水槽を見ていくと、明るい光が見えてきた。それに沿って進んでいくと、珊瑚礁と熱帯魚のエリアはここまでと書かれた看板が見える。
「いや〜、凄かったな!」
「ばふばふ」
「あ゛ー、疲れた……」
水槽を見た感想を述べるちゅうじん。ベンジャミンもその言葉に頷くように首を縦に揺らした。一方の多田は、すでに疲れたのかため息をついている。そんな多田にちゅうじんは情けないと返した。
さっそく次のエリアへと向かうちゅうじんたち。お次は黒潮エリアという、超巨大水槽が拝めるエリアらしい。エリアの入り口から中に入ってみると、そこには壁一面の巨大水槽が待ち構えていた。
綺麗な青色の水槽の中には、ジンベイザメやナンヨウマンタを始めとした、回遊魚がたくさん泳いでいるのが窺える。
「おお〜! ジンベエザメでっか! めちゃくちゃ迫力あるぞ!」
「ばふばふ!」
ちゅうじんはジンベエザメの大きさに思わず驚きの声を上げる。ベンジャミンもその大きさに興奮しているようだ。後からついてきた多田も、おお……と声を漏らす。すると、ジンベエザメの大きな口が開いた。どうやら餌を食べるようで、どんどん海水と共に餌が吸い込まれていく。
「凄いな〜!」
「ばふぅ〜」
流石世界最大級の大きさをしているだけのことはある。また、ジンベエザメ以外にも魚が群れで固まって動いている姿にちゅうじんは圧倒されていた。満足するまで水槽を眺めると、張り紙の誘導矢印の通りに進んでいく。
「ん?……おお! マジか」
「ばふばふ!」
「うわっ、デッカ!」
ちゅうじんは頭上に何やら気配を感じたのか、真上を見てみると先ほどのジンベエザメが泳いでいた。そう、この黒潮エリアの天井はアクリルパネルとなっているのだ。そのおかげで、巨大水槽よりも遥かに近くで魚を見ることができる。
その後も、水槽を見ては歩いてを繰り返しているとあっという間にエリアの出口へと出た。
「多田、凄かったな!」
「ああ、そうだな」
「よーし、それじゃあ次は――」
「ちょっと待ってくれ」
黒潮エリアを見終わったところで、水族館のパンフレットを見ながら次に行く場所を探そうとするちゅうじん。すると、多田からストップがかかった。どうしたのだろうとちゅうじんが聞いてみる。
「ん? どうかしたか?」
「あー、俺、疲れたからさ。ここからはちゅうじんとベンジャミンの二人で回ってくれないか?」
「んー、分かった。何かあったらスマホで連絡してくれ」
「了解。それじゃあ俺は近くの休憩スペースで休んでるよ」
ちゅうじんはそういうと、次のエリアである深海エリアへと歩いていく。それを見届けた多田は、近くにある休憩スペースの椅子に腰を下ろすのだった。




